コロナ不況下のリスクシナリオ「インフレの可能性」を検証する

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家の塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第19回は、コロナ不況下でのインフレ発生というリスクシナリオについて考察・検証します。

「需要減少→デフレ」になるとは限らない

新型コロナ不況は需要を減らすので、常識的にはデフレ要因だと考えられますが、必ずしもそうとは限りません。仮需要(物資の不足や価格の上昇が想定されるとき、在庫の増加や投機目的の買いから生じる需要)が拡大したり、部品調達難から製品が作れなかったり、労働力不足で物流が滞ったりすれば、インフレになる可能性もあります。

 

折からの世界的な金融緩和で大量の資金が出回っていますから、ひとたび人々のインフレ心理に火がつけば、インフレが加速してしまうかもしれません。

 

そこで今回は、リスクシナリオとしてインフレの可能性について考えてみましょう。

「仮需要」がインフレをもたらす可能性

トイレットペーパーが不足したのは、人々が多く消費するようになったからではなく、人々が「不足するかもしれないから、多めに買っておこう」と考えたからです。

 

「人々の使用量が増えるわけではないのだから、不足するはずがない。多めに買う必要はない」と冷静に考えていた人の中には、トイレットペーパーが手に入らずに困った人もいたでしょう。

 

焦って買った人たちが困ったのであれば、こういった事態は再発しないでしょうが、冷静だった人のほうが困ったということは、再発する可能性が十分あるわけです。それも世界的な規模で、もっと重要な品目で…。

 

心配なのは、食料かもしれません。すでに「外国人労働者に農作業を依存している国では、収穫量が減るかもしれない」といった話が聞こえてきていますし、食料の輸出を規制しはじめた国もあるようです。

 

あああ
あの「困った事態」が再発する可能性は十分にある。

 

トイレットペーパーの例からわかるように、重要なのはこうした情報の真偽ではなく、人々がそれを信じて食料を多めに確保しようと考えるのか否かです。トイレットペーパーの場合と異なり、消費者のみならず国家や企業も「念のための確保」に参加するのでしょうが。

 

人々が不安なときには、噂やデマが広がりやすくなります。とくに食料は絶対必要なものですから「噂が本当だったら困るから、多めに確保しよう」と考えるのは自然なことでしょう。

 

そうなると、世界的に食料価格が高騰するかもしれません。各国に食料輸出規制が広がると、食料輸入国の日本は食料不足となり、比較的大幅な食料価格の上昇に見舞われる可能性もありそうです。

重要な部品の生産が止まれば、当然製品も作れない

経済のグローバル化が進み、サプライチェーンが複雑化しています。多くの国で作られた部品が多くの国で組み立てられ、ひとつの製品になっているわけです。

 

そんなときに、ひとつの地域で爆発的な感染拡大が発生し、重要な部品の生産が止まってしまったら大変です。聞くところでは、中国からトイレの部品が届かないため、住宅が完成しても引き渡せない、といったことが起きているそうで、それが長引けば新築住宅の価格を押し上げる可能性もあり得るわけですね。

 

筆者は自動車生産にはくわしくありませんが、たとえば自動車のエンジンに不可欠なネジを独占的に生産している部品メーカーがあり、工場がひとつの地域に集中しているとしたら、その地域の感染拡大で生産が止まると世界中の完成車工場が止まってしまうことにもなりかねません。

 

余談ですが、新型コロナが一段落したあとには、サプライチェーンの見直しが広く行われるようになるかもしれません。「いちばん安く作れるところで作る」というのは、何事もないときにはいいのですが、災害や疫病等が発生した場合は大きなリスクとなりかねません。そうであれば、多少割高でも生産地を分散しておくことが「保険」になるわけです。

 

国内では、運送業で労働者の大量罹患が発生し、物流が滞るというリスクもありそうです。部品工場から組立工場へ、組立工場から小売店へ荷物が運べなくなってしまうと、幅広い品目で品不足が発生し、価格も上昇していくかもしれません。

 

この場合、工場は大量の売れ残りで困り、消費者は物不足と値上がりで困る、ということが起きかねないわけですね。

金融緩和がインフレを加速しかねない

「金融緩和をすれば物価が上がる」という学説がある一方で、いくら金融緩和しても物価が上がらないという現実があります。

 

筆者の理解では、金融緩和は物価上昇の原因とはならないけれども、ひとたび人々のインフレ懸念に火がつくと、それを加速する燃料のような働きをする、ということだと思います。

 

人々が「物価が上がりそうだから、急いで買おう」と考えたときに、世の中に大量の資金が出回っている場合とそうでない場合では、インフレの度合いが違ってきそうですから。

 

以上、インフレの可能性について考察しました。不況下でデフレが来るのも大変ですが、インフレが来るのはさらに大変です。不況対策とインフレ対策を両立させるのは大変難しいことですから。

 

ここで述べたのはあくまでもリスクシナリオです。実現しないように祈りながら筆を置くこととしましょう。
 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。

 

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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