自粛論者「まずは感染症対策」がもたらす、日本崩壊のシナリオ

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家の塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第20回は、新型コロナウイルスの制圧と経済の失速のジレンマを解消するにはどうすべきか解説します。

新型コロナ制圧と景気回復という「重大ミッション」

感染症は、放置すると患者が1人から2人、4人、8人…と、加速度的に増えていきかねません。しかも一定以上に患者が増えると医療崩壊が起きて悲惨な状況に陥りかねません。筆者もそこまでは同意です。

 

しかし「したがって、初期の段階で徹底的に封じ込める必要があり、外出自粛等を徹底すべきだ」といわれると、それには同意できません。なぜなら、景気にも同時に配慮しながらバランスのいい政策をとるべきだからです。

 

もしも景気の悪化が加速度的でないならば、感染症対策を先に行って、あとから景気対策を行う、という政策が合理的でしょう。自粛論者は、そう考えているようです。

 

しかし、感染症と同様に、不況も放置すると加速度的に悪化するのです。しかも、一定以上に景気が悪化すると、金融危機が発生して悲惨な状況に陥りかねません。

 

政府は、そうしたことも認識したうえで、感染症の専門家の話ばかりではなく、経済関係の人々の話も聞き、バランスのとれた政策を採用していただきたいと思います。

「収入減による消費減」は経済の悪循環を招く

外出自粛となっても、普通の店にはある程度の蓄えがあるので、すぐに倒産する飲食店はまれでしょう。しかし、自粛が長引くにつれて蓄えが底を突く店が増えてくるはずです。

 

しかも、時間の経過とともに不安になった食材供給者から「いままでは材料費を後払いで売っていたけれど、これからは現金払いでお願いします」といわれたら、食材を仕入れることができなくなるかもしれません。

 

現在閉店している店のなかには、新型コロナ収束宣言後に材料の仕入れができず、営業再開できないまま倒産するところも出てくるでしょう。

 

そうなると、連鎖倒産も起こりえます。飲食店に食材を売っている食材商や、飲食店から賃料を受け取っている貸しビル業者なども、時間の経過とともに資金繰りに窮して倒産していく可能性があります。

 

消費も減りそうです。閉店している店では、アルバイトが解雇されて収入を失っているでしょうし、倒産した店では正社員も収入を失っているでしょう。

 

彼らが収入を失ったことで消費をしなくなると、景気が一層悪化します。消費の減少が企業の売り上げを減らし、生産を減らし、雇用を減らし、消費を一層減らす…といった悪循環が生じるわけです。

 

「外出できないから消費できない」分は、新型コロナの収束宣言とともに戻ると思われますが、「収入が減ったから消費できない」という分は収束宣言でも戻らず、悪循環が続く、というわけですね。

 

飲食店は数が多いので、景気への影響は大きいですが、連鎖倒産とか悪循環という意味では、観光地での影響が深刻でしょう。観光産業が壊滅すると、それ以外の産業もすべてダメになるでしょうから。

 

あああ
就労者が収入を失うことになれば、消費が減って景気は一層悪化する。

倒産が増加すれば、最悪「金融危機リスク」も

倒産が増えてくると、金融危機のリスクが増します。貸し倒れの増加で銀行が赤字に転落すると、銀行の自己資本が減るからです。

 

銀行は、自己資本比率規制を課されています。非常に大胆な説明をすると「自己資本の12.5倍までしか貸してはいけない」という規制です。つまり、自己資本が減った銀行は貸せる金額が減るので、「貸し渋り」を余儀なくされるのです。

 

そうなると、自動車ローンを借りられなかった人が自動車購入を諦めたり、材料仕入れ資金を借りられなかった中小企業が倒産したりしかねません。それによって景気が悪化して倒産が増えると、一層銀行の自己資本が減って貸し渋りが酷くなる、といったことになりかねないのです。

 

さらに深刻なのは、不良債権の増加によって銀行が倒産する可能性が出てくることです。銀行の倒産は、一般企業の倒産とは比較にならない悪影響を日本経済に及ぼしますから、政府・日銀が回避してくれると期待していますが。

 

「金融は経済の血液」といわれます。通常時はそれほど意識されませんが、ひとたび機能不全に陥ると、心臓に問題が生じた人体のように、さまざまな困難に直面しかねないのです。

政府の資金繰り支援などが完璧なら問題ないが…

「政府が中小企業の資金繰りをしっかり支援し、従業員を解雇しないよう雇用調整助成金等をしっかり支払うなら、倒産も失業も増えないはず。だから、政府は安心して景気のことを考えずに感染症封じ込めに専念できるだろう」

 

もしかすると一部の感染症専門家は、上記のようなイメージを持っているかもしれません。実際、理屈通りに考えればその通りです。

 

しかし、世の中は理屈通りには行きません。政府が多様な対策を策定しても、広報宣伝がうまくいかなければ、困っている人に必要な情報が届かないかもしれません。

 

申請手続きが面倒だったり、せっかく申請しても審査に時間がかかったりするかもしれません。その間に倒産してしまう企業もあるでしょう。

 

筆者としては、納税と社会保険料納付の期限を一律全員に1年間待つ、という政策を提言しています。特段の手間もコストもかからずに幅広い人々に資金繰りの金が行き渡るでしょうから。もっともこの考えは、現時点では超少数説のようですが(笑)。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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