新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

サブリース事業への甘さがあった

この「ありえない」利回りを実現するために、スマートデイズは新築シェアハウスを、販売時にあらかじめ建築見積費よりも高い金額で建築を発注し、業者から多額のバックマージンをもらい、この一部を保証賃料に充当していたのだ。

 

また、投資家に対してはテナントである女性からもらう家賃のみならず、ターゲットである地方から東京に出てきた女性の就職を斡旋することで収受する手数料も投資家の収益に充当して、「高利回り」であることを謳っていたのだ。すべてが「はりぼて」の商品構成である。

 

あたりまえだが、新規販売が順調なうちはなんとか成立する事業も、回転が止まったとたんに破綻する。この不動産投資に積極的にかかわり、債務返済能力が不十分な投資家に対して審査書類等を改竄してまで応じたスルガ銀行は批判の矢面に立たされ、経営陣が交替する事態にまで発展した。

 

サブリースという事業に対する甘えがあった?
サブリースという事業に対する甘えがあった?

 

こうした詐欺商法は、いつの世にも存在する。今回の事件は、私の知人の知人も被害に遭ったそうだ。彼はそこそこ大手の会社の管理職で年収は800万円。1億円ほどの物件を全額ローンで購入し、利回り8%で30年の保証だったそうだが、運用開始後わずか3カ月で賃料はストップ。あわてた彼は実際の物件を初めて見学に行き、棟内に住んでいた入居者はわずか1名であることに、その場で気がついたのだという。

 

不動産投資に興味があったという彼は、これまでも投資用のワンルームマンションを1室所有していたのだが、「かぼちゃの馬車」は同じくワンルームマンション投資を行なっている知人から薦められたのだそうだ。

 

彼はこれとは別に住宅ローンも抱えているために、現在の負債総額は1億6000万円。「人生オワタ」である。

 

 

この事件の本質は、事業者側も投資家側も「サブリース」という事業に対する「甘え」があったということだ。

 

まず、事業者側が投資用のシェアハウスを実際の相場よりも相当の高値で売却した問題は置いておくとして、この事業が破綻した時点で、このシェアハウスのオーナーは投資家であり、このオーナーの床を借り上げているのはスマートデイズである。

 

この場合、あくまでもスマートデイズは借家人であり、借家人の立場は借家法によってきわめて借家人に有利なように守られているのである。つまり「賃料は保証した」ものの、実際の賃借相場よりも不相応に高く借りてしまったので、保証賃料を引き下げてほしい、というのは借家人としての正当な引き下げ事由になるのである。

 

また、最終的に賃料が支払えなくなってしまったのであれば、契約内容にもよるが、借家人は一定のペナルティーを支払えば賃借期間内での解約だって可能ではあるのだ。「いつでも都合が悪くなったらやめられる」という、事業に対する決定的な「甘さ」が事業者側にあったことは否めない。

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不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

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