大阪・築60年以上の建物に暮らす杉山二郎さん(83歳)。月5万円の家賃を滞納し、その額は200万円に膨れ上がっていた。生涯独身、定年まで勤め上げ、「お金はあるはず」の杉山さんは、なぜ家賃の支払いを拒み続けたのか。このままだと強制執行は免れない。4畳ほどの小さな部屋を巡り、長い闘いが始まった。※本連載では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋し、高齢者の賃貸トラブルの実態に迫っていく。

強制執行の催告…ドアを開くと、強烈な悪臭が漂った

まだ肌寒い3月、強制執行の催告が行われました。

 

二郎さんは室内にいましたが、部屋の引き戸を開けません。執行官がいくら声をかけても、籠城です。古い建具なので、ガタガタしていたらドアごと外れそうな勢いでした。

 

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「開けるよ」

 

執行官が声をかけると、二郎さんは中から何やら大声を出しています。同時に鍵屋さんが簡単にドアを開けました。家主さんにすれば、何年かぶりに会う二郎さん。執行官や私にとっては、姿を見るのは初めてです。

 

二郎さんは痩せ細り、銭湯にも行っていないからか、髪の毛は長く絡まったまま。洋服もいつ着替えたのかすら、分からないほど汚れています。ドアが開いた瞬間からツンと鼻をつく悪臭が漂い、とてもじゃないけれど耐えられません。思わず口で息をしました。

 

部屋の隅には、使用済みの下着が積まれたままでした。悪臭の源はこれなのでしょう。二郎さんは障害者手帳も持っていながら、必要なサポートを受けていないのでしょうか。

 

家賃を滞納していることは悪いし、高齢者だから許されるという訳ではありません。年齢的には執行不能かもしれませんが、二郎さんの姿を見れば、この部屋で住み続けることはもう不可能としか思えません。想像以上に劣悪な環境です。これでは、一人で近くの銭湯にも行けるはずがありません。

 

窓のない4畳ほどの空間で1日の大半を過ごしているのでしょう。あまりに非衛生的でもあります。部屋に脱ぎっぱなしになっていた下着からしても、廊下を挟んだ対面にあるトイレにも行けていないようです。明らかに介護が必要な状況なのに、それが得られていません。ご飯もどうしているのでしょう。

 

執行官も同じことを感じたようです。

 

「体調はどうなの? 大丈夫なの?」

 

二郎さんは必死にドアを閉めようとします。

 

「このままだと執行で荷物全部出しちゃうことになるよ。そうなったら大変でしょう? ちゃんとここにいる司法書士さんとか、周りの人と相談してね。分かった?」

 

執行官は、あとはよろしくと逃げ腰です。

 

「二郎さん、目の見えない人たちの施設もありますから。そこを探していきましょう」

 

私が声をかけても、返事はただ「帰れ!」の一点張り。

 

「今日は帰るけど、これからのこと一緒に考えていきましょうね」

 

そう声をかけても返事もなく、ドアがぴしゃっと閉められてしまいました。

 

ドアを開けたら強烈な悪臭が漂ってきた
ドアを開けたら強烈な悪臭が漂ってきた

 

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老後に住める家がない!

老後に住める家がない!

太田垣 章子

ポプラ社

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