両親が近視の子供…2時間の外遊びで「近視リスク」が1/3に!

今回は、はんがい眼科・板谷正紀理事長の著書『目の悩みは眼底を疑いなさい「見える」を支える“黄斑”のチカラ』より一部を抜粋し、失明原因第5位の「近視」が引き起こす様々な眼疾患について解説します。

近視は失明原因の5位

近視が失明原因になっていることはご存じでしょうか? 

 

2005年の調査では4位、2016年の調査では5位です。実は調査の結果、近視の方が失明する原因に網膜剥離が占める割合は低く、緑内障は含まれておらず、多くを占めるのは黄斑疾患だということが判明しました。

 

網膜剥離は手術技術が高まり治る病気になりました。緑内障は失明原因の1位です。近視の方は緑内障になりやすいですが、失明原因としては緑内障の分類に入っています。紛らわしいのですが、5位という結果は、近視による黄斑の病気による失明ということです。

 

近視の方で緑内障が原因で失明された方は、1位の緑内障に含まれますので、合わせるともっと多いことになります。

近視が強くなると「後部ぶどう腫」が進行していく

近視が強くなると40歳以降に後部ぶどう腫と呼ばれる変化がゆっくり進み黄斑の病気になりやすくなります。[図表1]のように眼底の後ろの部分がくぼんでいき後部ぶどう腫になります。

 

[図表1]後部ぶどう腫

 

 

発育期ではありませんので、くぼんでいくということは後部ぶどう腫の中の網膜や脈絡膜、目の壁である強膜が薄くなっていくということです。

 

昔、摘出した後部ぶどう腫を持つ目を外から見ると、強膜が薄くなり脈絡膜の黒っぽいメラニン色が黒ブドウのようにみえたため後部ぶどう腫と言われるようになりました。

 

後部ぶどう腫の中の組織は極度に引き延ばされ、薄くなり、病気を引きおこしやすくなります。後部ぶどう腫は黄斑を含んでいることが多いため黄斑の病気になりやすくなるのです。

 

後部ぶどう腫の中の黄斑は、前にある硝子体と後ろにある守護神である色素上皮と脈絡膜が病的に変化して、いろいろな病気になるのです。強度近視の目は黄斑が前からも後ろからも脅威にさらされているといえるのです。

 

[図表2]網膜と脈絡膜

網膜が裂けてしまう「近視性黄斑牽引症候群」

後部ぶどう腫の中では、目の壁の伸長についていけない網膜は長さが足りないため、常に土台の色素上皮から離れようとする力が加わっています。具体的には、網膜の血管が伸びきれず、シーツ(網膜)を干した物干し竿(網膜血管)のように網膜を引っ張り上げます。

 

網膜の表面にある内境界膜と呼ばれる薄い膜はコラーゲンでできた膜で伸びにくく、これを網膜血管が引っ張り上げてしまうのです。網膜はスイーツのティラミスのように10層がきれいに重なっているのですが、網膜血管が前に引っ張ると、層と層の間が裂けてしまいます。これを網膜分離と言います。

 

[図表]網膜剥離の眼底・OCT画像

 

 

内境界膜に強くくっついた後部硝子体皮質が、内境界膜を引っ張って網膜分離を引きおこすこともあります。網膜分離が黄斑の中心の中心窩に及ぶと視力低下が始まり、さらに進むと中心窩が剥離して視力低下が強まります。時に、黄斑円孔(黄斑の中心に孔があく病気)に進展してしまいます。

 

近視性黄斑牽引症候群は硝子体手術で治すことができます。

 

[図表3]硝子体手術

 

硝子体手術により硝子体を取り除き、内境界膜を剥離して取り除く術式(内境界膜剥離術)により網膜が伸びやすくなり、網膜分離が解消されます。先述したように強度近視で後部ぶどう腫のある目は黄斑円孔が治りにくいため、黄斑円孔が生じる前に硝子体手術を行うべきです。

治りにくい黄斑円孔網膜剥離

通常の目は黄斑円孔がおきても網膜剥離になることはありません。ところが、強度の近視の目に黄斑円孔が生じると、後部ぶどう腫の中では網膜血管や後部硝子体皮質が網膜を前方へ引っ張っているため、網膜がはがれてしまい網膜剥離がおきてしまうことがあります。

 

[図表]黄斑円孔網膜剥離の超広角レーザー検眼鏡とOCT画像

 

黄斑円孔網膜剥離は、手術しても治りにくい網膜剥離の1つとして知られています。内境界膜剥離術が行われるようになり、網膜が柔らかくなり網膜剥離は治りやすくなりました。しかし、黄斑円孔が閉じにくいため再剥離もおこしやすいのです。

 

そこで、最近では「内境界膜翻転術」や「内境界膜自家移植術」と呼ばれる特殊な術式を行うようになり閉じる率が高くなりました。

守護神の網膜色素上皮が壊れて脈絡膜新生血管が生える

後部ぶどう腫が進行していくと、網膜や土台の色素上皮と脈絡膜も徐々に引き延ばされていきます。

 

