喫煙で高まる失明リスク…「目に悪い生活習慣」とその改善策

「黄斑」という器官には、ものを見るのに必要な視神経が集まっていて、私たちの視界を常に支えています。そのため常に強いストレスが掛かっており、悪い影響を与える生活習慣を続けることで、病気になってしまうことがあります。今回は、はんがい眼科・板谷正紀理事長の著書『目の悩みは眼底を疑いなさい「見える」を支える“黄斑”のチカラ』より一部を抜粋し、見直すべき「目に悪い生活習慣」とその改善策について解説します。

喫煙は「目の健康」にとって、百害あって一利なし

呼吸で取り込んだ酸素のうち2~3%は、強い毒性を持つ「活性酸素」に変化してしまいます。増加しすぎると「目を守っている」黄斑の細胞を傷つけてしまうことがあるため、「抗酸化物質」といわれる栄養素を摂取し、増加を抑える必要があります。

 

ほうれんそうやブロッコリーなど、「抗酸化物質」が豊富に含まれる食品を摂取し、抗酸化力を高めましょう。

 

しかし、食生活を改善して抗酸化力を高めたとしても、黄斑を傷めるような生活を続けていたら台無しになってしまいます。とくに当記事に書いてあるような生活習慣のある人は、すぐにでも見直しが必要です。(関連記事:間食するなら「素焼きのナッツ」⁉目にやさしい食生活のススメ

 

一番注意いただきたいのは「喫煙」です。さまざまな研究により、加齢黄斑変性を引きおこす危険因子であることが明らかにされてきました。

 

たばこに含まれる成分が、抗酸化作用のある血中成分を壊してしまいます。喫煙が健康を害することは、今さら説明する必要はないでしょうが、強い酸化ストレスにさらされていて精密で繊細な黄斑は、まっ先にその影響を受けてしまいます。

 

また、黄斑を守る守護神の1つである網膜色素上皮も傷みやすくなります。

 

[図表1]網膜色素上皮

 

たばこを吸う人だけでなく、周りにいて副流煙を吸ってしまう人にも、同じことがおこります。喫煙により血管が収縮するとその間、全身に新鮮な酸素と栄養素を届ける作業が停滞します。それが何度も繰り返されるわけですから、末梢のか細い血管、つまり網膜の下に張り巡らされた細い毛細血管には血流が十分に行き届かなくなってしまうのです。

 

さらに中性脂肪の分解が遅れて血液がドロドロになり、コレステロールが血管の内側の壁にこびりつきます。そうして通りが悪くなった部分に血液が滞留して膨らんだり、成分が滲み出たり、場合によっては圧に耐えかねて出血してしまったりするのです。

 

黄斑の下でこのような現象がおこると、黄斑浮腫という病気になってしまいます。

 

[図表2]黄斑浮腫のOCT画像

 

 

血管のしなやかさを維持するために食生活を改善しても、たばこを吸っていたら台無しです。

 

たとえば抗酸化物質の代表格であるビタミンCは、たばこ1本ごとに25ミリグラム消えてしまうとされています。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では成人(15歳以上)の場合、1日100ミリグラムのビタミンCを摂取することが推奨されていますが、たばこを4本吸うと帳消しになってしまいます。

 

「そのぶんビタミンCを多く摂ればいいじゃないか」という問題では、もちろんありませんので念のため。

「目の病気」の多くはメタボリックシンドロームが原因

身体中に血液が巡り、それぞれの臓器・組織の機能が発揮され健康が保たれていることはご存じの通りです。全身に張り巡らされた血管網に問題が出ると、さまざまな故障を引きおこします。

 

目の場合、糖尿病から糖尿病黄斑浮腫を引きおこします。静脈が詰まる網膜静脈閉塞症も黄斑浮腫を引きおこす代表的な病気ですが、高血圧が危険因子です。

 

[図表3]網膜中心静脈閉塞症により眼底に出血が起きた様子

 

