白内障の進行リスクも…視界が歪む疾患「黄斑円孔」の治療法

今回は、はんがい眼科・板谷正紀理事長の著書『目の悩みは眼底を疑いなさい「見える」を支える“黄斑”のチカラ』より一部を抜粋し、加齢や外傷が原因となる疾患「黄斑円孔」の最新の治療法について解説します。

黄斑円孔は「硝子体手術」で治す

黄斑の中心には、視細胞が密集していて目の機能の中ではもっとも繊細な「中心窩」(ちゅうしんか)と呼ばれる部分があります。ここに丸い孔があいてしまうのが黄斑円孔という病気です。

 

黄斑円孔は、進行具合で4つのステージに分類することができ、すでに孔があいてしまったステージ2から4では手術が必須になります(関連記事:自然完治しない!急激な「視力低下・視界の歪み」には要注意)。

 

では、まだ孔はあいていないが、黄斑が引っ張られているステージ1では、どうでしょうか。

 

ここで手術をするかどうかは、担当する医師によって多少判断が異なります。筆者は、空洞ができたり、少し中心窩が浮いたりしている程度なら様子を見ます。なぜなら、孔があかず自然に後部硝子体皮質が黄斑から剥離してくれることがあるからです。

 

しかし、完全に孔があいていなくても光を感じる光センサー細胞が存在する視細胞層にすでに孔があいてしまったら筆者はステージ1でも手術を行います。これは実質的にステージ2と同じで、視力障害がおきているからです。

 

いったん孔があいてしまうと、手術で孔は塞がっても中心暗点が残ることがあるため、ステージ1でもすべて手術を行うという医師もいると思います。

 

中心暗転の症状
中心暗転の症状

硝子体手術はどのように行うのか

黄斑円孔の手術は、ひとくちでいえば、黄斑円孔を引きおこしている、あるいは引きおこした硝子体を網膜から十分にはがして切除し、目の中にガスを注入してその圧力で孔をふさぐというものです。

 

どんな手術なのか、もう少し詳しく説明しましょう。

 

まずは眼球に3つの孔をあけて、トロカールをさしこみます。このトロカールから、①硝子体カッター、②灌流液注入管、③照明用ファイバーを出し入れして手術を行います。

 

[図表1]硝子体手術

 

最近の硝子体カッターは1分間に7500〜10000回転の高速回転で硝子体を細かく切断しながら吸い取っていきますので、網膜を引っ張って網膜に孔があくリスクがほとんどなくなりました。

 

切除した硝子体は灌流液注入管から入ってくる灌流液に置き換えられていき、硝子体はなくなっても視力には影響がありません。

 

さらに膜剥離用の細いピンセットを使って、網膜の最表面の内境界膜という厚さ約5㎛の極薄の膜を剥離除去します。この「内境界膜剥離術」により円孔閉鎖率が高まります。

 

内境界膜剥離術は、青い色素で染めて行います。内境界膜は透明で見えにくいからです。内境界膜を取り除くと網膜が伸びやすくなり、黄斑円孔の閉鎖率はアップします。

 

[図表2]内境界膜剥離術の術中シーン

 

そうして眼内がきれいになったら、こんどは眼内の液をガスに置き換えます。これはガスの〝浮力”を利用して黄斑円孔を抑えるためです。

 

手術を終えた患者さんには、うつぶせの姿勢をキープしてもらいます。そうすることで眼の奥が上になって、ガスが黄斑にあいた孔をふさぐように押さえつけてくれるのです。数日間その状態を保っていると、細胞のはたらきによって破れた網膜がつなぎ合わされ、孔をふさいでくれるのです。

 

[図表3]術後のうつむき

 

硝子体手術器具はどんどん細くなり現在は27ゲージまで細くなりました。単に細くなっただけではなくトロカールと呼ばれる器具の出し入れをガイドするシステムが導入されました。合わせて27ゲージ小切開手術といいます。

 

27ゲージがいかに細いかわかりやすい
[図表4]実際の27ゲージ小切開硝子体手術 27ゲージがいかに細いかわかりやすい

 

これにより、今までとは違う安全性の高い硝子体手術ができるようになりました。

 

