コロナ不況、日本経済の足を引っ張る「ROE偏重経営」の実情

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家の塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第18回は、今後しばらく継続するであろう「コロナ不況」において、企業が株主の要望に応じ「高いROE(株主資本利益率)」を維持する危険性を考察します。

企業の収益性を測る重要指標、ROAとROE

企業の評価に用いられる指標に「ROA」や「ROE」といったものがあります。株式投資の世界ではROEが話題になることが多いようですが、どちらも指標としては重要です。

 

●ROAとは

 

ROAというのは「Return on Assets」の略で、日本語では「総資産利益率」と呼ばれます。ROAは利益額を総資産額で割った値のことです。総資産というのはバランスシートの左側の大きさのことです。

 

バランスシートの左と右は常に同額です。株主から集めた資金と銀行から借りた資金で資産を買うわけですが、集めた資金の額が右側に、持っている資産の価値が左側に記されているからです。

 

したがって、当然ながら総資産はバランスシートの右側の大きさのことでもあります(バランスシートについては、拙稿『大学教授が高校生にもわかるように「バランスシート」を解説』を参照ください)。

 

ROA(総資産利益率) = 利益 ÷ 総資産

 

バランスシートの左側に注目すれば「持っている資産をどれだけ有効に使って利益を稼いだか」ということですが、バランスシートの右側に注目していいかえると「株主から集めた資金と銀行から借りた資金をどれだけ有効に使って利益を稼いだか」という指標だ、というわけですね。

 

これは企業の稼ぐ実力を表しますから、これを高めるためには、よい製品を作ったり業務を効率化したりすることが重要で、社長が全力で取り組む必要があるでしょう。

 

●ROEとは

 

ROEというのは「Return on Equity」の略で、日本語では「株主資本利益率」とか「自己資本利益率」などと呼ばれます。

 

ROEは利益額を株主資本で割った値のことで、株主資本というのはバランスシートの右下の「純資産」のことです。「株主から集めた資金をどれだけ有効に使って利益を稼いだか」という指標ですね。

 

ROE(株主資本利益率) = 利益額 ÷ 株主資本

 

これを高めるためには、「ROAを高める」「バランスシートの右上を大きくして右下を小さくする」という2つの手段がありますが、2つ目は簡単です。財務部長が銀行から借金をして自社株買いをすればいいだけのことですから。もっとも、それは好ましくない、というのが本稿の主張です。

株主がROEを重視するのは当然だが…

以下のようなA社、B社、C社という3つの会社があるとします。業務内容等々はまったく同じですが、負債額だけ異なっている3社です。ROAはまったく同じなのに、ROEは大きく異なっているのは、総資本に占める負債の比率が違うからです。

 

A社 ROAは1% 総資本は100 負債は0  ROEは1%

B社 ROAは1% 総資本は100 負債は50 ROEは2%

C社 ROAは1% 総資本は100 負債は90 ROEは10%

 

「レバレッジ」という言葉があります。日本語では「てこ」ですね。具体的には総資本を株主資本で割った値のことです。これを高めればROEは上がるのです。

 

株主にとっては、自分が投資した資金が有効に使われて大きな利益を稼いでもらうことが重要ですから、経営者に高いROEを要求します。それは当然です。

 

株主が高ROEを求めると、企業はレバレッジを高めようとするかもしれません。銀行から借金をして自社株買いをして、ROEを1%から2%へ、2%から10%へ…と移行しようとする、というわけですね。

 

じつは、それは株主にとって、単に投資した資金が大きな利益を生むというだけではなく、別の面でも都合のいいことなのです。

 

A社が損を出すと、すべてが株主の損になりますが、B社が損を出しても、50を超えるぶんは銀行の負担になるのです。「株主有限責任の原則」というルールによって、株主は出資額以上の責任を問われないからです。

 

さらに、C社の場合には、10を超える損失は銀行が負担してくれますから、株主の損失は最大10ですむわけです。それなら、株主が「C社になれ(ROE10%に高めろ)」というのも納得ですね。

 

株主が高ROEを求めると、企業はレバレッジを高めようとするかも
株主が高ROEを求めると、企業はレバレッジを高めようとするかも…

「ROEが高い企業」の減少は、日本経済にもメリット

C社は、10以上の損が出ると倒産のリスクが高まります。銀行が「借金が返せないなら持っている資産を全部売って解散しろ」といってくる可能性が高まるからです。

 

そうなると、経営者と従業員は仕事を失いますし、まだ使える設備機械もスクラップにされてしまいますし、企業が持つノウハウや信用力といったバランスシートに載っていない「財産」だって雲散霧消してしまいます。これは、日本経済にとって大変もったいないことです。

 

政府が「C社のような経営は日本経済にとって望ましくないから、A社のような経営状態のままでいろ」というわけにはいきませんが、銀行ならばそれがいえそうです。

 

「A社がC社のようになると、わが行のリスクが高まるので、自社株買いをするための資金は貸せない」といえばいいからです。あるいは、「リスクをわれわれに押し付けたいなら、高い金利を払ってもらおう」でもいいでしょう。

 

しかし実際には、長引く金融緩和によって銀行はマトモな金利を払ってもらえる顧客が減ってしまい、仕方なく「自社株買いのための資金でも、借りてくれるならありがたい」というムードになっていたわけです。

 

それがいま、新型コロナ不況で変化するかもしれません。倒産が増加すれば銀行の損失が膨らみ、「やはり自社株買いのための資金は融資すべきでなかった」と考えるようになるかもしれないのです。

 

倒産の増加は決してうれしいことではありませんが、銀行がC社の危険性を再認識し、自社株買いの資金を貸したがらなくなる、あるいは高い金利を要求するようになる、というのであれば、それは将来の日本経済にとって望ましいことです。新型コロナ不況における不幸中の幸いとして、前向きにとらえましょう。

米国では「バクチ的経営」を支持する株主も

ここからは余談です。米国では株主主権ですから、C社が多くなっているようです。しかも、C社の経営者にはリスクを好む人が選ばれるようです。

 

いま「20儲かるか20損するか、50%の確率だ」というビジネスがあったとします。A社もB社も関心を示さないでしょうが、C社の株主は大いに関心を示すはずです。20儲かれば全部株主のものですが、20損すれば半分は銀行が負担してくれるのですから。

 

したがって、C社の株主はこうしたビジネスを好む人を経営者に選ぶことになり、C社は危険なビジネスを行うので、倒産する可能性が高くなる、というわけですね。

 

幸いなことに、多くの日本企業は従業員の雇用を重視していますから、5割の確率で倒産するような危険なビジネスには手を出さないでしょう。過度な懸念は不要ですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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