網膜の動脈が閉塞する網膜中心動脈閉塞症は、2時間程度で網膜内層の神経細胞が壊滅するため黄斑浮腫を引きおこす間もなく黄斑は傷んでしまいます。網膜中心動脈閉塞症は心臓や頚動脈から血栓が飛来しておきることが多いのですが、頚動脈が飛来源の場合は、やはり高血圧から起きる頚動脈のアテローム性動脈硬化が原因になります。

 

この場合、目の疾患だけではなく脳梗塞のリスクがあります。

 

このように網膜の血管の病気は、多くが生活習慣病、メタボリックシンドロームからおきていることがわかります。そして、生活習慣病の危険因子は先述した喫煙と偏った食生活と言われています。

糖分・塩分・脂肪分の摂取量には要注意

なかでも、糖分・塩分・脂肪分の多い食事への偏りには注意が必要です。

 

糖分というと、チョコレートやドーナツなど「いかにも甘いもの」だけを思い浮かべるかもしれませんが、ごはんやパンなどの炭水化物も消化されると、ブドウ糖という糖分に変換されます。単純に「砂糖◯個分」などと換算するのは正しくありませんが、炭水化物の摂りすぎが血糖値を上げることは間違いありません。

 

いつもごはんを山盛り一杯に食べている人は、少し軽めによそうようにしましょう。あるいは食事の始めはサラダなど野菜類から箸をつけ、おかずを食べてからごはんをいただくという「食べる順序」を工夫するのも効果的です。

 

お腹が空いているとついごはんを掻き込んでしまいますが、食物繊維の豊富な野菜から食べることで血糖値の急激な上昇を抑えることができます。

 

塩分の摂りすぎは高血圧の原因になります。動脈がしなやかさを失っているところに、高い圧力で血液が流れれば血管の壁に負担がかかってしまいます。脂肪も同様に、多すぎると血管が詰まりやすくなります。

 

糖分も塩分も脂肪分も、からだにとっては必要な栄養素です。けれども、現代の食生活では、これらを過剰に摂取してしまいがちなのです。食生活を見直すことで、黄斑はもとより動脈硬化や糖尿病など、成人病の予防にもつながります。

健康を保つためには「ストレスを貯め込まない」こと!

黄斑の病気は、働き盛りのビジネスパーソンにも見られます。もっと踏み込んで言えば、責任感が強く、性格が優しく、インテリの人がなりやすい傾向にあります。

 

「中心性漿液性脈絡網膜症」という黄斑疾患は壮年男性に多く見られ、A型気質の方がなりやすいといわれています。網膜の土台の脈絡膜から血漿成分が網膜色素上皮の孔を通って網膜の下に溜まる病気です。

 

[図表4]中心性漿液性脈絡網膜症の眼底写真

 

歪んで見える変視症、ものが小さく見える小視症、ひどくなると真ん中が見えにくい中心暗点を自覚します。

 

[図表5]変視症・中心暗転の見え方

 

中心性漿液性脈絡網膜症の患者さんからは、「最近、とくに仕事が忙しかった」「人間関係のトラブルに悩んでいた」「忙しくて睡眠時間を削っていた」といった、ストレスの高い状況が聞けるケースが多いです。

 

「心理的なことが直接、目の奥の病気の原因になるの⁉」と驚かれるかもしれません。けれど黄斑というのは、それくらいセンシティヴな箇所なのです。適度なストレスは生き生きとした人生に大切ですが、過剰なストレスは自律神経のバランスを崩します。

 

連日の仕事で、心と身体は休みたがっているのに仕事を行うと交感神経が優位な状態が持続し体中のあちこちが悲鳴を上げ、人それぞれ異なる弱いところに問題が現れてきます。

 

体中の器官や組織は、その人が意識しなくても活動を行っているから生きていけるのです。この無意識に身体をコントロールしているのが自律神経で、交感神経と副交感神経という両極の神経がバランスを取ってコントロールしています。

 

心臓、消化管、腎臓、肝臓、体温調整などがよく知られていますが、黄斑の守護神である網膜色素上皮と脈絡膜も自律神経によりコントロールされているのです。

ストレス改善のためにできること

ストレスを感じやすい性格である場合は、すぐに改善は難しいかもしれません。しかし、過度なストレスが身体に悪いことを知ること、その上で今の自分にかかっているストレスを意識してみることは、自分を客観視することにつながり、自分をいたわり休ませようとする意識につながるはずです。

