新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

「マンションをマイナス180万円で買う」カラクリ

このような、誰からも見向きもされなくなった越後湯沢のリゾートマンションの所有者に、最近奇妙なダイレクトメールが届いているという。そのダイレクトメールは東京のある不動産業者からのもので、宛名人である所有者に対して、「あなたの所有している部屋をマイナス180万円で購入します」という内容のものだ。

 

マイナス180万円という意味は、あなたが、買い手である私に180万円払ってくれるのなら、あなたのマンションを引き取ってあげてもよい、ということだ。よくいらなくなったものを他人に差し出すときに「熨斗紙付けてでも譲りたい」という表現が使われるが、ついに越後湯沢のマンションは「カネを払ってでも持っていってもらいたい」という代物になったということらしい。

 

ではなぜ、マイナス180万円なのかというと、その理由は以下のようなものだ。

 

まず物件価格は10万円である。マンションとしては無価値という意味での10万円だ。

 

問題はこれからだ。所有者は修繕積立金、管理費を2年間滞納していると仮定して月額5万円の24カ月分として120万円を売り手側に負担させるというもの。さらに部屋内の家具や家電類などの撤去費用で20万円、部屋の清掃費用や設備修繕費用で万円、さらに本来は買い手側が負担すべき不動産取得税や登録免許税などの税金負担30万円も上乗せして計190万円。つまり、物件価格は10万円だが、引き取り費用190万円を差し引いてマイナス180万円で買ってあげます、ということになる。

 

 

多くのリゾートマンションで、管理費や修繕積立金の滞納が生じている。買い手側がこの負担を負いたくないので、未払い分を負担させることには理がある。だが家具家電等の撤去費用や清掃費などは、かなりぼったくりの印象だ。売り手側で行なえばよいはずだが、売り手もすでに高齢になっていて、わざわざ越後湯沢にまで出向いて処理する、清掃するのも億劫だし、どの業者に頼めばよいかもわからないケースがほとんどだ。そんな状況にある売り手側の足元を見ているようにしか思えない。

 

それどころか、本来は買い手側にかかるはずの物件取得に纏わる税金などの諸費用まで、ちゃっかり売り手側の負担にさせている部分などは詐欺まがいだともいえる。

 

最近世間では、「売れない」「貸せない」「自分も住む予定がない」、三重苦の不動産を「負動産」などと称するようになった。まったく使い道がなくなっても、不動産は車などの耐久消費財とは違って、捨てることができない。いらなくなったからといって、この世からなくすことができないのだ。建物は解体できたとしても、土地はどんなに引っ搔いてもこの世から消すことはできないのである。

 

ましてやマンションのような区分所有建物では自分の部屋だけこの世から消し去る ことはできず、永遠に管理費や修繕費用を負うことになる。このような状態になってしまうと、資産であったはずの不動産が、カネを垂れ流す面倒な「負債」に姿を変えてしまうのだ。

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