
目の病気として知名度の高い「白内障」。高齢者の病というイメージが強いものの、若い世代でも発症する恐れがあります。正しい知識を身に付け、きちんと備えておくことが重要です。今回は『「見える」を取り戻す白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、板谷院長が診察した患者の症状から「ステロイドの副作用で発症する」白内障について解説します。
Case2:ステロイドの副作用で「白内障」発症のケース
【42歳男性のAさん】
20代からずっと痔を患っていたが、市販の塗り薬でしのいでいた。目は健康で、幼少期から視力は良好。ほとんど眼科にお世話になったこともない。目とはまったく関係がないが、若い頃から痔を患っており、症状が出るたび市販の痔の塗り薬を使用していた。しばらくすると症状が治まるので、医療機関にかかったことはない。
◆発症時の自覚症状
最近、片目だけかすんでよく見えないという症状があった。また少し離れたものを見るときに、すりガラスを通したように、後ろのほうのものがかすんで見えるという症状も。最初は疲れ目かな?と思っていたが、眠っても、目を休めても良くならず眼科を受診した。
◆診断・治療
痔の薬には副腎皮質ステロイドホルモンが含まれているものがあり、白内障を発症する要因になることも。痔の薬がなぜ目の病気を引き起こすのか疑問に思う方も多いことだろう。
Aさんはステロイドの影響により「後嚢下(こうのうか)白内障」を発症。手術により白内障は完治し、現在は1.2の視力を取り戻している。
他のケースはこちら>>>【Case1】
ステロイドには炎症を強く抑える働きがあり、ステロイド=悪ではありません。アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患や、リウマチなど膠原病(こうげんびょう)を患っておられる方にとっては、必要不可欠な優れたお薬です。
しかしどんなお薬にも、リスクとベネフィット(利益)があり、その両方をよく知った上で使うことが大切です。
ステロイドは、一般の方にはあまり知られていませんが、実は目に影響が現れることがあります。主なものは3つで、①後嚢下白内障、②眼圧の上昇、③中心性漿液性脈絡網膜症(ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)です。ステロイドと目への3つの影響について見ていきましょう。
影響①:後囊下白内障
後囊下白内障は、ステロイドを使用していた人によく見られる病気です。
水晶体を包んでいる袋を嚢(のう)といいますが、袋の後ろ側が濁るものを後嚢下白内障といいます。中心部から、すりガラスのような濁りが生じるのが特徴です。

瞳孔は明るい所では小さく閉じるので、光の通り道にあたる中心部が濁ってしまいます。かなり初期から見えづらいなどの症状が現れることがあります。

また、視力低下のスピードが早いというのも大きな特徴です。
Aさんも、目とはまったく関係のないお尻に痔の薬を使っていたことで、後囊下白内障を発症しました。ステロイドは内服だけでなく、外用薬として使用していても白内障を発症することがあります。
しかしステロイドを使用している方すべてが白内障を発症するわけではありません。発症率と投与期間・量の間には統計学的な相関がみられず、ステロイドに対する患者さんの感受性が関係するのでは? という意見もあります。
しかし、どうしてステロイドを使うことで白内障を発症することがあるのか、はっきりしたことはわかっていません。ステロイドの影響により白内障になられたとしても、手術によりクリアなビジョンを取り戻すことが可能です。
影響②:眼圧の上昇
ステロイドを使うことでだれでも眼圧が高くなるわけではありません。ステロイドの使用により眼圧が高くなる方のことを「ステロイドレスポンダー」と呼んでいます。
ステロイドレスポンダーは、どのくらいの割合でいるのかわかっていませんが、もし眼科検診などで“眼圧が高いですよ”と言われたら、市販薬も含めて使っている薬をかかりつけの医師に伝えてください。
特に、開放隅角緑内障の患者さん、若年者、糖尿病の患者さんなども、ステロイドを使用することで眼圧が上がるリスクが高いとされているので注意が必要です。
では、どうして眼圧が上がるのかですが、まだしっかりとはわかっていませんが、目の中を循環している房水という液体を排出する線維柱帯とよばれるフィルターがステロイドを使用することで目詰まりを起こし、つまり気味になって排出されにくくなるからではないかとされています。
早めに気がついてステロイドを中止できれば、眼圧は低下します。発見が遅れると自然には下がりにくくなります。こういう場合やステロイドを止められない場合は点眼治療、レーザー治療、手術治療で下げることができます。
影響③:中心性漿液性脈絡網膜症
目はよくカメラに例えられますが、レンズに相当するのが角膜と水晶体で、フィルムにあたるのが網膜です。網膜の中心部にあって、見るための細胞(視細胞)が密集して存在している部分が「黄斑(おうはん)」です。大きさは1.5㎜程度です。

中心性漿液性脈絡網膜症は、この黄斑の下に血液の水分が漏れて溜まり、部分的に網膜剥離が生じる病気です。30〜40代の働き盛りの男性に多いとされていて、視野の中心が暗く見えたり、ものが実際よりも小さく見えたり、ものがゆがんで見えるなどの症状が現れます。

それほど視力低下はせず、悪くても0.5程度でとどまることが多いです。
原因は不明ですが、ステロイドの影響の他、精神的ストレス、過労、睡眠不足などが要因になるとされています。
この病気は自然に治ることが多いのでまずは経過観察をしていきます。しかし、自然に改善してこない場合はレーザーによる治療を行います。また、いったん良くなっても再発を繰り返すこともあり治療が必要になります。
板谷 正紀
医療法人クラルス 板谷アイクリニック銀座 院長