一晩で失明も…頭痛や吐き気を伴う「急性緑内障発作」の恐怖

目の病気として知名度の高い「白内障」。実は、白内障手術によって、他の病気も同時に治療することができるのです。今回は『「見える」を取り戻す白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、はんがい眼科を受診された方の症状から、白内障と緑内障を併発した際の治療法と、失明の恐れがある「急性緑内障発作」について解説します。

Case7:緑内障と白内障を併発した場合

【66歳女性のAさん】

若い頃から1.5の視力が自慢だったAさん。周囲がコンタクトレンズや眼鏡をかけていても、自分には無関係だと考えていた。しかし40歳前後から手元が見えづらくなり老眼鏡をかけるように。

 

◆発症時の自覚症状

風邪気味で、2日ほど市販の風邪薬を服用。間接照明の薄暗い部屋で老眼鏡をかけながら、セーターを編み、時折、スマホをのぞき込んでいた。

 

すると突然、強烈な頭痛と吐き気、右目の痛さに襲われ、うずくまる。異変を感じた夫が救急車を呼んだ。

 

◆診断・治療

救急病院で検査を受けたところ、脳などに異常はなく、「急性緑内障発作」だと診断される。
 

なんの予兆もなかったそうだが、もともと生まれついての遠視で、目の中の隅角という部分が狭くなっている閉塞隅角症(へいそくぐうかくしょう)という病気にかかっていた。

 

閉塞隅角症という病気は、いくつかの原因が重なると急性緑内障発作を起こすことがあり、Aさんの場合は、薄暗い部屋で下を向いて作業をしていたこと、そして風邪薬に入っていた抗コリン作用をもつ成分が、発作のトリガーになった可能性がある。

 

白内障の症状も始まっていたことから、閉塞隅角緑内障の治療もかねて白内障の手術をすることに。閉塞隅角緑内障は水晶体が大きくなって起きる病気なので、白内障手術を行うことが根本治療になるのである。

 

現在は隅角が大きく開き2度と緑内障発作に襲われることはなくなった。

他のケースはこちら>>>【Case1】【Case2】【Case3】【Case4】【Case5】【Case6】

遠視の人がかかりやすい…「緑内障」とは?

遠視とは、[図表1]を見ていただくとおわかりのように、ものを見たときのピントが網膜の後ろで結ばれていて、本来であれば手元も遠くもはっきりとは見えない目のことをいいます。

 

[図表1]正常眼と遠視眼の違い

 

人の目は、レンズの役目を果たしている「水晶体」の厚みを厚くしたり、薄くしたりしてピントを合わせます。

 

水晶体の厚みをかえてピントを合わせる力のことを「調節力」といいますが、子どもや若い方は水晶体の厚みを変える毛様体筋という筋肉が元気で、水晶体も柔軟性があるため、調節力が強く、遠視であってもピントを網膜上に合わせられることがあります。そのため「自分はとても目がいい」と思って過ごすことになります。

 

しかし遠視の目は、常に頑張ってピントを合わせようとしているため、疲れやすいという傾向があります。ひょっとしたらAさんも、子どもの頃から目の疲れやすさを感じるときがあったかもしれません。

遠視の人は、もともと目玉のサイズが小さい

[図表2]を見ていただくとわかりやすいのですが、実は遠視と正視、近視では目玉のサイズが違うのです。

 

遠視の目は、もともとの目玉のサイズが小さいため、ピントが目玉の外で結ばれてしまうということになります(反対に近視の目はラグビーボールのような形状で、サイズが大きいためピントが網膜の手前で結ばれてしまいます)。

 

[図表2]正視、近視、遠視の比較

 

目玉の大きさを比べると、こんな感じになります。遠視の目の「もともと目玉が小さい」という特徴が原因で、「閉塞隅角緑内障」(へいそくぐうかくりょくないしょう)という種類の緑内障になりやすいことがわかっています。

 

Aさんの場合は、小さい頃から視力が良かった→実は隠れ遠視だった→目玉が小さいことで潜在的に閉塞隅角緑内障という病気になりやすかった、というのが因果関係です。

「閉塞隅角緑内障」はどんな病気なの?

では、閉塞隅角緑内障というのはどんな病気なのでしょうか。

 

眼球の中は「房水」という水で満たされています。房水は毛様体という組織で作られて、虹彩と水晶体の間を通過して前房に至り、線維柱帯を経てシュレム管から排出されるという決まったルートで循環しています。

 

この房水の循環によって、眼球の中はほぼ一定の圧力が保たれており、この圧力のことを一般的に眼圧と呼んでいます。

 

この房水は眼の中の隅角(ぐうかく)という場所から目の外へ排出されますが、遠視の人は目玉が小さいためこの隅角がもともと狭めで、加齢により水晶体が大きくなり隅角がさらに狭くなってしまい、房水の排出が十分にできなくなって眼圧が上がってしまいます。

 

[図表3]房水と眼圧の関係

 

このように眼圧上昇を引き起こすリスクの高い状態を閉塞隅角症といいます。

 

実際に眼圧が高くなり視神経を圧迫し続けると神経線維が減って視野が欠け始めます。これを閉塞隅角緑内障と呼びます。50代以上の遠視の女性がかかりやすいといわれています。

 

もともと目の構造が小さい遠視の目の水晶体が、加齢とともに厚みを増していくと、虹彩を前へ押し出して水晶体と虹彩の間の房水の通路が狭くなり房水の流れが減り、房水が虹彩の後ろに溜まって、虹彩を弓なりに前へ押し出してしまいます。