まず、黄斑円孔の手術では、単に抜くだけで自己閉鎖するため縫う必要もなくなりました。以前見られた術中の網膜裂孔(もうまくれっこう)形成がほとんどおきなくなりました。

 

術後の炎症も少なくなり、術後視力回復が速くなっています。もちろん、いくら手術器具が良くなっても、一定以上の手術技量の裏付けがないと合併症がおきたり、治らなかったりします。

 

黄斑円孔の患者さんは60代にピークがあり、50歳以上の方がほとんどですので、白内障手術との同時手術を行うことが多いです。50歳以上で硝子体手術だけを行うと、高率に白内障の急速な進行による視力障害が進むからです。

 

手術時間は、術者にもよりますが白内障との同時手術では1時間はかかりません。基本、局所麻酔で行い、患者さんが痛みを感じることはほとんどありません。

強度近視で後部ぶどう腫を発症していると治りにくい

黄斑円孔の初回の手術での閉鎖率は「90~95%」程度と報告されています。孔が大きかったり、古くなって萎縮してしまったり、強度近視の目や、他の眼疾患に続発した黄斑円孔などは円孔が閉じにくく、再手術が必要になることも珍しくありません。

 

特に、強度近視で後部ぶどう腫を発症している方は要注意です。

 

後部ぶどう腫とは、眼球の黄斑を含む後ろの部分が変形して膨らんでしまっている症状のことです。目の中から見ると後方へくぼんでいます。この状態の目は孔が大きくなりやすく、また網膜の長さが不足して孔が閉じるために寄ることができにくいのです。

 

[図表]後部ぶどう腫

 

さらには、通常の黄斑円孔では網膜剥離に進展することはありませんが、後部ぶどう腫を持つ目は黄斑円孔から網膜剥離に進展しやすいのです。これも網膜の長さが足りないためです。黄斑円孔から続発した網膜剥離は、昔から治りにくい網膜剥離として知られていました。

治りにくい黄斑円孔を治す特殊手術

通常の内境界膜剥離術を行うだけでは、孔が閉鎖しない難治症例に対しては、「内境界膜翻転術」という特殊な術式が行われるようになりました。

 

これは、これまで黄斑の内境界膜を剥離して除去していたのですが、黄斑円孔のまわりだけは除去せずに残して、残した内境界膜を円孔の中に埋め込んだり、かぶせたりして、円孔閉鎖のための足場として活用し閉鎖しやすくする方法です。

 

孔が大きくないとガスで抑えるだけで円孔の両側が寄ってグリア細胞という神経組織の守護神が両端を接着できるのですが、円孔が大きいと両端が離れていてグリア細胞が橋渡しできないので閉じにくいと考えられます。

 

そこで、円孔のなかに内境界膜を埋め込むか、かぶせると、これがグリア細胞の足場となって閉じやすくなるのです。メカニズムは完全にわかっていませんが、効果は確実にあります。

 

しかし内境界膜がすでに除去されているような再手術などの場合には、この術式は使用できないので別の場所の網膜から内境界膜をはがして移植する「内境界膜自家移植術」という特殊な術式を行い閉鎖を促進します。

手術後の視力は黄斑の残る機能次第

ここまで、黄斑円孔が治ると申しましたが、それは黄斑円孔が閉じるという意味であり、残念ながら元通りの視力になるという意味ではありません。

 

多くの場合、真ん中の見えない部分(中心暗点)は小さくなり、視力は改善していきます。1~3週間程度の短期で視力が1.0に回復するケースもあれば、1年かかってゆっくりと改善するが、0.7程度にとどまるケースもあります。

 

この改善の程度は、黄斑円孔が大きいほど、また黄斑円孔が古いほど、さらに高齢者であるほど不良な傾向があります。視力が回復しても、歪んで見える症状が残ることがあります。

 

最近は、OCT(光干渉断層計:黄斑疾患の診断・経過観察に用いられる)の普及のおかげで発症早期に紹介を受けることが増え、術後の視力回復や変視症の軽減はかなり良くなってきています。

 

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載眼科理事長が解説!「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

板谷 正紀

幻冬舎

欧米の成人失明原因第1位でありながら、あまり認知されていない黄斑疾患。初期症状や治療法、予防法を徹底的にわかりやすく解説した革新的一冊。