
事業に成功した兄と、失敗して多額の借金を抱えた弟。ある日、自暴自棄な生活を送っていた弟が余命宣告を受けてしまいます。離婚した元配偶者が連れて出たひとり息子は、万一の際に相続放棄する可能性が高く、兄は弟を心配しつつも、借金の返済義務の行方が気がかりです。※本記事は、株式会社トータルエージェントが運営するウェブサイト「不動産・相続お悩み相談室」から抜粋・再編集したものです。
やり手の実業家となった兄、借金を抱えやさぐれる弟
横浜市に住むAさんは複数の会社経営を成功させた実業家で、金融資産だけでなく、収益不動産も多数所有しています。
Aさんが育った家庭はあまり裕福ではありませんでしたが、勉学に励み、アルバイトや奨学金で有名国立大学を卒業しました。その後は大手企業に就職。十分にキャリアを積んでから独立し、一代で多額の資産を築き上げたやり手です。事業は大きな波もなく順調で、取引先にも恵まれ、プライベートでは大学の同級生だった奥さんと2人のお子さんたちと円満な家庭を築いています。
Aさんには3歳違いの弟のBさんがいます。Bさんも負けず劣らず努力家で、有名大学を自力で卒業後、やはり大手企業に就職しました。しかし、兄の成功を見て自分も独立し、複数の事業を展開したものの金融ショックのあおりを受け、多額の借金を抱えてしまいました。
若いころは快活な性格だったBさんですが、年を取るごとに僻みっぽくなり、家庭では横暴なふるまいも目立つようになりました。そんなBさんに愛想をつかした奥さんは、数年前、ひとり息子を連れて家を出てしまいました。
離婚してからBさんの生活はますます荒み、毎日浴びるようにアルコールを飲み、若いころから吸っているタバコもやめる気配がありません。ここしばらくはまともな食事すらとっていない様子でした。
Aさんはそんな弟を厳しく叱るものの、それでもやはり心配で、たびたび生活費を工面していました。
自暴自棄の弟に下された「余命宣告」
ある日、AさんがBさんを訪ねると、Bさんが神妙な面持ちで話を切り出しました。
「兄貴、先週調子が悪くて病院に行ったら、肺がんだといわれた」
「えっ、本当か!? どこの病院に入院するんだ、手術はいつ?」
「いや、もう手術や放射線治療はできない段階で、抗がん剤だけになるらしい」
「…………!」
Bさんの状況にショックを受けたAさんは、帰宅後すぐ、奥さんに話しました。

「そう、本当にお気の毒ね…。ずっと大変なことばかり続いていたから…」
「ストレスのせいかもしれない。あんなに頑張っていたけど、離婚してからはずいぶん生活が荒んでしまったしな…」
Aさんの奥さんはひと呼吸置いて、思い切ったように口を開きました。
「…あなた、こんなときに本当にごめんなさい。Bさんのことで私、すごく心配していることがあるの。聞いてくれる?」
「どうした?」
「Bさんにもしものことがあったら、Bさんの借金、いったいどうなるのかしら。離婚したC子さんはもう他人だし、ひとりっ子のD君が背負うことになるの?」
「いや、C子さんはあれだけの借金があるのを知って離婚しているし、Dには相続放棄させるんじゃないか」
「だとしたら、施設にいるあなたのご両親や、うちが返済することにならない? もしそんなことになったら大変よ」