眼球摘出するほどの痛み…恐るべき「生活習慣病」の合併症

はんがい眼科・板谷正紀理事長の著書『目の悩みは眼底を疑いなさい「見える」を支える“黄斑”のチカラ』より一部を抜粋し、生活習慣病が原因で起こりやすい目の疾患「黄斑浮腫」の種類、治療法について解説します。

網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症

網膜静脈閉塞症には網膜中心静脈が詰まる網膜中心静脈閉塞症とその枝が詰まる網膜静脈分枝閉塞症があります。

 

網膜から流れ出る静脈は最終的に1本になり、眼球の外へ出ていきます。この静脈を網膜中心静脈といいます。この1本しかない網膜中心静脈が詰まってしまうのが網膜中心静脈閉塞症です。

 

1本しかない中心静脈が完全に詰まると、かなり激しい症状がでます。行き場を失った血液は、あふれ出し、黄斑だけでなく網膜全体が出血し強く腫れ上がります。時には、視神経乳頭も腫れてしまいます。

 

ただ網脈中心静脈が完全に詰まってしまう症例は、それほど多くはなく、眼科に来られる患者さんの場合、大部分は多少の血流は確保されています。

 

[図表1]網膜中心静脈閉塞症

 

 

もう1つの網膜静脈分枝閉塞症は、中心静脈に流れ込む前の静脈、これを分枝静脈と呼びますが、この分枝静脈が血栓によって詰まったり流れがわるくなったりしておきます。

 

網膜の動脈の枝と静脈の枝が交叉する部位で、高血圧で硬くなった動脈が柔らかい静脈を押し続けた結果、静脈がたわむように変形して血栓ができるのです。血圧が高いほど動脈は硬くなりますから、網膜静脈分枝閉塞症も生活習慣病である高血圧症との関連は強いと考えられます。

 

高血圧との関連
高血圧との関連性が高い「網膜静脈分枝閉塞症」

 

網膜中心静脈閉塞症も網膜静脈分枝閉塞症も、急性期におこる強い黄斑浮腫には、「抗VEGF薬」という、タンパク質を抑え込む薬を用いた治療が有効です。

 

[図表2]網膜静脈分枝閉塞症

こんな怖い症状がおきる「網膜中心静脈閉塞症」

【黄斑虚血】

網膜中心静脈閉塞症は、網膜中心動脈の血流障害を伴うことがあります。

 

網膜中心動脈と網膜中心静脈が出入りする視神経乳頭は狭く圧迫されやすいためと考えられています。網膜に酸素や栄養を供給している中心動脈も1本しかないので、血流が妨げられると黄斑部に血液が十分に巡らなくなることがあります。これを黄斑虚血といいます。

 

黄斑虚血が生じると視力障害は強くなり、神経細胞が失われるため治療後も視力の回復は良くないのです。

 

この症状がおきた場合は、抗VEGF薬治療とともに抗凝固剤や循環改善薬などによる治療を行います。注意が必要なのは、抗VEGF薬治療が場合によっては、虚血を強めることがあることです。したがって、レーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVI)によって黄斑の虚血状態をモニターしながら治療を行うのが有効です。

 

【無灌流領域形成】

網膜静脈閉鎖症によって網膜の毛細血管に血液が十分に巡らなくなった部分には無灌流(むかんりゅう)領域が生じます。

 

網膜の広い範囲にこの無灌流領域が生じると、新しい血管をつくる働きがあるVEGFが大量につくられ、網膜に新しい血管が生えてきます。

 

脈絡膜から生えてくる新しい血管は脈絡網新生血管という名称で、滲出型加齢黄斑変性という病気を引き起こすのですが、無灌流領域が生じる場合、網膜血管から生えてくるため網膜新生血管という名称になります。(関連記事:早期発見がカギ、「視界が歪む・欠ける」症状への最新治療とは

 

新生血管は幼若なため破れやすく、網膜に接着している硝子体の中に成長することが多いため、後部硝子体剥離の際に硝子体出血を引きおこすことがあります。

 

[図表3]後部硝子体剥離

 

[図表4]硝子体出血のイメージ

 

硝子体出血を生じると、墨を垂らしたようなものが見えた後に見えなくなります。

 

治療は硝子体手術で硝子体出血を取り除きます。また水晶体の前にあって房水の出口である隅角(ぐうかく)に新生血管が生えると血管新生緑内障というもっとも治療が難しく失明のリスクが高い厄介な合併症を引きおこします。

 

[図表5]硝子体手術イメージ図

 

こうした合併症を予防するためには、蛍光眼底造影をこまめに行い、無灌流領域の形成を早めに捉え、汎網膜光凝固術を行うことが肝心です。

 

