
「老後2000万円不足」問題が話題になり心配です。税金、社会保険料もアップしていて手取り収入も減っています。老後資金を貯めるにはどうすればいいでしょうか。※本記事は、三菱UFJ不動産販売株式会社運営の不動産情報サイト「住まい1」からコンテンツの一部を抜粋し、編集を加えたものです。
「老後2000万円不足」問題が心配です。税金、社会保険料もアップで手取り収入も減っています。このままでは老後資金が貯められません。老後資金を貯めるにはどうすればいいでしょうか。
- 収入が伸びず支出が大きい40~50代は老後資金が貯められない可能性があります。
- 相続財産も視野に入れた早めの資金準備が大切です。
税金と社会保険料のアップが足かせに
子育て関連の支出や住宅ローンの返済などを抱える人が多い40代や50代の人の中には、「お金が貯まらない」「老後資金をどうしようか」などと悩んでいる人がいるだろうと思います。
では、実際のところ40〜50代を取り巻くお金の環境はどうなっているのでしょうか。データを見ながら、収支状況や貯蓄環境の実態と、お金が貯まらない原因を確認してみることにしましょう。
まずは収入についてです。
過去10年間の平均給与(図1「過去10年の平均給与」)を見てみると、リーマンショックの影響があった2009(平成21)年を底に徐々にですが給与額は増えています。
年齢別(男性)の収入(給与所得者が対象)は、40代前半が581万円、40代後半635万円、50代前半682万円、50代後半686万円(2018年(平成30年)、図2「年齢階層別の平均給与」)で、いずれの年代も過去10年間の水準と比べて高くなっています。また、最近は共働きが珍しくなくなりました。そこで、個人ではなく世帯の所得(図3「各種世帯の1世帯当たり平均所得金額の年次推移」)を見てみると、世帯の所得も10年前と比べると高い水準にあり、例えば、子供がいる世帯の所得は、2009(平成21)年から2018(平成30)年の間に50万円近く増えていることがわかります。


貯蓄は、簡単にいえば「収入-支出」の残額ですので、収入の増加は貯蓄しやすさにつながる要因の1つといえるでしょう。ただし、収入を丸ごと支出や貯蓄に回せるわけではありません。
貯蓄可能なお金は収入から税金と社会保険料を引いた手取り額(可処分所得)から捻出しますので、これからの貯蓄状況を考える上では、税金と社会保険料がどう変化しているか押さえておく必要があります。
所得税については、2020年の税制改正(基礎控除・給与所得控除改正)で、会社員や公務員の給料から控除する給与所得控除が10万円引き下げられました。また、年収1000万円を超える場合は上限220万円の控除がありましたが、この金額が195万円に引き下げられます。
控除額が減ると課税対象となる金額が増えるため、手取りが減る可能性があります。
この改正によって手取りが減る可能性があるのは、給与収入が850万円を超える会社員や公務員の人です(年収850万円以下の場合、基礎控除が10万円引き上げられるので、影響がありません)。ただし、特別障害者に該当する人、23歳未満の扶養親族がいる人、特別障害者である同一生計の配偶者か扶養親族がいる人は、この改正で新設された「所得金額調整控除」が受けられます。
社会保険料については、社会保険料を計算する標準報酬月額の仕組みが変わりました。月額報酬は毎月の給与やボーナスなどを足して月額にしたもので、この金額(税込み)が63.5万円以上ある人は、本人負担分の保険料が月2745円高くなります。
税金に関しては、所得税のように収入から天引きされる税金(直接税)ではありませんが、消費税の負担増も影響します。消費税は間接税のため消費する金額が多い人ほど負担額が増えますが、消費税が8%から10%の増税により、一般的には年収400万円~500万円くらいの人や世帯で年間4万円超の負担増になるといわれています。また今後も消費税アップの可能性も指摘されています。
高騰し続ける教育費の重い負担
次に、支出を見ていきましょう。
40〜50代にとって大きな支出は、子供の教育費と住宅ローンの返済です。これらは「人生の3大支出」と呼ばれる大きな支出のうちの2つです。また、教育費と住宅ローンの返済が家計を圧迫するほど、3大支出の残りの1つである老後の生活費が厳しくなります。
先に子供の教育費を見てみます。
幼稚園から高校までの学習費(学校教育費、学校給食費、学校外活動費の合計)の平均は、幼稚園から高校まで全て公立の場合で、子供1人につき541万円、全て私立の場合で、子供1人につき1830万円です。

