※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2020年6月2日に公開されたものです。

意味のある分散・無意味な分散

さて、運用にあって分散投資が重要であることを力説したが、特に個人の資産運用に目を転じると、分散投資が無駄あるいは不適切に行われている場合が少なくない。

 

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「無意味に勇ましい」集中投資を除くと、典型的な間違いは「分散投資の重複」と「売買の時間分散」の二つだろう。

 

前者は、例えば、同じ資産分野に投資する投資信託を複数買うような過剰な分散投資だ。特に、アクティブ・ファンドについて、「性質の違うものに分散投資する方がいい」と思う投資家が多いようだ。複数のアクティブ・ファンドに投資する結果がどうなるかと言うと、個々のファンドの特色が打ち消し合って、インデックス・ファンドに近い状態を、インデックス・ファンドよりも高い手数料と多くの手間を掛けて実現することになる。しかも、素人でなくとも、自分の投資の全体像を把握することが難しくなる。

 

そもそも投資信託を買うということの主な目的は「少額でも分散投資の効果を手に入れること」なのだから、広く分散された対象に投資するファンドを一本買えばいい。

 

「投資ファンドの分散」ではなく「広く分散されたファンドへの投資」が正しい選択だ。

 

投資アドバイザーはしばしば「コア・サテライト戦略」などと称して、インデックス・ファンドの「コア」にアクティブ・ファンドの「サテライト」を付加することを勧めるが、後者は無駄だ。はっきり言うと、アドバイザーが自分で自分の仕事を作り出しているに過ぎない。プロである年金基金も無駄なビジネスに付き合う「カモ」になることがあるし、彼ら自身にも自分で自分の仕事を作っている面がある。

 

個人の運用に、「コア・サテライト戦略」を勧めるようなアドバイザーや書籍には近づかない方がいい。年金運用で使われているからという理由で勧めるのだろうが、考えが浅い。はっきり言って、もともと書くべき内容を持ち合わせていないのだろう。この種の無駄に付き合うのは、お金も、人生の時間ももったいない。

 

また、売買タイミングを分散することを有効なリスク分散であるかのようにけん伝することも不適切だ。

 

売買タイミングを分散すると、一般的には気が楽だし、何度も売り買いをすることが楽しい人もいるようだが、時期を分けて買ったところで、持っている株数・金額が同じなら一括で買った株とリスク・リターンは変わらない。

 

積立投資が多くの人にとっていいのは、将来への貯蓄と投資を一緒に実行できるからであって、売買タイミングを分散できるからでも、平均買い値が有利になるからでもない。

 

補足すると、先程ファンドマネージャーが、持ち株をグズグズ売るほうがいいと申し上げたのは、ポートフォリオのリスクと期待リターンと売買コストの関係を考えるとそれが最適だからであって、売りタイミングを時間分散することが有利だからではない。

 

友達を減らすかもしれないけれどもはっきり書くと、ドルコスト平均法を「有利だ」と勧めるアドバイザーや書籍は、運用を正しく理解していない。

職業人生では分散と集中の加減が難しい

さて、ポートフォリオの運用では、どうするべきなのか結論は明快なのだが、話が理屈っぽい。少し、視野を広げて、職業人生について考えてみよう。

 

多くの人にとって、職業は投資と同様にお金を得るための手段だし、たぶん、投資以上に重要な手段だ。そして、投資とよく似ている。どちらも成果を得るためには時間がかかるし、将来得られる結果にはリスクを伴う。

 

ただし、職業には、一つ投資と大きくことなる性格がある。

 

それは、職業には、集中や長期間にわたることによる「習熟」の要素があるからだ。

 

株式投資にたとえると、分散投資の一部として小さなウェイトで持つよりも集中投資して持つほうが、リターンが高くなる株式があると想像すると、職業選択の問題の複雑さが分かる。加えて、長く同じ職業に関わることで、経験やスキルが増す効果もある。

 

他方、ある職業や、勤務先の会社などが、すっかり廃れてしまうリスクもあるし、業種や会社は順調でも、自分がリストラされるようなリスクは、投資銘柄にリスクがあるのと同様の形で存在している。人生でも、「リターンが同じならリスクは小さい方がいい」、「無駄なリスクは避けたい」といった価値判断は同じだろう。

 

さらに判断を難しくしているのは、職業スキルの経済価値が「生産性に比例」する場合だけでなく、「生産性の順位の差に依存」する場合が多いことだ。

 

例えば、プロ野球で2割7分の打率の打者と、3割を打てる打者との間には、安打の生産性は10%の差しか無くても、年俸には何倍も差がつくだろうし、前者は他に何か取り柄(守備がすばらしいとか、足が速いとか)が無ければ、プロとして生き残ることが難しいかもしれない。また、3割打てる打者も、同じチームの同じポジションに3割1分打つ選手がいると、レギュラーにはなれないかもしれない。

 

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通常の事務職のビジネスマンにも、こうした小さな差が、大きな報酬の差につながるような仕組みが働く場合がある。役員になれるかどうかは、微妙な能力差と、上位者の好き嫌いなどに起因する。芸能・芸術のような職業でも、売れるか・売れないかを分かつ実力差は「紙一重」である場合が少なくない。その差が「食える」か「食えない」かの差になるとすると、一つの分野に集中して相対的に勝つことの重要性が分かる。

 

こうした競争構造を考えると、一つの職業、一つの会社に、集中的に自分の時間と努力を投入することの生産性の高さを十分考慮しなければならない。どのような仕事でも、一分野の圧倒的な一番の収益性は高い。しかし、一番になれない場合に、一番との差も大きい。

 

一方、職業にはリスクが存在するので、他の職業、他の勤め先、他の収入源などに、「分散」を図ることができることにメリットはある。

 

職業人生のゲームは、金融資産ポートフォリオの運用のように簡単な理屈で一つの正解を導くことができるゲームよりも多分難しくできている。

 

上手いやり方や「定石」があれば、筆者自身が教えて欲しいくらいのものだが、おそらくは、一つのスキルに集中して自分の選択分野における相対的な順位を上げることの有効性と、自分の顧客(自分を雇ってくれる会社は自分にとっての「顧客」である)を分散して、自分の経済的なリスクを低減させることの組み合わせが、「効率の良い職業人生戦略」の一つの方向性となるだろう。

 

もっと具体的に言うと、一つのスキルに集中して相対的な差を得る一方で、そのスキルを多方面に売って、収入源を分散するのだ。「副業」あるいは「複業」を行うことが、分散の有力手段だ。

 

「副業」あるいは「複業」を直ちに行わなくとも、いつでも行えるように用意しておくこともリスクの回避手段になる。

 

昨今の「働き方改革」の流れや、きっかけは新型コロナウイルスの感染拡大だったが、「テレワーク」の普及などは、個人が複数の収入源を持ってリスク分散することを容易にしているように思う。

 

現状は、多くの人にとって人生の投資効率を改善するチャンスだ。

 

 

山崎元

楽天証券経済研究所

 

※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2020年6月2日に公開されたものです。

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