網膜と色素上皮の間には、ブルッフ膜という膜があり、色素上皮と脈絡膜を保っていますが、この膜に限界がくると亀裂が入り、炎症がおきます。すると、この亀裂を通って脈絡膜から新生血管という病的な血管が網膜の下に入り込んで出血して網膜を傷めてしまいます。

 

[図表]近視性脈絡膜新生血管

 

治療は、抗VEGF薬*の硝子体注射を行います。この治療が良く効きます。

 

治療が遅れると黄斑の光センサーの細胞が消失したり、土台である網膜色素上皮と脈絡膜の萎縮が拡大していきますので、可能な限り早めに治療を開始すべきです。

守護神が薄くなり萎縮する

後部ぶどう腫の中では、黄斑を守っている網膜色素上皮と脈絡膜が徐々に引き延ばされて萎縮してしまうことがあります。網膜脈絡膜萎縮といいます。十年を超える長い年月で進んでいくゆるやかな変化ですが、今のところ進行を防ぐことができないのが問題です。

 

[図表]病的近視による網膜脈絡膜萎縮の眼底写真

 

2016年の調査発表における近視による失明原因の大部分が、この網膜脈絡膜萎縮によるものなのです。以前は、脈絡膜新生血管を治療できなかったため脈絡膜新生血管の周囲に網膜脈絡膜萎縮が拡大していくことがありました。

 

現在では、早期に抗VEGF薬治療を開始することにより、このタイプの網膜脈絡膜萎縮は防げるようになりました。

視神経が痩せてしまう

後部ぶどう腫を持つ強度近視の目には、視野障害が進行して失明するタイプがあることがわかっています。

 

進行する視野障害といえば、緑内障を思い出されると思います。

 

[図表]緑内障の見え方

 

確かに、強度近視の方は緑内障になるリスクが比較的高いのですが、特に近視が強い目は緑内障とは異なるメカニズムで神経線維が障害されると考えられるようになり、緑内障と区別して近視性視神経症と呼ばれます。

 

緑内障は眼圧を下げることで進行を抑えることができますが、近視性視神経症の進行抑制の方法は確立されておらず、さらなる研究が必要なのです。

強度の近視による「黄斑の病気」を防ぐには?

強度の近視による黄斑の病気を防ぐにはどうしたらよいかと思われるでしょう。残念ながら有効な方法はまだ見つかっていません。今、日本を含むアジア圏で近視は感染症のパンデミックという言葉が用いられるほど爆発的に増えています。今の若者たちが40歳以降どうなるのか危惧されます。

 

唯一できる確実な方法は、多少の近視はやむをえないとして、強度の近視にしないことです。強度の近視を防ぐための予防医療を進めていくことです。

 

近視は8歳から15歳の学童期に進むことがわかっています。この時期に、目の前後の長さ(眼軸長)が過度に伸びて強度の近視になります。両親とも近視ではない子供と比べ片親が近視の子供は2.0倍、両親ともに近視の子供は5.7倍と遺伝的要素はありますが、一方では学童期のライフスタイルの影響も大きいのです。

 

[図表]正常眼と強度近視眼

 

1日1時間以上、外遊びをすると近視の進行が13%抑制されるという研究結果があります。外で遊ぶ時間が1週間で10時間以上になると、たとえ両親ともに近視でも、近視になる確率がかなり低下します。さらに週に14時間以上になると、片方の親のみ近視の子どもが近視になる確率と、ほぼ同じになります。

 

つまり、人が成長するにはバランスが必要であり、勉強で近くを見る作業は必要ですが、スマホを見る時間を減らし、外で遊ぶ時間を増やすことが近視を強くしないライフスタイルなのです。

 

とはいえ、都会では外で遊ぶ場所も乏しく簡単なことではありませんね。近視進行を抑える予防医療も紹介します。

 

低濃度アトロピンの点眼により約60%の近視抑制効果があることが証明されています。夜間に近視治療用コンタクトレンズをはめて角膜の形を平坦に変えて昼間メガネ不要にするオルソケラトロジーという近視治療も近視進行を抑える効果があることがわかってきました。

 

就寝中にコンタクトレンズを装用し角膜のカーブを変えて近視を治す
[図表]オルソケラトロジーのイメージ図 就寝中にコンタクトレンズを装用し角膜のカーブを変えて近視を治す

 

低濃度アトロピンとオルソケラトロジーを併用すると、さらに効果が高いこともわかっています。ただし、これらは自費診療になります。残念ながら、予防医療は保険医療でカバーされないのです。

 

それだけに、強度の近視を防ぐことの意義を伝えたかったのです。

 

*抗VEGF薬:新生血管ができる原因となる、血管内皮増殖因子というたんぱく質を抑え込む薬

 

 

緑内障や網膜剥離になることも…「近視」の知られざる恐怖とは】

 

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

▼はんがい眼科の公式ブログ「目のブログ」▼
https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載眼科理事長が解説!「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

板谷 正紀

幻冬舎

欧米の成人失明原因第1位でありながら、あまり認知されていない黄斑疾患。初期症状や治療法、予防法を徹底的にわかりやすく解説した革新的一冊。