ところで、高校の学習費については2014年から学費無償化(高等学校就学支援金)の制度がスタートしています。これは家計面では大きな支援といえますが、全員の授業料が無料になるわけではありません。
例えば、両親どちらかが働いている世帯で、世帯年収が約910万円以上ある世帯は支援金を受け取れない場合があります。世帯年収が約590万円以上、約910万円未満の世帯は11万8000円の支援金を受け取ることができ、公立高校の授業料はほとんどこの金額内に収まります。しかし、私立高校の場合、授業料は支援金額を上回ることがあり、その分は自己負担です。また、年収が約590万円未満の場合は支援金が39万6000円に増えますが、この場合も、支援金を上回った分については自己負担です。
ちなみに、無償化の対象はあくまでも授業料です。施設使用料、教材費、課外授業費などは自己負担ですので、上記の収入条件を満たしていたとしても無料で高校に通えるわけではありません。
次に大学を見てみましょう。
大学の学費は、国立大学の授業料は年53万5800円が標準額で、入学金を合わせると子供1人につき4年間で250万円くらいです。私立大学は学校によって異なりますが、文系の学科の場合の平均で年80万円ほど、入学金と合わせて4年間で350万円くらいです。

授業料はこれまで一貫して値上げ傾向にあり、これが教育費を押し上げる要因の1つになっています。例えば、現在50歳の人が学生だった1990年ごろを見ると、国立・私立ともに今の授業料よりも20万円ほど安く収まりました。
この負担増に伴って奨学金を受給する学生の割合も増加し、大学(昼間部)に通う学生の場合では、1990年代に20%台だった受給者の割合が、この10年ほどは50%前後に増えています。授業料が高騰している背景には、少子化による定員割れや、新設の大学が増えたことによる大学の経営悪化があります。今後も少子化が進むことは明白ですので、これから子供が大学進学する場合は、さらなる値上げも視野に入れておく必要がありそうです。
国立大学は私立と比べて安価ですが、授業料の標準額(年53万5800円)から20%以内の範囲で各大学が授業料を設定できることになっています。2019年度には東京藝術大と東京工業大がそれぞれ20%近く値上げし、他の大学も20%を上限として値上げするのではないかと予想されています。
ただし、これらは授業料の金額ですので、それ以外に生活費の負担も考えなければならないでしょう。生活費の平均額(図6「大学生の学費と生活費」)は学費と同じくらい大きく、大学生の場合自宅から通う場合で年間約43万円(※1)、アパートなどを借りる場合は年間約111万円(※2)の支出になります。

返済の長期化で老後資金の準備が遅れる
次に住宅ローンを見てみましょう。
住宅ローンの金利は、前述したように国内のインフレ率が上がっていない背景などがあり、低金利で借りられる状況が続いています(図7「民間金融機関の住宅ローン金利推移(変動金利など)」)。

低金利になるほど返済負担は軽くなりますから、これは貯蓄しやすさにつながる要因の1つです。
ただ、住宅ローンを返済している持ち家世帯を見ると、平均では貯蓄額の2倍近い額の負債を抱えています(図8「持家世帯の住宅ローンの有無別貯蓄・負債現在高」)。また、大手新聞社の調査によると、2020年度の住宅ローン利用者が完済する年齢は平均73歳で、過去20年くらいの間でもっとも高齢化しているそうです。

