赤字企業を「銀行が生温かく見守り助け続ける」冷淡な事情

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家の塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第22回は、銀行が再建困難な赤字企業を支援するメリットを解説します。

赤字企業から無理に取り立てると、返済額が小さくなる

なぜ銀行は、再建困難な赤字企業を支援するのでしょうか。ニュース等を見て疑問に思う方もいるかもしれません。しかしそこには、合理的な理由が存在します。

 

企業が倒産すると、持っている設備機械がスクラップされてしまうことがあります。そうなると、お金を貸している銀行への返済額が非常に小さくなってしまう場合がしばしばあります。そのため、銀行が「借り手を支援して立ち直ってもらおうとする」のは理にかなった行動だといえます。

 

また、無理にお金を回収しようとして借り手が倒産すると「あの銀行は冷たい!」という悪評が立つことも考えられ、それも銀行にとっては痛手です。企業が取引銀行を選ぶときには「わが社が苦しいときに温かく見守ってくれる銀行を選ぼう」と考えるからです。

 

地銀にとっては、借り手の倒産によって地域経済がダメージを受け、ほかの借り手まで連鎖的に倒産してしまっては大変です。そうした考慮も、「借り手を見守ろう」という判断には含まれるわけです。

 

上記のような内容について、以前の記事『銀行、新型コロナ不況の「胸算用」…中小企業支援で得をする?』で解説しました。その際に「万年赤字で黒字化が見込まれない借り手であっても、銀行には借り手を支援するインセンティブがあり得ます…別の機会に詳述することとしましょう」と記しましたので、本記事では、再建困難な借り手に対する銀行の支援について考えてみることにします。

 

万年赤字でも
借り手が万年赤字の企業でも、支援によるインセンティブが見込まれる

「赤字額<減価償却額」なら企業は存続させるほうが得

銀行から100万円を借りて、100万円の設備機械を買った企業があるとします。10年使えるので、減価償却は毎年10万円です。

 

この会社がライバルとの値下げ競争により、毎年1万円の赤字を出しています。状況が改善する見込みはありません。銀行はどうするべきでしょうか。

 

「黒字回復の見込みがないなら会社を清算して、返せるだけ返せ」ということも可能でしょうが、そうなると、設備機械がスクラップ業者に買い叩かれてしまうので、銀行の回収額は非常に小さくなってしまうかもしれません。

 

しかし、企業が生産活動を続けているならば、毎年9万円の返済を10年間続けることができるので、銀行は90万円回収できることになります。それならば、企業の存続を選ぶべきです。

 

減価償却の10万円は、費用に計上されますが、キャッシュは出ていきません。ということは、逆算すると「1万円しか赤字でないということは、9万円のキャッシュが金庫に入っているはずだ」ということになるわけです。

 

減価償却分がそっくり赤字だとすれば、企業を生かしておく理由は小さいかもしれませんが、赤字額が減価償却額より少しでも小さければ、企業を生かしておいて生産を続けさせたほうが銀行の利益が増える(損失が減る)のです。

赤字なのに借金返済が可能!?「減価償却」の不思議

鉛筆を買ったときは、代金を費用に計上します。買った鉛筆の半分を翌年使うとしても、面倒ですから今年の費用にするわけです。しかし、大きな機械を買ったときには、今年の費用に計上すると今年が大赤字になってしまいます。

 

そこで「減価償却」という会計上の手法が用いられるわけです。これは、機械を買ったときではなく、機械を動かしたときに費用を計上しよう、という考え方です。10年使う機械なら、買値の1割を毎年の費用とする、というわけですね。

 

100万円の機械で製品を100万個作れるとします。「製品を1個作るごとに機械が1円分磨り減る」と考えて、費用を計上しましょう。一方で、売値についても材料費と人件費に機械が磨り減った分の1円も加えて売りましょう。実際はこれに利益も上乗せするのですが、ここでは利益はゼロだとしておきましょう。

 

製品が売れると、「材料費」と「人件費」と「機械磨り減り分」が入金されます。材料仕入れ代金と人件費は現金が出て行きますが、機械磨り減り分は現金が出て行きません。

 

現金は、機械を買ったときに出て行きますが、費用は機械を使ったときに計上されるので、現金の増減と利益の動きの間にズレが生じるわけです。機械を買ったときには現金は出て行くけれども利益はゼロ、機械を使ったときには現金が溜まるけれども利益はゼロ、というわけですね。

 

上記の企業の例では、値下げ競争の結果、1万円の赤字となっています。材料費と人件費に上乗せする「機械磨り減り分」ですが、値下げ競争のせいで1円ではなく0.9円しか上乗せできなかった(0.1円値下げさせられた)、ということになります。

 

そうであっても、現金は出て行かないのに0.9円の現金が入ってくるわけですから、金庫の現金は溜まっていき、それを使って銀行に借金を返すことができます。借りた全額は無理でも、一部は返せます。

 

「赤字だから借金が返せない」というわけではないのですね。減価償却、不思議です。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、わかりやすさを重視しているため、細部が厳密には正確でない場合があり得ます。

 

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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