早期発見がカギ、「視界が歪む・欠ける」症状への最新治療とは

偏った食生活や喫煙などで発症リスクが高まる疾患、加齢黄斑変性…。「疲れ目かな?」と放置していると、症状が悪化してしまう可能性が高いため、注意が必要です。今回は、はんがい眼科・板谷正紀理事長の著書『目の悩みは眼底を疑いなさい「見える」を支える“黄斑”のチカラ』より一部を抜粋し、「加齢黄斑変性」の最新の治療法について解説します。

高い効果が期待できる「抗VEGF薬の硝子体注射」

黄斑変性は、進行がゆっくりで治療法のない萎縮型(ドライタイプ)と、進行が速いが治療法がある滲出型(ウェットタイプ)の2つに分類することができます。(関連記事:眼の生活習慣病「加齢黄斑変性」…タイプ別の治療法とは?

 

滲出型黄斑変性の治療法には抗VEGF薬の硝子体注射、光線力学療法、レーザー治療、ステロイド治療があり、この中で、現在、滲出型加齢黄斑変性治療の第1選択は抗VEGF薬の硝子体注射です。

 

抗VEGF薬は硝子体に直接注射します。

 

硝子体というのは、眼球の中味の大部分です「目に直接注射を打つ」というと、とても痛いんじゃないかと怖がる人がほとんどです。でも、心配はいりません。抗VEGF薬を注射する前には点眼麻酔(目薬タイプの麻酔薬)をしますし、針は30ゲージのとても細い針を用いますので、実際には痛みはほとんど感じません。

 

注射自体の時間もほんの1、2秒しかかかりません。

 

[図表1]硝子体注射
[図表1 ]硝子体注射

 

滲出型加齢黄斑変性は、網膜の土台である網膜色素上皮が傷んで脈絡膜から新しい血管が生え、そこから血液成分が漏れたり出血したりして黄斑を障害する疾患です。この脈絡膜新生血管は幼若なため、もろく破れやすいのです。

 

つまりこの幼若な新生血管を抑え込んで退縮させれば、滲出型加齢黄斑変性の進行が抑えられ、視力の改善が図れるかもしれない。こうした発想から行われるのが抗VEGF薬の硝子体注射という治療法です。

 

この治療法が可能になった背景には、新生血管を発生させる作用の強い因子として血管内皮増殖因子(VEGF)というタンパク質が特定されたことがあります。

 

今ではがん細胞がこのVEGFを分泌することで新生血管をつくり、周囲の血管から酸素や栄養分を取り入れて増殖していく仕組みも解明されています。このVEGFの過剰生産を抑え込む抗VEGF薬を硝子体内に注射すると脈絡膜新生血管の活動が抑えられ血液成分の漏れが止まるという仕組みです。

 

これにより黄斑の剥離や黄斑浮腫が消退して視力の改善が期待できるようになりました。

 

視力の改善
「抗VEGF薬」で、視力の改善も可能に

薬の効果切れで再発…精神にも家計にも負担がかかる

現在、日本でよく使われている抗VEGF薬は、バイエル社の「アイリーア」、ノバルティスファーマ社の「ルセンティス」です。ただし、どの薬も1カ月ほどしか効果がないため、再発が問題になります。

 

最初の導入期では毎月3回注射して脈絡膜新生血管を抑え込みます。その後もOCTで再発の有無を綿密に見ながら注射を続けます。

 

脈絡膜新生血管を退縮させることができても、脈絡膜新生血管が生えてくる原因になった黄斑の土台である守護神のダメージは治りません。ですから抗VEGF薬の効果がなくなると、すぐに再発するのです。そのため何度も注射が必要となることが多く、それが患者さんの負担になっています。

 

「◯回打てば治る」か、はっきりとは見通しが立てづらいところがあります。

 

最初の3カ月は毎月注射をしますが、その後は以下の3パターンのなかから経過を見ながら選択することになります。

 

1~2カ月おきに定期的に打つ

 

1カ月おき→1.5カ月おき→2カ月おき→2.5カ月おき→3カ月おきと徐々に間隔を空けていき、3カ月空けても再発がなければ注射を止める(EXTEND法)

 

毎月定期的に診察を受けながら必要に応じて注射をする(PRN法)

 

もちろん毎月打つほうが効果は高いのですが、費用がかさんでしまいます。

 

抗VEGF注射は1回あたり16~18万円と高額です。もちろん健康保険は使えますが、それでも3割負担の人で5~6万円かかります。

 

1割または2割負担の高齢者は月額上限1万8000円が適用されます。これが当初3カ月間は毎月、その後も数カ月おきに続き、しかも「いつまで続くかわからない」となると家計的にも精神的にも、負担のかかる治療なのです。

進む研究…より効果の高い治療法が出てくる可能性も!