これは、前述した「人生の3大支出」の点から見ると大きなリスクです。
3つのリスクを一度に対策していくことは難しいため、通常は、例えば、教育費の準備、住宅ローン返済、老後の資金準備といった順番を決めて貯蓄していきます。教育費が準備できたら住宅ローンを繰り上げ返済する資金を作り、住宅ローンを完済したら老後の資金を貯め始めるというような流れです。しかし、住宅ローンの完済が70代に差しかかるようだと、そのころには貯蓄の源泉である仕事を辞める可能性も大きくなっているはずです。つまり、老後資金の準備ができないまま老後の生活に入ってしまう可能性が大きいということです。
生前贈与や遺産相続にも目を向けてみよう
では、本稿の最後に仕事を引退した後の生活を見ていきましょう。
平均(図9、図10 総務省「家計調査報告」)を見ると、老後の家計収支は基本的には赤字です。2018年の平均は、夫婦世帯が約4万2千円の赤字、単身世帯が約3万9千円の赤字です。


ところで、2019年に「老後2000万円問題」が話題になりました。年金のみで暮らしていく場合、仕事を引退してから20~30年間の老後を生きるために約2000万円必要であるということを金融庁の金融審査会がまとめたものです。
この根拠となっているのが前述した月々の赤字額です。月々の赤字額と年金のみでくらす年数を掛け算して、約2000万円という金額が出たということです(金融庁の報告書は2017年の赤字額「約5万5千円」で計算)。この試算は、金額の大きさもさることながら、仕事を引退する時に2000万円持っておかなければならないという点が重要です。
2000万円貯めるためにはそれなりの時間がかかります。貯め始める前提として、すでに教育費を払い終え、住宅ローンを完済していなければなりません。この状態にたどり着くのはハードルが高く、だからこそ「老後2000万円問題」が「問題」として話題になったのです。
ここまで触れてきた話を踏まえても、教育費などの支出が大きく、住宅ローンの返済が長期化しているため、今後、老後資金をきちんと準備できる人は多くないだろうと思います。
このリスクを回避する方法としては、収入を増やす、節約して貯蓄に回すお金を増やすといったことができます。家計の健全化にはコストカット、つまり家計の見直しが有効です。家計見直しの第一歩は現状把握です。何にいくら使っているのか、今の状況が正確にわかっていれば、どんな課題があってどんな対策ができるのかも考えやすくなります。何となくお金を使うのではなく、事前に収入と支出のバランスを確認して、無駄な支出を減らすように家族で家計や節約について話し合うことも重要です。
老後2000万円問題の試算データによると、世帯主が60~64歳の無職世帯(2人以上)の平均消費支出は月額27万2713円でした。今は支出が収入を上回ったり、貯蓄を取り崩す自転車操業家計でも、定年までの時間を有効に使って、支出をこの水準以下に落としておくことができれば、収入が大幅ダウンした後の家計管理もやりやすくなるはずです。
また、相続財産も老後の生活負担を軽くする大きなポイントになります。例えば、自分や配偶者の両親が資産を持っている場合、生前贈与(相続時清算課税制度)を使って資金援助を受け、教育費負担を減らしたり、住宅ローンの繰り上げ返済を検討するといったことができます。親からの遺産相続が見込める場合も、その分は自分や自分たち夫婦の老後資金に当てることができますので、仮に相続財産が1000万円相当であれば、準備する資金は約1000万円に収まります。
では相続財産が期待できない世帯はどうすればいいでしょうか。家計の見直しを行い、さらに足りない部分は収入を増やす。定年延長、再就職、副業など、定年後、継続して収入を得る方法を考えていくことが必要になります。
そのような選択肢も視野に入れながら、まずは自分や配偶者が相続する財産があるか整理して見ましょう。相続可能な財産がある場合は、資産価値を把握したり、生前贈与などを有効に使う方法を考えるなど、早いうちから準備を始めることがクライシス(危機)の回避につながるはずです。
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※三菱UFJ不動産販売株式会社運営の不動産情報サイト「住まい1」に遷移します。
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