年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、遺産の使い込みの疑惑から起きたトラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

極度にケチな夫の姉が、夫の母の預貯金を管理

「結婚生活でひとつ不満をあげるとすれば、親戚付き合いでしょうか。問題は夫の姉で…」

 

10年前に結婚し、夫と幸せに暮らしているD子さんは、そう語り始めました。義理の姉の金銭感覚に問題があると感じているようです。

 

「少し…いやだいぶ、ケチなんですよ。むこうも結婚して、子どももいるんですよ。でも実家や私たちの家に来ると、いつも、何かしらごちそうになろうとするし。持って帰ることができるものがないか、冷蔵庫の中まで見るし。いやいや、冷蔵庫の中は…って言っても、全然ダメ。感覚がおかしいんです」

 

夫や、義母を通じて注意をしてもらっても、「えっ、私、なんかおかしい!?」と、義姉が聞き入れることはまったくなかったそうです。

 

「結婚した当初から、『この人、ちょっとズレてるかも』とは思っていたんですよ。私たちの結婚式でも、ご祝儀が5,000円だったんですよ。そのときは、ご祝儀なんて気持ちだから、と思ったんですが、やっぱり常識からはズレてますよね!?」

 

そんな義姉が、明らかに怪しい行動をとりはじめたのは、義母が介護施設に入所したころでした。

 

義父は、5年前に他界。以来、義母は実家で1人暮らしをしていました。しかし、元々足が不自由だったこともあり、高齢単身者の1人暮らしはしんどいと、自ら介護施設への入所を決めたのです。

 

「姑が入所してから、よく義姉が実家を訪れるようになったみたいで。それまで、実家に行くなんて、自分の都合がいいときだけだったのに、『人がいないと家は早く傷むから』なんて、定期的に掃除をしに行くようになったんですよ。あの義姉が、ですよ。何を企んでいるのだか…」

 

しばらくすると、義姉が義母の通帳を管理するようになったということを、D子さんは小耳に挟みました。

 

「えっ、と思いましたよ。義姉が、お義母さんの財産の管理なんて。まあ私の立場では何も言えないですが…」

 

問題が勃発したのは、それから3年後。夫の母が亡くなって間もなくのころです。

夫の母の貯金通帳に不審な引き出しが…

葬儀後、しばらくして、義母の遺産分割について話し合いの場がもたれました。

 

義姉「お母さんの遺産は、この家と貯金。貯金はこの通帳のとおりよ」

 

夫の前に置かれた2冊の預金通帳。1冊には1,000万円ほどの金額が記帳されていましたが、もう1冊はほぼゼロ。義姉いわく、1冊は貯金用、もう1冊は生活費用だから、残金はほぼゼロとのこと……。

 

夫「なるほど…ちょっと気になるところがあるんだけど、何でこんなに引き出しているの?」

 

貯金用だという通帳をめくっていくと、頻繁に引き出した形跡があるのです。それは毎回数十万円ずつ。

 

夫「全部足していくと、結構な金額だよ。えっと…(計算中)…合計4,000万円以上! 何にそんなに使ったの!」

 

義姉「知らないわよ。お母さんが引き出したんじゃないの?」

 

夫「だって、この通帳を管理していたのは姉ちゃんだろ? お母さん施設に入っていたんだから、こんなに頻繁に引き出すわけ、ないじゃないか!」

 

義姉「知らないわよ、私のお金じゃないんだから! とにかく、この1,000万円とこの家をどうするか、決めましょ」

 

夫の疑問には「知らない」の一点張りだったという義姉。結局、自宅は売却したうえで、遺産は等分することになったといいます。

 

「その話を聞いて、絶対おかしいと思いました。施設への支払いは、引き落としになっていたというし、夫の母はお金を頻繁に引き出す必要なんてなかったはずですよね」

 

そのあと税務調査が入り、義姉による義母の貯金の使い込みが発覚します。義姉は義母の貯金を勝手に引き出し、住宅ローンの返済を行っていたのです。

 

「だって、あの家(=義姉の家)の半分は、母のものなのよ」

 

ここで義母から資金提供を受けて家を購入したのにも関わらず、何の申告もしていなかったことまで発覚。言い逃れのできない状況になってしまいました。

 

「義姉…税金、払えないんじゃないですかね。いま、地獄を見ていますよ。自業自得ですね」

 

義姉の行為は違法行為
義姉の行為は違法行為

トラブルに発展しやすい「遺産の使い込み」

「遺産の使い込み」や「遺産隠し」は、事例のように相続人の1人が被相続人の口座から勝手に引き出してしまうケースや、口座そのものを教えないというケース、不動産などでは評価額を低く伝えてしまうケースなどがあります。

 

これらは突き止めるのは大変です。遺産分割協議書にサインをしてしまっていれば、それを覆すのは困難ですし、弁護士を立てて争うことになれば、家族仲の修復はまず無理です。

 

相続争いは、兄弟姉妹間で起きるケースが多いです。特に二次相続時には緩和剤となる親がおらず、争いに発展しやすいのです。

 

このような争いが起きないように、生前に相続対策をしっかりとしておくのも親の役目と言えるでしょう。

 

相続対策で一番最初にやるべきは「現状分析」。

 

・どのくらいの相続税が発生するのか

・納税できるだけの資金があるのか

・家族が円満に相続することができるのか

・税務調査で問題になりそうなことがないか

 

などの問題点を精査します。きちんとした現状分析を出すのには、それなりにエネルギーと時間がかかります。無料で算出できるサービスもありますが、鵜呑みにするのは危険です。面倒がらずに、一度、プロに現状分析を依頼してもらうことをおすすめします。

 

次にするのが、「遺産分割対策」。「相続が起きた場合に、どのように遺産を分けていくのか」をあらかじめ決めておきます。分け方の視点で重要なのが、まずは税金の視点。もうひとつが、みんな円満に仲良く相続してくれるか、という視点です。

 

まずは、相続が起きた時に、相続人全員が不満を持たずに遺産分けができるか。それができて初めて、家族全体で最も相続税の負担が少なくなる遺産の分け方を考えていくことになります。遺産の分け方が固まったら、遺言書で残しておくようにしましょう。

 

遺産分割対策が無事に形になったら、次に、評価引下げ対策を考えていきます。不動産や生命保険を活用した相続税対策で、「預金で相続させるよりも、不動産や生命保険で相続させた方が、相続税は安く済む」という理屈です。

 

それらが終わってから「生前贈与」を検討します。現状分析と遺産分割対策が基礎工事だとすると、評価引下げ対策と生前贈与対策は、建物の建築工事のようなものです。基礎工事しないまま、建物を建てると、ちょっとした地震で倒壊します。そのようなイメージです。

 

【動画/筆者が「相続発生後の手続き」について分かりやすく解説】

 

橘慶太
円満相続税理士法人

 

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