とはいえ、なるべく良い状態(それ以上に悪化させない)を保っておけば、そのうちもっと経済的負担が少なく効果の高い治療法が出てくる可能性があります。

 

最初の抗VEGF薬が登場したのは2008年で、まだ10年ほどしか経っていません。

 

黄斑の病気を治す研究や取り組みは、どんどん進化しています。私が研修医の頃(1990年)、加齢黄斑変性は原因のよくわからない奇病であると同時に治療法がない不治の病でした。

 

実は、VEGFは私が医師になる1年前の1989年にNapoleone Ferraraにより発見されました。画期的な発見でした。それ以前は、血管新生の仕組みに謎が多く、科学的解明が遅々としていましたが、VEGFの発見とともに血管新生の仕組みが次々と明らかにされていきました。

 

そして、約20年の時を経て加齢黄斑変性の治療薬として抗VEGF薬が臨床に届けられたのです。

 

浸出性変化を起こすタイプ1とタイプ2
[図表2]脈絡膜新生血管が育つ部位 浸出性変化を起こすタイプ1とタイプ2

試行錯誤の末生まれた、安全な「光線力学的療法」

私が医師になって十数年は滲出性加齢黄斑変性の治療は試行錯誤の時代でした。硝子体手術により脈絡膜新生血管を抜去する治療が行われるようになりましたが、守護神である土台の色素上皮も一緒に取れてしまうことが多く、視力の改善は乏しいものでした。

 

そこで、黄斑を土台が壊れていないところへ移動させてやる黄斑移動術という手術が開発されました。手術がうまくいって術後合併症を起こさなければ視力を回復させることができました。

 

しかし、高い手術技術が必要なうえ、大きな術後合併症で失明するリスクを伴う治療でした。

 

黄斑を移動させるために、人工的に網膜剥離をつくり網膜を回転させてくっつけなおすのです。加齢黄斑変性の脈絡膜新生血管は大きいことが多く、大きな移動量を得るために網膜の周辺部を全周切る必要があり、術後に増殖硝子体網膜症という網膜剥離のこじれた状態になり視力を失うリスクがあったのです。

 

これらの手術は黄斑下手術といいますが、今ではほとんど行わなくなっています。唯一、黄斑の下に大きな出血が起きた場合には他の治療では救えませんので、出血のかたまりを取り除くために黄斑下手術を行います。

 

脈絡膜新生血管へのレーザー光凝固治療も行われていました。

 

脈絡膜新生血管を熱で焼き固めて漏れや新たな出血を抑える治療ですが、焼いたところの網膜は傷んでしまい見えなくなりますので、黄斑部から離れたところに脈絡膜新生血管が存在する稀な症例にのみ使える治療法です。

 

最初に効果と安全性のバランスが取れた有効な治療法が、2004年から始まった「光線力学的療法(Photodynamictherapy=PDT)」です。

 

この療法には「ベルテポルフィン(商標ビスダイン)」という光感受性物質を使います。この物質を静脈注射して脈絡膜新生血管に集め、そこへ弱いレーザー光線を照射するのです。そうするとベルテポルフィンが活性酸素を発生させ、新生血管に障害を与えます。

 

こうすると新生血管を閉じさせることができるのです。

併用治療に有効と判明、再び注目を集めることに

この光線力学的療法は、視力低下を防ぐことはできても、改善まですることは難しく、抗VEGF薬の登場で主役の座を譲りました。しかし、最近になって抗VEGF薬の効果が不十分なときに併用すると治療効果が高まることが知られるようになりました。

 

とくにポリープ状脈絡膜血管症(袋状の部分に血液が溜まり突然爆発する、日本人におおいタイプの症例)に対しては有効で、光線力学的療法と抗VEGF薬注射を組み合わせると治療効果が高まることがわかってきて、再び注目されています。

