「製品寿命」はたったの50年!? 黄斑を守るためにできること

高い機能を持つがゆえに大量の酸素を必要としており、常に強い酸化ストレスにさらされている「黄斑」…。今回は、はんがい眼科・板谷正紀理事長の著書『目の悩みは眼底を疑いなさい「見える」を支える“黄斑”のチカラ』より一部を抜粋し、網膜の土台の故障で血液成分が漏れる代表的な病気、加齢黄斑変性について解説します。

年齢を重ねると発症リスクが高まる加齢黄斑変性

黄斑は高い機能を持つがゆえに大量の酸素を必要としており、常に強い酸化ストレスにさらされています。加齢黄斑変性は、この高ストレス状態にある黄斑を守っている守護神「網膜色素上皮・ブルッフ膜・脈絡膜」が、主に加齢によって弱っていき、その結果、黄斑が傷んでおきる病気です。

 

黄斑は人間がものを見る際の中心的な役割を担う器官です。そのため常に活発な活動をしており、酸素を大量に消費します。黄斑のある網膜には網膜中心動脈とよばれる太い血管から枝分かれした多くの血管があり、黄斑をはじめとした網膜全体に酸素や栄養を供給しています。

 

しかし活発に活動する黄斑を抱えた網膜が正常に機能するには、それだけでは足りません。そのため網膜は、網膜色素上皮を通して脈絡膜血管から酸素と栄養分の供給をうけているのです。

 

このように黄斑や網膜で消費された酸素は細胞毒性のある活性酸素にかわります。さらに栄養分がエネルギーにかわると大量の老廃物が発生します。こうした有害な活性酸素や老廃物も網膜色素上皮を通して脈絡膜へ排出されます。

 

こうした機能を担うため、脈絡膜には血管が網目状に発達しています。網膜色素上皮は網膜と脈絡膜の間にあって、酸素や栄養分、老廃物以外の余計なものは通さないバリアの働きをするとともに、網膜にある視細胞(光センサー)を保護する高度な働きをしています。

 

こうした重要な働きをしている網膜色素上皮、ブルッフ膜、脈絡膜が「黄斑や網膜を支える土台」と呼ばれている理由がおわかりいただけたでしょうか。いわば、黄斑の守護神なのです。

 

[図表1]脈絡膜の血管

この土台の部分が加齢によって機能低下をおこすと、黄斑を守る力が衰え、老廃物を排出できなくなり網膜色素上皮に老廃物が沈着するようになります。これをドルーゼンと呼びます。加齢黄斑変性になる一歩手前でドルーゼンが増えてきます。そして、徐々に網膜色素上皮が萎縮して黄斑を守れなくなると黄斑は傷んでしまいます(萎縮型加齢黄斑変性)。

 

また、網膜色素上皮とブルッフ膜が弱ると脈絡膜の血管から新しい血管が伸び始め、ブルッフ膜の中に侵入したり、網膜色素上皮―ブルッフ膜のバリアを破って網膜の下に侵入してきます(滲出型加齢黄斑変性)。

 

この新しい血管を脈絡膜新生血管といいますが、できたての幼若であるため血液成分が漏れたり、破れて出血したりして黄斑を傷めてしまいます。このように黄斑の守護神が弱って黄斑機能が阻害されたり、黄斑が壊れてしまうのが黄斑変性という病気です。

 

とくに黄斑の中心部にある中心窩とよばれる部分には、ものを見るための錐体細胞だけが高密度に集まり、網膜血管すら存在しません。すなわち、ほとんどすべての酸素と栄養を脈絡膜から得ています。

 

したがって土台の部分が衰えて老廃物の排出がうまくいかなくなると、黄斑の網膜色素上皮に付着した老廃物のかたまり(ドルーゼン)が増えて、脈絡膜から黄斑への酸素と栄養の供給が断たれ、加齢黄斑変性が発症します。

 

発症すると、視野の中心に見えない部分ができたり(中心暗点)、歪んで見えたり(変視症)する症状が現れてきます。これが典型的な加齢黄斑変性の初期症状です。加齢黄斑変性をおこした黄斑のOCT(光干渉断層計)画像を見ると、本来美しいくぼみを形づくっている黄斑が、変形したり厚みを増したり膨らんだりしているのがわかります。

 

加齢黄斑変性は黄斑が本来あるべききれいなくぼみをなくしてしまう病気ともいえるのです。

人間の身体の「製品寿命」は50年しかない!?