 

このため、房水の排出口である隅角がさらに狭くなってしまうのです。緑内障治療の原則は、眼圧が上がる原因を取り除くことですから、閉塞隅角症あるいは閉塞隅角緑内障の根治治療は水晶体を薄い眼内レンズに置き換える治療、すなわち白内障手術なのです。

急激な頭痛や吐き気は「急性緑内障発作」かも

虹彩と水晶体の間の房水の通路が急にブロックされると隅角が完全閉塞して、「急性緑内障発作」という症状を引き起こします。症状としては、尋常ではない頭痛や目の痛み、吐き気、眼のかすみを生じます。たいていの場合は、痛みを覚えるのは片目のみです。

 

あまりの頭痛や目の痛さから脳卒中など脳の病気を疑うケースが多いのですが、急性緑内障発作は治療が遅れるとどんどん視野が欠けてしまい、進行が早い場合には一晩で失明に至ることもあります。

 

一度欠けた視野は、元に戻ることはありません。そのため運ばれた医療機関で急性緑内障発作の可能性を鑑別できないと、治療の開始が遅れてしまうことになりかねません。急激な頭痛や目の痛み、吐き気、眼のかすみなどが起きた場合には、急性緑内障発作かもしれないということを知っておいていただきたいです。

 

ではどのようなことが原因で、急性緑内障発作は起こるのでしょうか。

 

Aさんのように、もともと遠視で隅角が狭い方が、薄暗い部屋で下向きの作業を続けているときに起きやすくなります。これは、薄暗い部屋だと瞳孔が開いて作業をすることになるので水晶体と虹彩の間の房水の通路が狭くなること、そして下向きの作業を続けることにより水晶体の重みで虹彩が押されてさらに狭くなることによります。

 

[図表4]水晶体の肥大化

風邪薬や睡眠剤などの服用には要注意!

閉塞隅角症の方は、避けた方がいいお薬があります。風邪薬や花粉症のお薬に入っている抗ヒスタミン剤、ベンゾジアゼピン系の精神安定剤(睡眠薬)などです。

 

服用をさけるべき
閉塞隅角症の方は、服用する前に「薬の成分」を確認する必要がある

 

これらの薬剤は、副交感神経を抑制する「抗コリン作用」があります。これらは瞳孔を閉じる働きをもつ瞳孔括約筋をゆるめてしまい、要は瞳孔を開いてしまうので隅角を狭くしてしまうのです。

 

抗コリン作用をもつ薬剤を、もともと隅角が狭かった方が服用すると、さらに隅角が狭くなり急性緑内障発作を起こすことがあります。

 

Aさんは、風邪気味であったので市販の風邪薬を服用されていました。若い頃から視力が1.5程度あった人や遠視の人は、眼科で隅角が狭くないかをチェックしてもらうといいかもしれません。

 

また市販薬の中には、「緑内障の人には禁忌です」という但し書きのあるものがあります。添付文書は必ず目を通すようにしてください。

 

ただし、抗コリン作用のある薬剤が禁忌なのは、閉塞隅角症や閉塞隅角緑内障の方であり、開放隅角緑内障の方は問題ありません。従来、この区別が成されておらず混乱をまねいていましたが、令和元年にやっと区別するようになりました。

緑内障は、白内障手術で予防・治療が可能

閉塞隅角緑内障の治療は、狭くなってしまった隅角を広げる治療が必要になります。方法は、

 

1.虹彩の根元にレーザーで穴を開けて房水の通り道(バイパス)を作る方法(レーザー虹彩切開術)

 

2.水晶体を取り除き、厚みが薄い人工眼内レンズに置き換える方法(白内障手術)

 

上記2つがあります。

 

[図表5]閉塞隅角緑内障の治療

 

1の虹彩切開術は、房水のバイパスをつくることで、虹彩と水晶体の間の房水の通路が閉じてしまっても房水の流れは保たれますので、急性緑内障発作を予防することができます。しかし、大きくなった水晶体はそのままですので、隅角は狭いままで、隅角と虹彩の根元の癒着が進み慢性閉塞隅角緑内障になるリスクが残ります。

 

2の白内障手術は、大きくなった水晶体を薄い眼内レンズに置き換えるため、隅角も水晶体と虹彩の間の通路も広くなり、すべての原因が取り除かれます。閉塞隅角症の完全な治療といえます。

 

急性緑内障発作を起こした場合は、まず眼圧を下げる薬剤を点滴して眼圧を下げ、点眼で縮瞳させます。眼圧が下がり角膜が透明になったら、レーザー虹彩切開術を行います。角膜が透明にならなかったら、手術による周辺部虹彩切除術を行います。眼圧が良く下がった場合は、虹彩切開をせず、縮瞳剤点眼を継続して翌日に白内障手術を行う場合が増えています。

 

発作当日に、白内障手術を行う場合もありますが、手術難度は高くなります。

 

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

 

 

【レーシックが原因で白内障に?詳しくはこちら】

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

▼はんがい眼科の公式ブログ「目のブログ」▼
https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載近くも、遠くも、快適に…「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

板谷 正紀

幻冬舎

レーザー白内障手術は、安全・快適・短時間に「見えない」という病気状態を解決し、「見える」を取り戻し、さらに快適に見えるを手に入れるまでに進化しました。この本では、進化した多焦点レンズ、レーザー白内障手術の最新情…