 

眼球にレーザー光を当てると、新生血管以外の健康な部分にも影響が出てしまうのではないか、やけどをしてしまうのではないかと心配されるかもしれません。ですが、この治療に用いられるレーザー光(非発熱性ダイオードレーザー)は熱を発しない特殊な性質で、特定の薬剤にのみ光化学反応をおこします。

 

ですから術前に、先に挙げた薬剤・ベルテポルフィン(商標ビスダイン)を点滴し、新生血管に集めて新生血管を選択的にたたくことが可能になるのです。

 

ところで、光線力学的療法で注意しなければならないのは、治療後です。

 

体内にベルテポルフィンが残ったまま日光など強い光に当たると、皮膚や眼に赤みや痒みが生じる「光線過敏症」になってしまうことが懸念されます。このため、薬剤投与直後から3~5日目までは直射日光や強い光への暴露を控える必要があります。

 

「光線過敏症」予防のため、日光を避ける必要がある
光線力学的療法施行後は日光を避ける必要がある

 

一方、蛍光灯など室内光に関しては、これを浴びることにより、むしろ皮膚に残存しているベルテポルフィンの不活化が促進されますので、光線力学的療法施行後は積極的に室内光を浴びることが望ましいのです。

 

ただし、強いハロゲンランプや窓からの直射日光など強い光線への暴露は避ける必要があります。注射後3~5日は日中の外出を避けて室内で過ごし、日が落ちてからの外出はOKという生活になります。

症例によっては「抗VEGF薬」が効きにくいことも…

滲出型加齢黄斑変性のなかには、抗VEGF薬が効きにくい症例もあります。

 

この場合は、最初に使った抗VEGF薬とは別のメーカーの抗VEGF薬を試すと効くことがあります。それでも効きが悪い場合は、他の治療法との併用を試みます。

 

まず、先述した光線力学的療法との併用がもっとも効く可能性が高い併用療法です。この他にも抗VEGF薬の併用療法として知られているのが、テノン嚢下(のうか)トリアムシノロン注入です。加齢黄斑変性の浸出性変化には炎症が関わっていることが知られています。

 

トリアムシノロンは炎症を抑えるステロイドです。懸濁液(けんだくえき)であるため注射すると作用時間が長く、症例によってはこの治療の併用で治療効果が高まることがあります。

まだ決定的な治療法がない「萎縮型加齢黄斑変性」

最後に萎縮型の加齢黄斑変性の治療法に再度触れておきましょう。

 

先にも述べたように、残念ながら萎縮型加齢黄斑変性には、決定的な治療法がみつかっていません。はっきりとした原因がわかっていないからです。

 

加齢や遺伝的要因が原因と考えられますが、治療法につながるような原因の解明には至っていません。救いは、急激に進行することがある滲出型黄斑変性と異なって、進行が非常にゆっくりである点です。

 

進行を遅らせるために、医師からアドバイスするとすれば、次の3点になります。

 

生活習慣の改善と抗酸化サプリメントの活用によりできるかぎり進行を遅らせる

 

萎縮型→滲出型に移行するケースがあるので定期的に診察を受ける

 

もう片方の目の黄斑が壊れないように全力で守る

 

まだ有効な治療法は確立していませんが、どうか絶望しないでください。

 

黄斑の病気の研究は日々進化しており、なるべく良い状態を保っていれば治せるようになる可能性があります。たとえば私の大学の先輩である高橋政代先生のグループは、iPS細胞を使って代わりの「網膜色素上皮」や「神経網膜」をつくって移植する研究で世界をリードしています。

 

【「加齢黄斑変性」の診断方法…詳しくはこちら!】

 

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

 

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

▼はんがい眼科の公式ブログ「目のブログ」▼
https://eyeblog-hangai.com/
▼多焦点白内障手術 無料個別相談会 開催中!▼
https://hangai.org/cataract-seminar/

著者紹介

連載眼科理事長が解説!「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

板谷 正紀

幻冬舎

欧米の成人失明原因第1位でありながら、あまり認知されていない黄斑疾患。初期症状や治療法、予防法を徹底的にわかりやすく解説した革新的一冊。