 

一人で問題を抱え込まないようにするとか、小さなことにはこだわらず大らかに振る舞ってみるとか。ストレスを感じたら、意識して深呼吸をして心を落ち着かせてみるのも1つの方法です。

 

体調を整えるというのも、ストレス軽減にはとても有効です。からだの調子が良くないと、気分もすぐれないものです。睡眠不足だったり栄養状態が偏っていたり、飲み過ぎたり、不規則な生活になっていないでしょうか?

 

また、今の時代は、さまざまなストレス解消の手段があり、何が自分にとって癒やしになるかはご自分がご存じのはずです。自分に休息を与え、癒やす力も健康に生きる上で大切なスキルなのです。ストレスとその他の黄斑の病気の関係はまだまだわからないことが多いです。それでも黄斑が自律神経に守られていることは知っておいても良いのではないでしょうか。

「有酸素運動」を日課にするべき!

これは体調管理とも関係するところですが、適度な運動を習慣にすることは、黄斑(だけではありませんが)の健康維持に欠かせません。運動といってもいろいろありますが、是非取り入れていただきたいのは「有酸素運動」です。

 

有酸素運動とは、軽~中程度の負荷を継続的にかける運動のことで、ウォーキングやジョギング、水泳などのことです(ちなみにグッと息を止めて瞬発的に力を入れる短距離走や筋トレなどは「無酸素運動」といいます)。有酸素運動では、脂肪を燃やすことで筋肉を動かします。

 

血液中の脂肪(中性脂肪)が減れば、血管の内側にこびりついたギトギトがなくなっていき、血液がスムーズに流れるようになります。そうすれば、からだの隅々まで張り巡らされた毛細血管のすべてに(もちろん黄斑にも)新鮮な酸素と栄養が行き渡り、細胞が活性化します。

 

特に、黄斑浮腫を引きおこす黄斑疾患は、高血圧や糖尿病網膜症が関係します。

 

[図表6]糖尿病網膜症は、症状が進むと失明のリスクも

 

有酸素運動により心血管系が強化され血圧が下がることが知られています。また、有酸素運動はインスリンの分泌を高め糖尿病にも効果があります。まさに、いいことずくめなのです。

 

継続こそが力なり。苦痛を感じるまで、頑張る必要はありません。爽快感を感じながらできる時間で始めましょう。繰り返しているうちに身体の「適応」がおこり負荷が増えても、時間が延びても苦痛を感じず爽快感を感じるようになります。

「20分以上」運動する必要があるのか

「20分以上運動する必要がある」と書かれているのをよく目にしますが、これも気にする必要はありません。忙しい生活の中で20分以上時間を取ろうとすると結局続きません。運動開始直後から脂肪燃焼は始まっていることがわかっています。20分以上続けると脂肪燃焼効率が高まるだけの話です。

 

生活の一コマで、電車一駅なら歩いて行く、エレベーターを使わずに階段を使う、と変えるだけで有効な有酸素運動になります。

 

意識
意識して運動することが重要

 

もし、まとまった運動時間を取りたいと思われたら勤務先から歩いて30分くらいのところに住むのも良い方法です。筆者はクリニックから3㎞のところに住んでいます。開業当初はクリニックの3階に寝泊まりしていたのですが、通勤時間0分、これでは病気になってしまうと思い、引っ越しました。

 

天候が悪くない限り片道35分を歩いて通っています。持ち家があって簡単には引っ越せない方は、勤務先の一駅手前で降りて歩くという方法もあります。車通勤なら勤務先から離れたところに駐車場を借りて歩いても良いですね。食事とともに運動が身体をつくるという意識が健康をつくります。

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載眼科理事長が解説!「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

板谷 正紀

幻冬舎

欧米の成人失明原因第1位でありながら、あまり認知されていない黄斑疾患。初期症状や治療法、予防法を徹底的にわかりやすく解説した革新的一冊。