ADHDやASDなどの発達障害をもつ人々は、社会において「生きづらさ」を感じることは少なくありません。その生きづらさを軽減させるためには、周囲の理解が欠かせません。本記事では、発達障害の人々が抱える生きづらさの理由を紐解き、今後の社会が目指すべき姿について考察していきます。※当記事は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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幼児期に必要なのは「地頭を鍛える」こと

幼児教育というと、記憶力のよい時期に知識を詰め込むというイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、この時期に本当に大切なのは、知識をいかにたくさん持っているかどうかではありません。幼児期に必要なのは、地頭を鍛えることです。

 

具体的にいうと、脳の配線をつくるということです。幼児期のうちに、脳の120の領域をつなぐ、高速道路のような回路をつくっておくことが大切です。また、右脳と左脳をフル活用するために、脳梁を太くしておく必要があります。

 

右脳と左脳とで、持っている機能が違うということを発見したロジャー・スペリーがノーベル賞をとったのは1981年のことでした。そして、脳の多くの機能が解明されるようになったのは、1990年代に入ってからです。

 

それまで、脳は暗黒大陸といわれていました。脳は生命の維持に不可欠な器官であるうえに、デリケートな部位なので、生きている間には脳の表面のことしか調べられなかったからです。

 

しかし、PET(陽電子放出断層撮影)やファンクショナルMRI(磁気共鳴画像)ができたことで、生きている動物の脳の血流や、脳の内側の動きを観察できるようになりました。その結果、新たな知見が得られたのはもちろん、今まで常識とされていた知識のうち、間違っていることが明らかになったものもあります。

 

このように、数十年の間に脳に関する知見が更新されているにもかかわらず、古い知識に基づいて構築された幼児教育を行っていては、世界から後れを取ってしまいます。

 

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先進国は続々と幼児教育に予算を投入し、新たな試みを行っています。

 

たとえば、各国で義務教育の開始年齢を引き下げるということが行われはじめています。

 

6歳で能力が固定化してしまうのに、義務教育が6歳からでは遅いと考え、イギリスは5歳で義務教育をスタートさせることになりました。5歳以前も、週に1回のペースで幼児教育を受けられる体制を整えています。

 

フランスでは、2019年から義務教育を3歳より開始しています。カナダでは0歳から1人の子どもに対して1人のベビーシッターをつけるというプログラムが行われています。デンマークでは、「チャイルドナース」という資格制度を取り入れています。チャイルドナースと呼ばれる幼児教育のスペシャリストを育成し、各家庭に派遣するのです。市役所に電話すれば、チャイルドナースが来てくれます。利用時間に制限はありません。チャイルドナースの給与は、稼働時間に応じて国から支給されます。

 

このように、幼児教育の質を上げ、強化するのが世界の潮流なのです。子どもはのびのびと遊ばせておけばよいと考えて、脳が劇的に発達する幼児期に適切な教育を受ける機会を逃してしまうと、いずれ子どもが成長したときにグローバルな人材として活躍するチャンスを失うことになりかねません。

発達障害の子どもが「困りごと」を減らすためには?

6歳までというのがひとつの目安になるのは、発達障害の子どもも同じです。6歳までに適切な療育を受けることができれば、苦手なことを補うための神経ネットワークを構築でき、生きていくうえでの困りごとをずいぶんと減らすことができます。

 

発達障害の子どもは、すばらしい才能を持っていますが、苦手なこともたくさんあります。たとえば、社会の中で生きていくうえで、人とのコミュニケーションで苦労をすることも多いでしょう。

 

ASDであれば、空気を読むのが苦手だったり、こだわりが強かったりといった特性があるので、必要のない摩擦を生むことがあります。

 

「個性」によって、必要のない摩擦を生んでしまうことも…
「個性」によって、必要のない摩擦を生んでしまうことも…

 

しかし、それらは教育次第である程度解消することができます。

 

