「介護保険料の大幅値上げ」が秘める、日本経済改善の可能性

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家・塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第14回は、介護士への「やりがい搾取」をやめることで、日本経済全体にプラスの影響が出る理由を解説します。

4月から大幅に引き上げられた「介護保険料」

4月から介護保険料が大幅に値上がりしました。消費税が上がり、新型コロナで不況になり、生活が苦しいときに値上がりするのは決して嬉しくありませんが、本件については筆者は仕方のないことだと考えています。

 

ちなみに、介護保険料を上げずに税金を投入する、という選択肢もありますが、その場合に増税が行われるのであれば同じですから、本稿では税金の投入のことは考えないようにしましょう。

 

本質的な理由は「少子高齢化なのだから、現役世代の負担が増えるのは仕方ない」ということなのですが、介護保険料に関しては、もう少し具体的に「介護士不足を放置してはならない」と考えるからです。

 

「介護士不足を放置してはならない」理由とは?
「介護士不足を放置してはならない」理由とは?

保険料を引き上げないと「介護難民」が発生するので…

介護保険料を引き上げないと、必要な数の介護士を雇えません。必要な数の介護士をいまの予算で雇おうとすると、低い賃金を提示することになり、必要な数の介護士が集まらないのです。

 

ここで「低い賃金」というのは、単なる金額のことのみならず、「仕事の大変さ等々を考慮すると賃金が低い」という意味も含んだものです。

 

需要と供給が一致するところに価格が決まる、というのが経済学の大原則です。労働力の価格である賃金についても同様です。需要と供給を一致させる賃金の水準を「均衡賃金」と呼びます。現在提示されている介護士の賃金が均衡賃金より低いから、介護士が不足しているわけですね。

 

介護士が不足するということは、介護が必要なのに受けられない人が出てくるということです。国のあり方として、「高い介護保険料を払わされるが、介護の必要な人が介護を受けられている状態」と「介護保険料は安いが、介護が必要なのに介護を受けられない人がいる状態」という選択肢のうちで、後者が実現しているわけです。しかし、筆者としては、前者を選びたいですね。

 

それだけではありません。介護士が不足することで、介護離職(たとえばサラリーマンが親の介護のために会社を辞める)が増加しかねません。ただでさえ労働力不足なのに、介護離職が増えることは労働力不足を加速してしまうわけです。1人の介護士が介護施設で複数の要介護者を介護するのに対し、介護離職した人は自宅で1人だけを介護する場合が多いでしょうから。

介護保険料を払うのがイヤ=「低賃金で我慢しろ」!?

「介護士の賃金が均衡賃金より低いから労働力不足だ」ということを別の面からとらえてみましょう。

 

均衡賃金より低い賃金で働いている介護士の多くは、介護士としてのやりがいを感じているから低い賃金でも働いているわけですね。

 

つまり、われわれ一般国民が「自分たちは高い介護保険料を支払うのは嫌だから、あなたに安い賃金で働いていただきたい。やりがいのある仕事なのだから、賃金が安くてもいいでしょう」といっているに等しいわけです。

 

これでは「やりがい搾取」といわれても仕方ありません。そうではなく、「あなた方をやりがい搾取するのは嫌だから、介護保険料の値上げを喜んで受け入れます」といいたいですね。

 

余談ですが、同じ理由で外国人介護士の受け入れにも反対です。「やりがい搾取されてくれる日本人介護士が少ないから、介護士が不足している。しかし介護保険料の値上げは嫌だ。それなら外国人介護士を受け入れよう」ということになるからです。そうではなく、介護保険料を値上げして、日本人介護士にしっかり賃金を支払うべきだと思います。

一部で見られる「過剰な介護」についても検証を

もっとも、介護の過剰が生じている可能性もあり、その意味では介護の自己負担比率の引き上げも要検討かもしれません。

 

高齢者が「ある介護サービスを受ける」ことと「1500円の食事をする」ことについて、満足度が同じだとします。介護サービスは1万円の費用がかかりますが、自己負担は1割の1000円だとします。高齢者は食事をせずに介護サービスを選択するでしょう。

 

そのとき、自己負担比率を2割に上げたら、食事が選択されるでしょう。そうなると、政府は9000円の支出減となるわけです。「介護を必要とする高齢者が可哀想だ」という意見はあるでしょうが、出費が500円増えただけです。

 

そうであれば、政府は「支出減となった9000円の半分を年金支給額の増額に用いる」といった選択肢を検討してみましょう。高齢者全体としては助かりますし、財政赤字も減りますし、介護の労働力不足も緩和されるでしょう。

 

筆者としては、これもぜひ政府に検討していただきたい、と考える次第です。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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