新型コロナウイルス感染拡大で日本は緊急事態宣言が出され、外出自粛のパニック状態になった。新型コロナの集団感染が起こったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船し、動画を配信したことで話題となった神戸大学医学部附属病院感染症内科・岩田健太郎教授の著書『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)の一部を抜粋し、リスク・コミュニケーションの観点からパニックによる被害拡大を防ぐための方法を明らかにする。

リスクを効果的に伝える3つのポイント

リスク・コミュニケーションはただ行なうだけではダメです。必ず結果を出さなければなりません。リスクを減らし、かつ不要なパニックを誘発しないような形でのリスク・コミュニケーションでなければなりません。

 

では、どのようにすれば、そのような効果的なリスク・コミュニケーションが可能になるのでしょうか。

 

まずは3つのポイントに留意しましょう。それは、

 

だれが聞き手なのか

状況はどうなっているのか

なんのためにやっているのか

 

です。まずは、「だれが聞き手なのか」 について説明します。

 

岩田健太郎著『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)
岩田健太郎著『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と孫子は言いました。もちろん、リスク・コミュニケーションにおいて聞き手は「敵」ではありませんが、対峙する相手ではあります。相手のことを理解せずに、一方的にこちらからメッセージを発信しても、コミュニケーションはうまくいきません。それは一般的なコミュニケーションにおいて、相手を知らずに一方的に情報発信しても、うまくいくはずがない事実を考えれば、自明ですね。

 

聞き手の科学や医学に対する理解や知識、聞き手が懸念している問題、などを十分に理解することが大事です。科学の知識が十分ある聴衆に、

 

「インフルエンザ・ウイルスはとっても小さくて、目には見えないんだよ~」

 

なんて言えば「バカにすんな」と怒られるでしょう。逆に、小学生の健康教室みたいなところで、

 

「インフルエンザ・ウイルスは、エンベロープを持つマイナス鎖の一本鎖RNAウイルスで……」

 

と説明しても、チンプンカンプンでしょう。両者を入れ替えれば、適切なコミュニケーションが可能になりますね。

 

相手の懸念事項を把握するのも大事です。これは後述する「メンタル・モデル」で詳しく説明しますが、

 

「今度、海外旅行に行くから心配」

「子どもの健康が心配」

「なんだかよく分からないけど心配」

 

と、人はいろいろな理由で心配しています。人によって心配の力点の置き方が違うのです。

例えば、エボラ出血熱について考えてみましょう。

 

海外に行くのであれば、「どこでどの感染症が流行している」という「場所」の情報が重要になります。「今、シエラレオネでエボラ出血熱が流行していて……」という感じです。ざっくりと「アフリカ」では不十分で、より正確な情報が必要とされているかもしれません。

 

でも、「子どもの健康が心配」な場合には、「お子さんが感染する可能性は極めて低いですよ」というメッセージで十分かもしれません。「シエラレオネ」ではチンプンカンプンかもしれませんから、単に「アフリカで流行してます」でも十分な場合もあるでしょう。

 

このように、聞き手によって重要度の高いメッセージは変わり、メッセージの出し方もそれに応じて変わってくるのです。

 

岩田健太郎

神戸大学医学部附属病院感染症内科教授

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