加齢黄斑変性は文字通り加齢が原因ですから、誰にでも起こりうる病気といえます。欧米の先進国では50歳以上の成人に多く、失明原因の第1位を占めています。日本ではまだ第4位なのですが、その増え方からいえば、近い将来に第1位になってしまうのではないかと見られています。

 

これは私の個人的な意見ですが、人間の身体の「製品寿命」は、だいたい50年くらいなのではないでしょうか? 50歳を超えると、どんなに健康的な生活を送ってきた人でも、身体のどこかしらに不調や不具合が出てきます。ですからそれまでよりも一層健康に気をつけて、積極的に検査・健診を受けてほしいのです。

 

[図表2]アムスラーチャートにおける見え方の違い

 

そもそも江戸時代あたりまで、日本人の平均寿命は50歳に満たなかったと言われています。それが栄養状態の改善や医学の進歩によって、どんどん長生きができるようになっているのです。

 

昔は90歳のご老人に会うとびっくりしたものですが、最近はそれほど珍しくありません。長生きできるようになったことはもちろんいいことなのですが、老いや病気と向き合わなければならない機会も増えてきます。

 

ところで〝製品寿命〟というのは、家電製品などで使われる用語です。その年数が経過したら必ず壊れる、というものではありませんが、手荒く使えば傷みは早くなります。また定期的にメンテナンスをし丁寧に使えば長持ちします。

 

もちろん長持ちにも限界はあって、永遠に使い続けられることはありません。摩耗や消耗、あるいは素材の劣化といった原因から、いつかはどこかが壊れてしまいます。そして、最初にガタがくるのは、決まって精密・精巧でよく使う部分です。人間の身体も同じです。

 

20~30代までは、多少無理をしても〝若さ〟で回復し、何とかなってしまうところがあります。けれども50歳を超えたあたりから、疲れが取れにくくなったり怪我をしやすくなるなどして、身体のいろいろなところが傷んできてしまうのです。

 

そして、身体のどこが病気になりやすいかは、個人によって異なり、受け継いだ遺伝子に刻み込まれていると考えられています。これに生まれてからの食生活、仕事、運動などのライフスタイルが影響します。

 

骨や筋肉など栄養摂取の工夫や運動で強くできる部分もありますが、精密・精巧な部分ではなかなかそれができません。眼、ことに黄斑などはその最たるものです。網膜は光を受けることで、私たちにはこの世界を見せてくれながら、引き換えに黄斑を守る守護神たちが少しずつダメージを負っていきます。

 

若いうちは細胞の働きが活発ですから、守護神たちも少しずつ生まれ変わって回復しているのですが、歳をとるとだんだんと回復が追いつかなくなっていくのです。「見る」行為ですり減ってしまうのはある意味で仕方ないですが、喫煙や偏食は自ら黄斑の守護神を弱めてしまう生活習慣です。

 

網膜はダメージを負っても痛みを感じるといった自覚症状がないので、気づいたときには黄斑が壊れてしまっていたというケースが後を絶ちません。人間の身体ですから、個人差もあります。遺伝子研究では、生まれながらにして黄斑の守護神が丈夫な人と、そうでない人がいることがわかっています。

 

黄斑の守護神が弱い遺伝子背景を持つ人が、喫煙や偏食など黄斑に良くない生活習慣を続けると、だんだん黄斑の守護神のダメージが回復しにくくなり、あるとき黄斑が壊れてしまうのです。

 

【気になるタイプ別の治療法はこちらから!】

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

▼はんがい眼科の公式ブログ「目のブログ」▼
https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載眼科理事長が解説!「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

板谷 正紀

幻冬舎

欧米の成人失明原因第1位でありながら、あまり認知されていない黄斑疾患。初期症状や治療法、予防法を徹底的にわかりやすく解説した革新的一冊。