コロナ不況、現金給付より「納税一律1年間延長」が有効なワケ

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家・塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第15回は、新型コロナ不況下における、中小企業等への速やかな資金繰り支援の方法を考察します。

「消費減税」「現金給付」は愚策だ

新型コロナ不況への対応として、消費減税や国民全員への現金給付を求める声がありますが、筆者はそれは愚策だと考えています。4月4日に掲載した『「消費減税・全国民への現金給付」がコロナ対策にならない理由』でもお伝えしたように、いまの不況は、人々が「金がないから買えない」のではなく「外出できないから買えない」のですから、減税をしても現金を配っても消費は戻らないのです。

 

そんなことならば、飲食業等、困っているところに集中的に支援をすべきでしょう。その意味では、伝えられている政府の方針転換は残念なことです。

 


ただ、転換前の政府方針にも、制度の存在が周知徹底されていないこと、制度が複雑で必要な人々に理解されていないこと、申請の受け付け→審査→資金交付されるまで時間がかかる政策が多いこと、などの問題がありました。

 

そこで、筆者なりに政府が取るべき対策について考えてみました。基本的な考え方は、「資金を交付しようとすれば、対象を慎重に絞る必要が出てくるので、まずは幅広く資金を貸与しよう。そのうえで、返済させる相手と返済を免除する相手をじっくり選別すればよい」ということです。

 

飲食業等、困っている所に集中的
返済させる相手と返済を免除する相手をじっくり選別すればよい

税金と社会保険料の納付期限を「全員一律1年間延長」

企業は従業員から税や社会保険料を源泉徴収し、国に納めます。これを1年間待つことで、企業は国から多額の借金をすることができます。わざわざ借入を申請する手間もかかりませんし、わざわざ貸し出す手間もかかりません。

 

理屈上は「所得が減った人は税と社会保険料の納付期限を1年延長する」ということでよいのですが、それだと実務上は申請書を出させて審査して認める、という手続きが必要になり、時間も手間もかかります。

 

それなら全員に1年間の延長を認めればよいのです。1年待てば税金も保険料も2年分入ってきますから、財政赤字が拡大するわけではありません。

 

政府としては、今年入って来るはずの税収等が来年まで入らないことになりますが、それは大きな問題ではありません。今年の税収等となるはずだった金額の国債を発行して、税収等が入る来年まで資金を借りてくればいいからです。いまはゼロ金利なので、利払いを気にする必要もありません。

 

つまり、「資金繰りに困っている人には納税を猶予する」という場合と「全員に納税を猶予する」という場合で、政府の負担は変わらないのです。

「昨年の所得の半額」まで、無条件で融資する

昨年分の申告所得は税務署が把握していますから、その半額までを無条件で融資しましょう。法人でも個人事業主でもよいでしょうが、サラリーマンは失業が条件でしょうね。

 

サラリーマンが新型コロナで資金繰りに困ることは考えにくいですし、そもそも企業の資金繰りを支援することで、サラリーマンの給料の受け取りが可能になっているという場合も多いでしょうから。

 

申告所得は、脱税目的で過少申告した人はいるかもしれませんが、過大申告した人はほぼ皆無でしょうから、借入資格を詐称している人はいないと考えてよいでしょう。

 

金利を3%程度に設定すれば、資金繰りに困っている人は借り、困っていない人は借りないでしょうから、「売り上げが減った人に貸す」といった条件をつける必要はありません。条件をつけると、条件に合っているか否かを審査する手間も時間もかかりますから、希望者全員に貸せばよいのです。

 

融資ですから、原則は返済させるわけですが、30万円の資金給付の対象者や雇用調整助成金の受給権利者は、その分だけ返済を免除すればよいでしょう。そうすれば、結果として30万円の給付等が極めて迅速に行われたのと同様の効果が得られるからです。

 

融資を受けたけれども、赤字が続いて倒産してしまって返済できない、という会社も当然出てくるでしょうが、それはコストだと考えましょう。融資のおかげで倒産しなくてすんだ会社も多いでしょうから、そのコストは全体で考えれば安いものでしょう。

 

国民全員に現金を配る、といった政策と比べれば、融資の一部が焦げついても、財政に与える悪影響ははるかに小さい、ということもいえるかもしれませんね。

銀行等に融資を依頼し、政府が一部を保証する方法も

銀行等への依頼も重要です。「中小企業が赤字に転落しても、融資を引き揚げないでください。2年間融資残高を維持していただいたら、その後に取引先が倒産した場合に銀行が被る損失の一定割合を政府が負担しますから」といったインセンティブを与えることも検討事項とすべきでしょう。

 

さらには「中小企業に対する融資残高を増やした場合には報告して下さい。報告を受けた分に関しては、将来取引先が倒産して銀行に損失が生じた場合、比較的高い割合で政府が損失を負担しますから」といったインセンティブも要検討でしょう。

 

とにかくいまは非常事態ですから、一刻も早く資金繰りの支援をすることが最重要です。そのためには従来の発想を大きく転換しましょう。

 

多少の損が出ても仕方ありません。「損が出ないよう慎重に対応している間、多数の企業が倒産して不況が深刻化して、対策に巨額の予算が必要になる」等の事態になったら泣いても泣ききれませんから。

全員に支給するより「全員に貸す」ほうがマシ

百歩ゆずって「とにかく急ぐから、希望者に申請書を書かせたりせずに、マスクと一緒に現金を10万円封入して配ろう」といったことであれば反対はしませんが、それは給付ではなく貸付であるべきです。

 

その場合には、あとからゆっくり精査して返済を求める人と返済を免除する人を決めればいいでしょう。来年度の納税申告書を見て判断する、ということでいかがでしょうか。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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