たった20分で視力1.5に…白内障手術が遂げた「スゴい進化」

いまや白内障手術は「安全であること」が当たり前になっていますが、実は約30年前までは、白内障手術は今よりはるかに困難で、非常に原始的で危険な方法がとられていました。今回は、『「見える」を取り戻す白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、近代における白内障手術の変遷について紹介します。※1700年以前の白内障手術についてはこちら

「水晶体の中身を安全に美しく取り出す」時代へ

吉行淳之介という作家をご存じでしょうか。彼は、1985年に『人工水晶体』というエッセイを書いており、説明には、「わずかな光しか感じなくなり、もはや手なずけようがないほどの白内障に病んでいた右眼の視力が、たった20分の手術で1.5まで回復した。人工水晶体移植手術の驚異の体験を簡潔な名文で綴り、講談社エッセイ賞を受賞した」とあります。

 

「人口水晶体」(講談社文庫)
「人口水晶体」(講談社文庫)

 

 

日本では眼内レンズが1985年に認可されますが、吉行淳之介氏はこの認可を待って白内障手術を受け、眼内レンズの恩恵を受けているのです。メガネなしで、1.5の視力を得ることができたようです。

 

一方、作家の埴谷雄高氏は、眼内レンズが認可される少し前に白内障手術を受けていたため、使用しているメガネの左側には非常に分厚い凸型のレンズが入っていました。メガネなしで過ごすことができている吉行淳之介氏を、非常にうらやましがっていたという逸話が残っています。

 

この2人の作家のエピソードが示すとおり、1980年代半ばごろは、従来の術式と現在の術式との端境期だったといえます。

医師としてのキャリアを積む時代に劇的な進歩が

1990年以降というのは、日本でも白内障手術の手法がめざましく進化を遂げた時代でした。私は1990年に医学部を卒業したのですが、医師としてキャリアを積む時期に、白内障の手術は年々目に見えて進歩していきました。

 

ポイントは、

1.私が眼科医になる数年前に、水晶体の中身を超音波で破砕して吸引する術式が確立された(「超音波乳化吸引術」)

2.顕微鏡下の手術(マイクロサージャリー)が普及した

3.嚢内固定の安全な眼内レンズが登場した

上記の3つです。

 

近代的な手術の基礎が整っていく中で、眼科医として成長できるということは、なんという素晴らしいことだったのでしょうか。

水晶体の中身を安全に取り出す方法が確立された

水晶体は、若い頃はグミのように透明で弾力のある組織ですが、加齢とともに、核と呼ばれる中心部が硬くなり濁っていきます。

 

[図表]水晶体の構造

 

この核を安全に取り出すために開発されたのが、超音波乳化吸引装置です。この装置が開発される前は、水晶体をそのままの形で丸ごと取り出すため、角膜の縁をガバッと大きく10〜12ミリ程度切る必要がありました。現在にいたるまで超音波乳化吸引手術により1.8〜2.8mmという小さな切開による小切開白内障手術が確立されたのです。

 

超音波乳化吸引装置は、1967年にアメリカで開発されましたが、日本で普及し始めたのは1980年代後半からです。装置自体は、1990〜1995年頃に大きく進化を遂げました。

 

私が研修医だった1990年頃、京大病院ではまだ超音波乳化吸引装置は導入されていませんでしたが、日本でもいくつかの施設ではすでに臨床の場で使用していました。「そんな得体の知れない装置なんて怖くて使えない」と考える医師と、「どんどん新しいものを取り入れていこう」と考える医師が混在していたのです。

 

1990年頃の装置(第2世代)は、目の中の水流が不安定で乳化吸引しているときに水晶体の入っている袋(嚢)が容易に破れてしまうことや、発熱量が多いため冷却が十分でないと創口に熱傷が生じてしまうことがあるなど、装置としての安全性があまり高くありませんでした。装置が未熟であるがゆえに高い技術と経験が必要な危険を伴う手術だったのです。

 

このあと第3世代以降、どんどん改良や新技術が加えられ、目の中の水流が安定し、発熱量が少なくなり、安全性が高まっていきました。いつの間にか、超音波乳化吸引術は安全性の高い手術になっていたのです。現在は、当院でも第6世代の最新式の装置が活躍しています。ハンドピースは60gにまで軽量化され、操作性が飛躍的に向上しています。また発振にはねじれの動き(縦に加え横の動き)が加わり、核の破砕効率も非常に高くなりました。

超音波乳化吸引装置で手術をしているところです。手に持っているのがハンドピースで、この先端から超音波が出て、水晶体を乳化・吸引していきます。
超音波乳化吸引装置で手術をしているところです。手に持っているのがハンドピースで、この先端から超音波が出て、水晶体を乳化・吸引していきます。

 

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

 

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

▼はんがい眼科の公式ブログ「目のブログ」▼
https://eyeblog-hangai.com/
▼多焦点白内障手術 無料個別相談会 開催中!▼
https://hangai.org/cataract-seminar/

著者紹介

連載近くも、遠くも、快適に…「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

板谷 正紀

幻冬舎

レーザー白内障手術は、安全・快適・短時間に「見えない」という病気状態を解決し、「見える」を取り戻し、さらに快適に見えるを手に入れるまでに進化しました。この本では、進化した多焦点レンズ、レーザー白内障手術の最新情…