「消費減税・全国民への現金給付」がコロナ対策にならない理由

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家・塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第13回は、コロナショックによる景気減速を立て直すために、どのような選択肢が有効であるかを考察します。

政府は「大規模な景気対策」を実施することに

今回の新型コロナウイルスに起因する経済問題への対応として、政府は大規模な景気対策を実施することになりました。緊急事態ですから、財政再建などといっていられない、という国際的なコンセンサスができあがっており、先進各国ともに本格的な対策を実施するとみられます。

 

「消費税を減税せよ」「全国民に現金を配れ」といった声も聞こえてきましたが、筆者はいずれも支持しません。政府の対策で概ねいいと考えています。もちろん、規模はさらに大きければ大きいほどいいですが。

外出自粛で消費しないのだから、消費税減税は効果薄

筆者は、消費税がいい税だとは思っていません。累進課税になっていないため、貧しい人に負担感が重いといわれていますし、消費するたびに重税感を与えるだけでも景気にマイナスです。専門的な話になりますが、「ビルトイン・スタビライザー」と呼ばれる景気安定化機能も持っていません。したがって、中長期的には消費税率は緩やかに引き下げていき、ほかの税と入れ替えるべきだと考えています。

 

しかし、今次局面における景気対策としての消費税率引き下げには反対です。今次不況は短期的に景気が大きく落ち込んだあと、新型コロナが収束すれば急激に景気が回復する、という短期集中型の不況ですから、対策も短期決戦型とすべきだからです。

 

「消費税率を短期間だけ思い切り引き下げる」ということになると、引き下げ前に猛烈な買い控えが発生し、引き下げ後に猛烈な反動増が発生しますし、元に戻す前に猛烈な買い急ぎが発生し、戻したあとに猛烈な反動減が発生します。つまり、景気が不必要に熱されたり冷やされたりすることになるのです。

 

「消費税率を大幅に引き下げてそのまま維持する」ということであれば、景気対策としてはいいのでしょうが、新型コロナが収束したあとも税率を戻さないと、景気刺激効果が出すぎるでしょうし、財政再建派が黙っていないでしょう。

 

一方で、財政再建派に迎合して「消費税率を小幅に引き下げて、そのまま維持する」というのでは、今次緊急事態を乗り切ることはできないでしょう。

 

もうひとつ、今次不況は「金がないから消費しない」のではなく、「外出できないから消費できない」わけですから、消費税率を引き下げても、景気対策としての効果は薄いでしょう。

 

短期集中型の不況なのだから、対策も短期決戦型とすべき
短期集中型の不況なのだから、対策も短期決戦型とすべき

幅広い現金給付よりも、ピンポイントの景気対策を

全国民への現金給付についても、同様に効果が薄いでしょう。金がないから消費できない、というわけではないからです。自粛の影響が大きい業界で働く人はともかく、それ以外の年金生活者、公務員、一般企業のサラリーマン等は、別に所得が減っているわけでもないので、現金を給付されても貯金するだけでしょう。

 

今次不況は、狭い範囲に被害が集中的に発生していますから、景気対策もピンポイントに困っている人を助けることに集中すべきです。

倒産回避こそ至上命題、資産の雲散霧消を食い止めよう

今次不況は、短期的に狭い範囲に影響が集中し、おそらく短期間で終了して元に戻る、というものでしょう。そうした時に最も重要なことは、倒産を防ぐことです。需要が戻るまで倒産寸前で持ちこたえるか、倒産してしまうか、というのは雲泥の差ですから。

 

倒産すれば、雇用が失われるのみならず、まだ使える設備機械がスクラップ用に叩き売りさせられたりしますし、企業のノウハウや信用や顧客リストといった見えない資産が雲散霧消してしまいます。これは日本経済にとって大きな損失です。まして、観光地の旅館が倒産してしまえば、旅行需要が戻れない、といったことにもなりかねません。

 

企業が倒産するか否かに決定的な影響を与えるのは、損益ではなく資金繰りです。したがって、政府が最も注力するのは中小企業の資金繰りの支援でしょう。これについては、様々な支援策が既に決まっているようなので、期待しましょう。

 

赤字の補填もできればお願いしたいですが、とにかく最重要なのは資金繰りだ、ということで頑張っていただきたいです。資金繰りを支援するだけなら、財政赤字はそれほど膨らまないので、緊縮財政派も説得しやすいでしょう。

「雇用の確保」「所得の補填」もぜひお願いしたい

売上の落ちた企業は、雇用を減らそうとします。それに対して雇用を維持してもらうように頼むだけでは、効果は期待薄でしょうから、雇用調整助成金等々によって企業が雇用を維持しようというインセンティブを作り出す必要があります。

 

とはいえ、政府は雇用調整助成金制度を大幅に拡大するようですので、これで雇用が守られることを期待しましょう。加えて、所得の減った家計に現金を給付する、といった政策も採用されるようです。売上の落ち込んだ自営業者等を救済する策として、狭い範囲に集中的に現金を給付することは、全国民に広く浅く給付するより遥かに望ましいでしょう。あとは、給付総額を削るために給付対象を絞るのではなく、給付総額を保ったままでしっかり給付してもらえばよいと思います。

 

もっとも、上記では救いきれない資金繰り難も発生する可能性がありますので、たとえば希望者にはほぼ無条件で100万円を融資する、といった緊急の制度も必要かもしれません。金利を3%程度に設定すれば、必要のない人は借りないでしょうから、必要のある人だけに資金が行き渡るはずです。

 

最初から返済する意思がないのに借りようとする輩は当然排除しなければなりませんが、その排除に熱心になる余り、必要な人が借りられないという事態が起きても困ります。銀行などとしっかり相談しながらも、緊急事態であることを考慮して、若干甘めの融資基準で貸せるようにしていただければ幸いです。多少の貸し倒れが出たとしても、全国民に現金を配る政策とくらべれば、財政負担は軽いでしょうから。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。
 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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