私の経営している幼児教室のうち、発達障害のお子さんのためのクラスではソーシャルスキルトレーニングも行っています。保護者への指導時間10分を除いた50分の授業のうち、45分は通常のクラスと同じ内容を学習し、残りの5分で体操やソーシャルスキルのトレーニングを行うのです。

 

その中から、じゃんけんの練習をする授業の様子を簡単に紹介しましょう。発達障害の子どもの中には、じゃんけんで負けると、悔しい気持ちを抑えることができずに、「もういやだ!」といって、暴れたり、固まったりしてしまう子がいます。そのままでは、保育園や幼稚園でも困りますし、小学校に入ってからも苦労することは目に見えています。そんな子どものために、じゃんけんの勝ち負けによって生じる感情をコントロールする練習をするのです。

 

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練習では、段階に分けてステップアップしていきます。

 

まず、先生が後出しして負けるようにして、じゃんけんをくり返します。勝った子どもには「やったー!」と喜ぶようにさせ、負けた先生は「ま、いっか」と言います。これを何回もくり返す過程で、先生が「ま、いっか」と言うのを子どもたちはまねしたくなっていきます。

 

次に、普通にじゃんけんをします。先ほどまでは勝ち続けていて喜んでいましたが、今度は普通のじゃんけんなので、当然負けることもあります。じゃんけんで先生に負けると、子どもは負けたことによる悔しさでいっぱいになり、全身が緊張で強ばります。ぐっとこぶしを握りしめ、唇をかんで、ときに涙目で「もうやらない!」と言いだします。そこで、先生は「『ま、いっか』でしょ?」と声をかけます。

 

すると、子どもはハッと気づいて、「ま、いっか」と言います。「ま、いっか」と言葉にした途端に、子どもたちの肩の力が抜けます。先生は、その様子をみて、すかさず「『ま、いっか』ができたね! すごいね! かっこいいなぁ」と大げさなくらいに褒めます。

 

褒められたことで、子どもたちは「じゃんけんで負けても『ま、いっか』と言える自分」というセルフイメージを固めていきます。

 

そのうちに、じゃんけんに負けても「ま、いっか」と自然に思えるようになるのです。

 

こういった練習を何度もすることで、子どもたちは感情をコントロールし、適切な行動を身につけていきます。苦手なことでも練習を重ねていけば、定型的な発達をしている子どもに比べて時間はかかったとしても、次第にできるようになっていきます。

 

また、発達障害で見逃されがちなのが、運動の問題です。発達障害の子どもは、座っていられずに寝転びたがる傾向が見られます。これは体幹が弱いからなのですが、学校では席に座って数十分におよぶ授業を受けなければなりません。公共の場で座っていられず寝転び始めたら、周囲から冷たい視線を浴びることでしょう。

 

そこで、私の運営する教室では、運動の時間を設けています。体幹を鍛える方法として、トランポリンで遊んだり、鉄棒にぶら下がったりということを取り入れています。トランポリンは、障害児教育での有効性が認められ、よく取り入れられている遊びのひとつです。

 

このように、苦手なことでも幼児期に楽しく練習していけば、多少時間がかかったとしても解消することができるのです。

「無理やり枠にはめられてしまう」子どもが少なくない

発達障害の子どもがいきいきと社会で能力を伸ばしていくためには、それぞれの子どもに合った教育を提供できる環境が必要です。定型的な発達をしている子どもと、発達障害とされる子どもとが、お互いの特性を理解し合い、尊重し合えるようにするためにはどのような環境を整えたらよいのでしょう。

 

現在の発達支援のあり方は、「この子は発達に問題があるから、周りの迷惑にならないように、社会生活が送れるように訓練しましょう」という方向性です。これは本来目指すべき姿ではないと私は考えています。

 

本来目指すべきなのは「この子は特別な発達をしている天才だから、他の人よりも秀でている才能を伸ばせる環境を提供しましょう」という方向性での発達支援です。

 

ROCKETプロジェクトのような特別クラスが小学校にあるというのが、理想的な姿だと私は考えています(関連記事『発達障害の子どもの「こだわり」を活かす最新教育事情』参照)。

