不快な視界の歪みをもたらす「黄斑前膜」…いつ手術するべき?

今回は、はんがい眼科・板谷正紀理事長の著書『目の悩みは眼底を疑いなさい「見える」を支える“黄斑”のチカラ』より一部を抜粋し、誰にでもおこりうる疾患「黄斑前膜」の原因・治療法について解説します。

原因は不完全な後部硝子体剥離

黄斑前膜は黄斑上膜ともいいますが、黄斑の表面に膜が張り、その膜が絞り込むような力で黄斑を変形させ、黄斑のくぼみがなくなり、分厚くなったり、シワがよったりする病気です。

 

症状は、ものが歪んで見えたり(変視症、歪視)、大きく見えたり(大視症)、視力が低下したりします。

 

網膜の表面におこる病気としては、もっともありふれた、誰にでもおこりうる病気です。原因は加齢によっておこる後部硝子体剥離のトラブルです。

 

[図表1]後部硝子体剥離の進み方

 

黄斑円孔という病気では後部硝子体剥離がおきたときに、黄斑部の中心が引っ張られることで、黄斑の中心部に孔があいてしまうのですが、黄斑前膜では、逆に後部硝子体皮質の一部がはがれて黄斑の上に残ってしまいます。(関連記事:自然完治しない!急激な「視力低下・視界の歪み」には要注意

 

[図表2]黄斑前膜のOCT画像

 

後部硝子体剥離がおきた直後の残った膜は薄くて透明なのですが、後部硝子体剥離のとき、網膜血管周囲や網膜表層の組織が傷つき、平滑筋細胞という血管周囲の細胞や神経の守護神であるグリア細胞などが膜を伝って集まります。

 

そのため膜は分厚くなり真ん中へ向かって収縮していきます。

 

収縮により、さらに網膜の表面に傷を付けてしまうため、そこにさらに細胞が集まるという悪循環を繰り返し黄斑前膜は成長していきます。なかには、網膜裂孔やぶどう膜炎など他の病気に続発する黄斑前膜もあります。

 

この続発黄斑前膜は進行が速く重症化しやすいので要注意です。

失明はしないが見え方が不快な黄斑前膜

黄斑前膜は失明する病気ではありません。

 

しかし、見つめるところが見えにくくなり、歪んで見えるため不快な見え方になります。スマホなど日々文字と画像で情報を得る我々には辛い症状です。

 

[図表3]変視症

 

加齢によっておこる後部硝子体剥離が原因の黄斑前膜は、50代以上の方におこる病気で、70代がもっとも多いですが、30代、40代の方でも、稀に黄斑前膜を発症することがあります。近視の強い方や他の眼の病気がある方です。

 

黄斑前膜によって、なぜ中心視野が歪んで見えるのかというと、正常ならなだらかなくぼみをもつ黄斑が膜によって変形するからです。くぼみが消失して厚みを増し、表面にシワがよることで、歪みが生じてしまいます。

 

[図表4]黄斑前膜の形成

手術で「視力1.0」を目指す時代へ

黄斑前膜は残念ながら薬で治療はできません。先述の黄斑円孔の治療で活躍した硝子体手術で治します。

 

[図表5]硝子体手術

 

膜剥離用の細いピンセットで青く染めた膜を剥離除去するのですが、この時、内境界膜も部分的に取れてしまうことが多いため、内境界膜もきれいに剥離除去します。そのほうが、黄斑のシワは伸びやすいのです。

 

最近では、「27ゲージ小切開硝子体手術」に代表される小切開硝子体手術が普及して、硝子体手術自体の安全性が高まりました。手術後の炎症も少なく、視力の回復も速くなっています。

 

「27ゲージ」とは硝子体手術で用いる器具の太さを表すものです。以前、硝子体手術に使う器具の主流は、20ゲージでした。ここから23ゲージ、25ゲージとどんどん細くなり、遂に27ゲージにまで細くなりました。安全とは言いましたが、細いほどより高い技術が必要です。

 

当院では一番細い27ゲージの小切開硝子体手術を行っています。

 

[図表6]黄斑前膜の術中シーン

 

小切開硝子体手術は、単に器具が細くなっただけではなく、トロカールという器具の出し入れ用のガイドシステムが生み出されたことで安全に器具の出し入れができるようになったのです。

 

これによって以前は合併症などのリスクを考慮して手術を躊躇したような早期の症例にも、小切開硝子体手術を行うことが可能となりました。以前は硝子体手術自体が合併症のリスクがかなりあり、視力が0.5~0.7以下に低下しないと手術をしない執刀医が多かったのです。

 

安全性が高まるということは、早期の黄斑前膜でも合併症を心配せずに手術に踏み切りやすくなったということです。黄斑前膜は初期であるほど手術後の高い視力が期待できます。

 

矯正視力1.0以上を守るにはどうすれば良いかを考えるべき時代になったと言えます。

黄斑前膜手術に踏み切る3つのタイミング

筆者が専門とするOCT(光干渉断層計)でみると視力が低下した黄斑前膜の症例は、黄斑のくぼみがなくなっているのはもちろん、黄斑の肥厚や変形が強く、手術で膜をきれいに除去しても黄斑のくぼみは元にもどりません。厚みはゆっくりと、時には1年かかって減っていきますが、それでも正常に比べるとかなりの肥厚が残ります。

 

術前の視力は0.1から1.2までさまざまです。術前視力が0.4以下のケースは1.0以上に回復するケースもありますが、視力は改善しても1.0に届かないケースもかなりあります。なかには、全く回復しないケースもあります。概して、術前の視力が良いほど術後の視力が1.0以上に回復するケースが多くなります。

 

術前の黄斑の肥厚が強いと、視力は改善しても歪んで見える変視症が取れないことが多いのです。

 

一方、黄斑のくぼみがなくなっている程度の初期の黄斑前膜は、当然視力はあまり落ちていませんので、術後1.0以上の視力を得られる可能性が高く、また、ものが歪んで見える症状(変視症)も解消されやすいのです。

 

当院での27ゲージ小切開硝子体手術の経験からいうと、黄斑前膜は視力が良い間に治療したほうが予後の経過が良く、多くの場合1.0以上の視力を確保できます。変視症の解消も早いです。一番大切なのは、患者さんの満足度が高いと言うことです。

 

黄斑前膜の治療は、27ゲージ小切開硝子体手術になり、早期手術が安全にできるようになったことから、単に視力の改善をめざすだけではなく、矯正視力が1.0以上の歪みのない視力を取り戻すことをめざす時代に入ったのです。

 

当院では、下記のうちいずれかを認めたら黄斑前膜手術を受けることをお勧めしています。

 

①黄斑前膜による視力低下が明らかな場合

②視野の中心部が歪んで見える場合

③黄斑のくぼみが消失しているか変形している場合

 

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載眼科理事長が解説!「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

板谷 正紀

幻冬舎

欧米の成人失明原因第1位でありながら、あまり認知されていない黄斑疾患。初期症状や治療法、予防法を徹底的にわかりやすく解説した革新的一冊。