[図表6]汎網膜光凝固術を施した網膜

 

この蛍光眼底造影は、稀ながらアナフィラキシーショックをおこすリスクが知られています。はんがい眼科では、こうしたリスクのない広角OCTアンギオグラフィーを導入して安全なモニターが行えるようにしています。

 

【血管新生緑内障】

原因がなんであれ網膜に血管が詰まっておきる病気の中で眼科医が最も恐れるのが、この血管新生緑内障です。

 

網膜中心静脈閉塞症の場合は100日緑内障ともいわれ、無灌流領域が形成されると急速に起きてきます。虹彩と、隅角に新生血管が生えてきて、角膜と虹彩の間のスペース(=前房)に出血したり(前房出血)、隅角がどんどん癒着してふさがったりしていくため、眼圧が50mmHgを超え、時に測定できないほど高くなります。

 

視野や視力を失っていくだけではなく、激しい目の痛みや頭痛に苦しみます。一昔前、その痛みをとるために眼球の摘出が行われた時代もありました。

 

激しい痛みを伴う
激しい痛みに苦しむ「血管新生緑内障」

 

血管新生緑内障を防ぐためには、無灌流領域を捉えて汎網膜光凝固術を行い予防することが何より重要です。

 

血管新生緑内障を発症してしまうと緑内障手術が必要になりますが通常の緑内障手術が効きにくい場合もあり、その場合はチューブインプラント手術という特殊な手術が必要になります。

 

また、硝子体出血を伴うと光凝固術ができないため硝子体手術を行い術中に汎網膜光凝固術が必要になります。

 

この場合、汎網膜光凝固術の効果が出てくるまでの間、高い眼圧が続いて視神経乳頭が萎縮してしまうリスクがあるため、はんがい眼科では、硝子体手術と緑内障手術の同時手術を行うか、最初からチューブインプラント手術を行って、術後の高眼圧で視神経乳頭が萎縮するのを防ぐことに力を入れています。

糖尿病が引きおこす「糖尿病黄斑浮腫」

黄斑浮腫は網膜の血管が傷んで、そこから血液の成分が漏れ出たり、網膜の血管が詰まって血液の流れが悪くなったりすることによっておこります。

 

その原因となる疾患として網膜静脈閉塞症がありました。すでに詳しく見てきたように、これは高血圧のある高齢者におきやすい病気です。高血圧症は「生活習慣病」と呼ばれますが、同じように生活習慣病と呼ばれる糖尿病も黄斑浮腫を引きおこす大きな原因となります。

 

黄斑浮腫がおきると、黄斑にある視細胞がつぎつぎと死滅していき、時間が経つほど低下した視力は元にもどりにくくなります。

 

したがって、原因疾患が何であれ黄斑浮腫の症状が出た場合、すでに詳しく解説した抗VEGF薬の硝子体注射やステロイドのテノン嚢下注射によって、できるだけ早く浮腫を解消することが肝心です。また最近ではレーザーによる治療も効果をあげています。

糖尿病の治療をしなければ根本的解決にはならない

しかし糖尿病黄斑浮腫の場合は、それだけでは根本的な治療にはなりません。

 

黄斑浮腫の原因が糖尿病にある以上、その治療を避けて通ることはできないからです。糖尿病は、血液中のブドウ糖濃度が高い状態が長期間続くことによって、全身に障害のでる病気です。

 

糖尿病が進むと、体中の毛細血管に血液が流れにくくなる細小血管障害と呼ばれる合併症がおきて、身体の機能が失われていきます。代表的な合併症例をあげると、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害があり、この3つを糖尿病性三大合併症といいます。

 

現在、中高年の失明原因の第1位は緑内障ですが、第2~3位にくるのが糖尿病網膜症です。網膜の毛細血管に障害がおきることによって生じる糖尿病網膜症は、それほど怖い病気です。糖尿病網膜症は

 

①単純糖尿病網膜症

②増殖前糖尿病網膜症

③増殖糖尿病網膜症

 

と段階を踏んで進行していきますが、そのすべての段階で合併症として発症し視力障害を引きおこすのが糖尿病黄斑浮腫です。

 

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

 

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

▼はんがい眼科の公式ブログ「目のブログ」▼
https://eyeblog-hangai.com/
▼多焦点白内障手術 無料個別相談会 開催中!▼
https://hangai.org/cataract-seminar/

著者紹介

連載眼科理事長が解説!「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

板谷 正紀

幻冬舎

欧米の成人失明原因第1位でありながら、あまり認知されていない黄斑疾患。初期症状や治療法、予防法を徹底的にわかりやすく解説した革新的一冊。