コロナ拡大でも「いったん自粛は緩めるべき」これだけの理由

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家の塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第17回は、新型コロナウイルスを恐れて過剰な自粛に走るのではなく、状況を見ながら「自粛と緩和」に緩急をつけ、経済を持ち戻す方法を考察します。

長い付き合い&共生必須となりそうな「新型コロナ」

筆者の専門は経済であり、医学方面は詳しくありませんが、聞くところによると、どうやら新型コロナウイルスは撲滅することがむずかしく、従来型のインフルエンザと同様に共生していくしかなさそうです。

 

従来型のインフルエンザでも、毎年何千人も亡くなっているのですから、新型コロナウイルスもそれくらいは覚悟しなくてはいけない、ということなのでしょう。逆にいえば、多くの人々が免疫を獲得して治療薬も開発されれば、その程度にまで抑え込める、ということだと期待しています。

 

そうなると、それまでの間をどう過ごすかということが論点となるわけですが、その際にぜひ考えたいのは「経済活動とのバランス」です。

 

 

短期決戦であれば、経済活動を大幅に制限してでも感染爆発を抑え込むということが合理的なのでしょうが、半年も1年も厳しい自粛が続くと、経済への打撃が深刻になりすぎます。

とりあえず現在は、自粛が奏功して新規感染者数が減少しているようなので、いったん自粛を緩めるべきでしょう。

 

「自粛を緩めれば、再び新規感染者が増える」という懸念はもっともですし、筆者もそのように思います。しかし今回わかったのは「本気で自粛をすれば新規感染者は減らせる」ということです。それならば「増えたら再び自粛しよう」と決めておけばいいのです。

未知のリスク、コントロールできないリスクは怖いですから、「なんとしても抑え込もう」という判断でいいと思いますが、どの程度自粛するとどの程度の効果が得られるのかがわかった以上、アクセルとブレーキを上手にコントロールしていくべきでしょう。

 

あああ
自粛による効果がわかったところで、うまくコントロールしていこう

自動車事故が怖くても、自動車が禁止されない理由

「人命は地球より重い」などといいながら「自動車を廃止しよう」という声が聞かれないのはなぜでしょうか。自動車事故で毎年何千人もの方が亡くなっているのにもかかわらず、です。

 

現状では自動車を利用しつつ、制限速度を設けたり、飲酒運転を禁止したりすることで対応しているだけです。リスクとコストとベネフィットを比較して、折り合いをつけて共生しているわけですね。

 

インフルエンザも、毎年何千人もの方が亡くなっているのに、外出自粛要請など出されていませんし、流行の季節になっても人々は普通に生活しています。

 

そうであれば今回も「頻繁に手を洗う」「3密を避ける」「社会的距離を確保する」「マスクをするなど、咳エチケットを徹底する」「Webでできる会議はWebで」等々を徹底したうえで、自粛を緩和すればいいでしょう。

 

もう少し気楽に考えてみましょう。感染が再拡大したら、再び自粛を強化すればいいのです。「週間死亡者数が一定数を超えたら自粛を再び強化する」といった基準を設けておけばいいでしょう。

倒産が相次げば、不良債権増加で金融危機リスクも

すでに企業の倒産が増えている模様ですが、このまま自粛が続けば倒産が激増しかねません。倒産は、経営者や従業員にとって大きな打撃であるのみならず、日本経済にとっても大きな痛手です。したがって、多くの企業が何とかギリギリ持ちこたえている間に、景気を回復させる必要があるのです。

 

 

倒産が相次ぐと銀行の不良債権が増加し、金融危機が発生するリスクも高まってきます。すでに長期にわたるゼロ成長とゼロ金利で、経営が苦しくなっている地域金融機関も少なくないようですので、リスクシナリオのひとつではありそうです。

 

「人命は地球より重い」という立場からも、景気は重要です。金融危機の年であった1998年の自殺者は前年比で激増し、そのまま3万人を超える水準で高止まりを続けましたが、アベノミクスによる景気回復期には順調に減少し、昨年は約2万人にとどまりました。不況は自殺者を増やしかねないのです。

 

自粛の問題点は景気だけではありません。今回は外出自粛でストレスがたまったり、運動不足になったりしている人が多いそうですから、高齢者を中心に新型コロナウイルス以外の病での死者が増える、といった心配もあるでしょう。

 

そうしたことも考えて、人命重視の観点からは「コロナで死亡する人の数と、自粛の影響で死亡する人の数の合計が最小になる」ことを目指すべきでしょう。

 

感染症の関係者だけではなく、経済やストレス等の関係者等の話もしっかり聞いて、バランスのとれた意思決定をしていただきたいものです。

政治家等の保身が「自粛緩和」の妨げになるかも

本件が政治家にとって、判断の難しい事案であることは十分理解しています。せめて「自粛を続けた場合と緩めた場合の死者の数」だけでも予測できればいいのですが、どちらも非常にむずかしいでしょうから。

 

自粛を緩め過ぎれば感染が拡大してしまいますし、自粛しすぎれば経済に深刻な打撃が加わります。そこを上手なさじ加減で乗り切っていただくことを期待しています。

 

もっとも、懸念がないわけではありません。人々が保身に走ると、どうしても自粛延長論が強まるからです。自粛を緩和して感染が拡大すれば批判されるでしょうが、自粛しすぎで経済が混乱しても「自粛が足りなければ感染爆発が起きていたはずだ」といえば批判はかわせるからです。

 

世論の動向も気がかりです。医療関係者は不況より感染拡大に関心を持つ人が多く、自粛延長を支持する人が多いでしょう。目立ちたい評論家も「自粛しないと感染爆発が起きる」などと危機を煽りがちですし、マスコミのなかにも視聴率向上を目指して危機を煽るところがあるかもしれません。

 

そうした情報を得ている人々は、自粛延長を支持するかもしれません。世論が自粛延長を支持すると、ますます保身のために自粛延長に傾く政治家が増える可能性もあります。

 

意思決定をされる方々は、ぜひともそうした保身に走ることなく「感染が拡大したら再度自粛すればいい」ということをしっかり意識して、適切な判断をしていただきたいものです。もちろん、保身に走るようなことはないと信じていますが、念のため。

 

以下は余談ですが、シルバー民主主義(政治家が高齢者に有利な政策を採りたがること)の懸念も皆無ではありません。自粛を続けると困るのは現役世代で、自粛を緩和するとリスクが増えるのが高齢者だとすると、「高齢者を救うか、現役世代を救うか」という「トロッコ問題(どちらか片方しか救えないという究極の選択)」となりかねないからです。

 

現時点では、自粛が世代間のトロッコ問題であるとの認識は広がっていないようですから、政治家がそれを意識することはないと期待していますが。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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