 

しかし、発達障害の子どもは、嫌々ながらに社会性の練習をさせられ、枠にはめられてしまっていることも少なくありません。これでは「あなたは他の人と違って上手にこなせないことがあるから、指導を受けてみんなと同じことができるように訓練しましょうね」と言われているようなものです。これでは、本人のモチベーションが上がるはずもなく、自己イメージも下がってしまいます。そして、子どもの中に、自分はダメな人間だという考えが染みついてしまえば、せっかくすばらしい才能を持っているのにもかかわらず、自分は最低限のことしかやりませんという消極的な人間に育ってしまいます。

 

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それに対して、「あなたは人とは違う才能を持っているので、特別クラスに入ってそのすばらしい才能を伸ばしましょうね」という方向であればどうでしょう。自尊感情を傷つけられることもなく、のびのびと自分の好きなことを追求して、能力を余すところなく発揮できることでしょう。そのクラスから、将来、世界を変えるようなイノベーションを起こす人が生まれるかもしれません。自分の好きなことを探究するためにフルに時間を使えたら、誰にも負けない武器を持つ人になる可能性があります。

 

ただここで忘れてはならないのは、特別クラスに通う子が優れていて、普通学級に通う子が劣っているというわけでもないということです。特別クラスに通う発達障害の子どもが、すばらしい才能を持っていることには違いありませんが、普通学級に通う子どものコミュニケーション力や何でもバランスよくこなせる能力も、社会には不可欠なものです。目指すべきは、発達障害の子どもも定型的な発達の子どもも、優劣なく、それぞれが助け合い、尊重し合える社会です。

お互いの「個性」を尊重し合う社会へ

人類というひとつの大きな生き物であるという感覚で生きていけば、それぞれが共生していけるはずです。

 

たとえば、人体には生死に直接かかわるような心臓のような臓器もあれば、切られても痛くもないし何の支障もない爪のような組織もあります。一見、心臓は人体にとって不可欠なもので、爪はささいなものというように感じられます。

 

しかし、指に爪がなければ、物を持つことはできません。指で物を持てなければ、とたんに生活が不便になり、食事もままならなくなって、生命の維持に危機がおよぶかもしれません。取るに足らないと思っていた爪でも、存在しなければ人間の体全体が立ち行かなくなるのです。それぞれの機能が違うだけで、そこに優劣はないのです。

 

人間社会もこれと同じです。すべての人に役割があり、使命を持っています。各々の担う役割や使命に優劣や上下はありません。お互いに感謝し合い、私たちは人類というひとつの生き物なのだという感覚でいけば、共生し合っていけるはずです。

 

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大量生産・大量消費の時代は終わりを告げ、今、価値観の転換が起こっています。世の中は、多様性こそが尊重されるべきであり、価値のあるものなのだというフェーズに入っています。これからは、人と違うことに価値が見出されるようになるでしょう。「この人は一風変わったところのあるすごい人だ」というように認められる社会です。お互いが対等で、ただ役割が違うだけなのです。ともに人類を機能させて存続させるためのパーツなのだから、相互に感謝し合い、助け合うというのが本来の姿です。

 

みんなが一斉にステータスの高いとされる職業を目指して競争する時代は終わりました。親が自分たちの世代の常識にのっとって、子どもをレールに乗せる時代でもありません。

 

それぞれの子どもが、自分らしさを認められ、お互いの個性を尊重し合いながら育っていく。そして、その中から社会を変革するような人材が育っていく。そんな環境が当たり前になるべきなのです。

 

 

大坪 信之

株式会社コペル 代表取締役

 

当記事は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

大坪 信之

幻冬舎メディアコンサルティング

近年増加している「発達障害」の子どもたち。 2007年から2017年の10年の間に、7.87倍にまで増加しています。 メディアによって身近な言葉になりつつも、まだ深く理解を得られたとは言い難く、彼らを取り巻く環境も改善した…

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