ものが歪んで見える「黄斑前膜」と白内障を併発…治療法は?

目の病気として知名度の高い「白内障」。実は、白内障手術によって、他の病気も同時に治療することができるのです。今回は『「見える」を取り戻す白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、はんがい眼科を受診された方の症状から、白内障と黄斑前膜を併発した際の治療法と、失明の恐れがある「黄斑前膜」について解説します。

Case8:黄斑前膜と白内障を併発した場合

【57歳男性のAさん】

近視でコンタクトレンズを使用しているが、これまで目の病気にはかかったことがなかった。職業はグラフィックデザイナーで、1日中パソコンを使って、雑誌やパンフレットなどのレイアウト作業をしている。

 

◆発症時の自覚症状

ここ半年ほど、作業をしていると目がかすむようになった。毎日、長時間パソコンを使用しているので、疲れ目を疑い、市販の目薬をさしたり、よく眠ったりして眼精疲労の改善に努めていた。しかし症状は一向によくならず、パソコンのドキュメントやカレンダーの罫線がゆがんで見えるようになった。

 

高齢の父がすでに白内障の手術を受けていたので、「少し早いけど白内障になったのかな……」と考え、眼科を受診した。

 

◆診断・治療

OCT(光干渉断層計)などで検査をしたところ、黄斑前膜(おうはんぜんまく)という病気であることが判明。

 

黄斑前膜はポピュラーな網膜の病気で、網膜の中心にあって視細胞が集中する黄斑という部分の表面に膜が張り、その膜が絞り込むように縮んで黄斑を変形させる。その結果、線がゆがんで見えたり、大きく見えたりする。

 

Aさんの場合、白内障も始まっていたため、白内障の手術と同時に、黄斑前膜を治すための硝子体手術を行った。

 

当院では、白内障と黄斑の病気を日帰り手術で同時に治療できるので、患者さんの負担を大幅に軽減できる。Aさんの手術時間はおよそ30分程度、無事にクリアなビジョンを取り戻すことができた。

他のケースはこちら>>>【Case1】【Case2】【Case3】【Case4】【Case5】【Case6】【Case7】

 

黄斑は、目の一番奥、網膜の中心にあって、物を見るための視細胞が集まっている1.5ミリほどの小さな組織です。加齢黄斑変性を思い浮かべる方が多いかもしれません。

 

人は、カメラのフィルムにあたる網膜に像を映すことで初めてものを見ることができますが、黄斑はそのなかでももっとも重要な組織で、ここが障害されるとものがゆがんで見えたり、視野の中心が黒く見えたり、最悪の場合には失明するなど、さまざまな障害が起きます。

 

Aさんは罫線がゆがんで見えることで異変に気づきましたが、ものがゆがんで見えることは、黄斑が障害された際に生じる典型的な症状といえます。

硝子体がきれいに剥がれれば、なんの問題もないが…

では黄斑前膜とはどのような病気でしょうか。

 

目の中には、硝子体(しょうしたい)と呼ばれる透明な組織があります。若いころは、コラーゲンでできた線維の中に、たくさんの水分を含んだヒアルロン酸が充満しており、目の中を満たし透明性を保っています。

 

この硝子体は網膜とくっついているのですが、硝子体は年を重ねるとともにヒアルロン酸が変性して水分を保持できなくなりボリュームが減っていき、少しずつ網膜から離れていきます。これを後部硝子体剥離と呼びます。

 

[図表1]後部硝子体剥離

 

「えっ、網膜から離れてしまっても大丈夫なの?」と思われたかもしれませんが、硝子体が網膜からきれいに剥がれれば何の問題もありません。見え方にもほとんど影響が出ず、ただの加齢現象で済んでしまいます(視界の中にゴミが飛んでいるように見える飛蚊症という症状が現れることはあります)。

 

しかし、黄斑の表面に薄い膜(後部硝子体皮質の一部)が残ってしまうことがあります。黄斑(網膜)の表面に残った後部硝子体皮質に細胞が集まって増殖して、薄い膜が厚く成長して収縮して黄斑を絞り込むように変形させるのです。黄斑は本来あるべきくぼみを失い、肥厚したり、皺が寄ったりします。

 

発症当初は、黄斑の前に透明な膜が張っているだけですのでほとんど自覚症状はありません。進行すると膜が厚くなり収縮してくるので、黄斑表面にしわが寄り分厚くなります。そのため、文字や罫線、人の顔などが歪んで見えたり(変視症=歪視)、大きく見えるようになったりし(大視症)、視力も低下していきます。

 

[図表2]黄斑前膜の形成

「黄斑前膜」と「白内障」は同時手術が可能!

黄斑前膜は薬では治せませんので、手術で治療します。手術では、黄斑部に張っている膜をピンセットで剥がします。このとき、網膜の最表面にある内境界膜という薄い膜も剥がれることが多いので、一緒に剥がすことが多くなっています。この手術の術式を「硝子体手術」と呼びます。

 

[図表3]硝子体手術

 

目の手術というと怖さを感じるかもしれませんが、最近は手術で使う器具も27ゲージという非常に細いものが普及しており、創口(きずぐち)も翌日にはきれいにふさがってしまいます。また目の違和感も数日で消失します。硝子体手術は、この27ゲージ小切開硝子体手術で安全性が高まり、術後の回復も早まりましたので、遅くとも0.7を下回る前に手術を行いたいところです。

 

[図表5]27ゲージ小切開硝子体手術の様子

 

 

当院の研究では、黄斑前膜の治療では、術前の視力が良いほど、術後の視力も良好という結果が出ています。術後の視力で1.0以上をめざすなら、術前視力が1.0を下回らないうちに手術を受けるのがベストということになります。

 

黄斑のくぼみが失われて分厚くなってくると、たとえ手術が完璧でも、もとのくぼみは回復しない場合が多く、ものがゆがんで見えたり、大きく見えたりする不快な症状は残ることが多いです。このような不快な症状をできるだけ残さないためには、早めの手術をお勧めします。

 

この黄斑前膜の硝子体手術は、白内障の手術と同時に行うことが可能です。両方の治療を合わせても30分程度で済んでしまいます。50歳以上の方は、硝子体手術だけを行うと、術後半年~数年で急速に白内障が進行するため、この同時手術を行うことが多いのです。

 

目がかすむ症状と、ものがゆがんで見える症状を同時に治して、クリアなビジョンを取り戻していきましょう。

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

 

 

【レーシックが原因で白内障に?詳しくはこちら】

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

▼はんがい眼科の公式ブログ「目のブログ」▼
https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載近くも、遠くも、快適に…「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

板谷 正紀

幻冬舎

レーザー白内障手術は、安全・快適・短時間に「見えない」という病気状態を解決し、「見える」を取り戻し、さらに快適に見えるを手に入れるまでに進化しました。この本では、進化した多焦点レンズ、レーザー白内障手術の最新情…