
目の病気として知名度の高い「白内障」。高齢者の病というイメージが強いものの、若い世代でも発症する恐れがあります。正しい知識を身に付け、きちんと備えておくことが重要です。今回は『「見える」を取り戻す白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、板谷院長が診察した患者の症状から「アトピーが原因で発症する」白内障について解説します。
Case1:アトピー性白内障
【35歳女性Aさん】
30代で白内障を発症。対向車のライトが耐えがたいなど、異常にまぶしさを感じていた子どもの頃からアトピー性皮膚炎を患っており、ひどいかゆみのため、長年の間、目をたたいたり、こすったりという行為を繰り返していた。またステロイドの外用薬も断続的に使用していた。
◆発症時の自覚症状
明るいところで向こうから歩いてくる人の顔がまぶしくて見えにくかったり、夜間に車を運転しているときに対向車のライトが非常にまぶしく感じ、前方を見ていられなかったりということが度々あった。
◆診断・治療
まぶしさを感じるようになって3カ月ほど経ったころ受診。診断は「アトピー性白内障」。症状はかなり進んでおり、早期の手術が必要だった。診断から手術まで2週間程度。現在は、両目とも1.2の視力を取り戻している。
白内障というとどうしても年配の方の病気というイメージがありますが、アトピー性の白内障は早ければ10〜20代でも発症することがあります。
また、アトピー性皮膚炎によって発症する白内障は進行が早く、早い場合は数週間から数カ月で一気に水晶体が濁り、視力が低下することも少なくありません。そのため仕事や運転に支障が出る前に早期に手術により治療をする必要があります。

「手術なんて怖いからなるべく避けたい……」と手術を受けることをためらっていると、水晶体がどんどん膨張してしまい、手術の難易度が高くなる場合もあります。仕事や運転に支障を感じ始めたら、なるべく早めに手術を受けるようにされてください。
アトピー性白内障の特徴
白内障には水晶体の濁り方によりいくつかのタイプがありますが、アトピー性白内障は、水晶体の中身を包む袋である嚢(のう)から濁り始めることが多いという特徴があります。袋の前側が濁るものを前嚢下(ぜんのうか)白内障といい、後ろ側が濁るものを後嚢下(こうのうか)白内障と言います。

アトピー性白内障に多い前囊下白内障や後囊下白内障は、袋(嚢)の中心部分から濁り始めることが多く、初期の頃から異様にまぶしさを感じたり、暗いところから明るい所に出ると見えにくかったりという症状が現れることが多くなります。

これは、中心部に濁りが生じることで光が乱反射し、強いまぶしさを感じることが原因です。また瞳孔は明るいところでは小さく閉じるため、中心部が濁っていると見えにくいという症状が起こります。
原因は「たたいたり、こすったり」⁉
どうしてアトピー性皮膚炎の人に多く白内障が発症するのか、まだ原因はよくわかっていません。アトピー性皮膚炎の治療に使われる、副腎皮質ステロイドホルモンが原因のひとつともされていますが、ステロイドを使っていない方でも白内障を発症するケースはあるので、ステロイドが原因とは言い切れません。
ステロイドを使っている方は「後嚢下白内障」という病気を起こしやすいことがわかっています。しかしステロイドの使用では前囊下白内障にはなりにくいので、お薬が原因とはいえません。
最近注目されている原因としては、かゆさから、目のまわりをたたいたり、目を強くこすったりという行為による外傷が原因になっているという可能性も指摘されています。
外から強い機械的刺激を加えると、どうして白内障になりやすいのかまだよくわかっていませんが、たたいたり、こすったりという強い刺激を目に与え続けると、水晶体を支えるチン小帯(ちんしょうたい)という部位が弱ってしまい、白内障手術をする際に眼内レンズが目の中にうまく設置できないという事態になりかねません。

かゆみが強いと目の周囲をたたいたり、こすったりすることをやめることは難しいですが、できるだけ強くしないよう心がけていただきたいです。良い皮膚科の先生と出会い、かゆみの軽減がはかれることも大切です。
網膜剥離などを合併していることも
先ほど、アトピー性皮膚炎の方は、目の周りをたたいたり、強くこすったりという行為を繰り返す方が多いとお話ししました。そのためアトピー性皮膚炎の方の中には、裂孔原性網膜剥離を合併しているケースも少なくありません。
裂孔原性網膜剥離とは、網膜に孔が開いて網膜の土台(網膜色素上皮)から網膜が剥がれてしまった状態をいいます。

アトピー性白内障は若年層で発症する方が多い疾患ですが、アトピー性の網膜剥離のおよそ7割は、15〜25歳で発症しているといわれます。またそのうち4割のケースでは、両目ともに網膜剥離が生じています。アトピー性皮膚炎の方は、定期的に眼科の検査も受け、網膜剥離が生じていないかチェックするようにしてください。
万が一、網膜剥離を合併されていたとしても、白内障の手術を行う際に、網膜剥離の状態によっては同時に網膜剥離を治療することが可能です。
板谷 正紀
医療法人クラルス 板谷アイクリニック銀座 院長