なぜ「焦点」があるのか…「人間の目」の仕組みと働き

カメラに例えられることが多い、「人間の目」の構造。理解を深めていくことで、あなたが持つ目の悩みの、解決の糸口が見つかる可能性が高まります。今回は、はんがい眼科・板谷正紀理事長の著書『目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ』より一部を抜粋し、眼球の構造について解説します。

暗闇の中に「光を集める」役割を持つ「黄斑」

黄斑について知っていただくには、私たちがどうやってこの素晴らしい世界を見ているのか、を理解していただく必要があります。その前に、まず眼球がどんな構造になっているのかを見ておきましょう。

 

「見える」しくみ
「見える」のしくみとは

 

目は「眼球」というように、球状で、いくつかの膜に覆われています。一番外側が強膜、その内側に脈絡膜があり、さらに内側に光を感じる網膜があります。強膜は厚くて丈夫な膜です。この強膜があるおかげで眼球は球体を維持できているのです。

 

[図表1]目の構造

 

光は角膜から前房を通り、瞳孔を抜けて水晶体に導かれます。眼球を正面から見たとき黒目の部分を覆っているのが角膜です。その後ろにある空間が前房で、前房は房水という透明な液体で満たされています。角膜や水晶体はこの房水から酸素と栄養をもらっているのです。

 

前房の後ろには、入ってくる光の量を調節する虹彩があります。虹彩はカメラでいえば「絞り」の役割をします。虹彩を通った光はレンズの役目をする水晶体に集まり、カメラでいえばフィルムの役割をする網膜に像を結ぶことになります。

 

カメラではレンズとフィルムの間には空間があるだけですが、人間の眼では硝子体という透明なゼリー状でコラーゲンとヒアルロン酸が主成分の物質でこの空間が満たされています。「硝子体」は普通に読めば「がらすたい」ですが、ここでは「しょうしたい」と読みます。

 

まとめると、角膜や虹彩を抜けて水晶体に集められた光は、硝子体を通して網膜に像を結ぶというわけです。そしてまさにこの焦点を結ぶ場所の中心にあるのが、本記事の主人公・黄斑なのです。

目には「光を遮断する」機能も備わっている

網膜に結ばれた光が持つ視覚情報が、どうやって脳に送られ、私たちに生き生きとした像として改めて認識されるのでしょうか。その役割を担っているのが網膜に並んだ光を感知するセンサーである視細胞です。

 

このセンサーには、明暗を感知する桿体(かんたい)細胞(明るさセンサー)と、色や形を感知する3種類の錐体(すいたい)細胞(色センサー)があります。3種類の色センサーはそれぞれに赤・青・緑を検出します。

 

赤・青・緑が「光の三原色」であることは、皆さんご存知だと思います。この3つの色の割合で、ほとんどすべての光の色を認識することができます。たとえばテレビやパソコンのモニターは、この3色を発光する素子を並べて映像を作り出しているのです。

 

[図表2]ものを見るしくみ

 

明るさセンサーと色センサーで感知した情報は、電気信号となって「視神経乳頭」に集まります。そこでまとめられた信号は、「視神経」を伝って脳に送られます。そして脳の視覚をつかさどる部分で、画像処理が行われ、脳の他の領域とネットワークでつながって分析・判断が行われたり、感動などの感情を引きおこすのです。

 

網膜を守る土台が脈絡膜です。網膜と脈絡膜の間に網膜色素上皮という一層の細胞層があります。網膜色素上皮と脈絡膜はメラニン色素を持っていて、一緒に網膜を守る重要な役割をはたしています。それは①視細胞(光センサー)などに酸素や栄養を送る、②老廃物を回収する、③光を遮断する、の3つです。

 

酸素や栄養を送るのと老廃物の回収はすぐに理解できますが、なぜ光を遮断する機能が必要なのでしょうか。

 

それは闇を使って世界をくっきりと見るためです。映画館では本編の上映が始まると、館内の明かりを消して暗闇を作ります。そうすることで、スクリーンに映し出される映像が、より鮮明に見えるようになります。

 

映像をクリアに映し出すためには、余計なところが明るかったり、脇から光が差し込んでしまうと都合が悪いのです。必要のない光はできるかぎり遮断して、暗闇の中に光を集める―その「光を集める」部分が映画館ではスクリーンであり、望遠鏡では接眼部(スコープ)であり、カメラではフィルムであり、デジカメでは撮像素子(CCDやCMOS)であり、眼球では「網膜」なのです。

人は無意識のうちに「黄斑で見よう」としている

黄斑は瞳の真後ろにあって、水晶体を通して集められた光を受ける網膜の、ほぼ中心部分に位置しています。「ほぼ」と書いたのは、正確な中心よりも少しだけ耳側に寄っているからです。これは2つの目が顔の中心よりも外側にあるからですね。

 

このズレによってど真ん中にピントが合うようになっているのです。網膜には光を感知する4種類の光センサーが並んでいます。中でも黄斑の部分にはとくに色センサーがぎっしり集まっているのです。

 

さらに黄斑の中心部分は、円形にくぼんでいて、ここだけ網膜が薄くなっています。網膜が薄いのは色センサーしか存在しないためです。網膜が薄いぶんダメージには弱くなりますが、センサーの感度は上がります。つまりこの部分は、色や形がことのほかよく見えるということです。このもっともセンサーの感度のいい部分を中心窩といいます。

 

逆に黄斑から遠ざかるにつれて、明るさセンサーの割合が多くなり、また配置の間隔もひらいていきます。つまり人間の網膜に配置されたセンサーは、均等に配置されているわけではなく、黄斑を中心にした視野の中央部に重点的に配置されているのです。

 

ですから、あなたが意識的に「あるもの」を見ようとしたとき、あなたの目は、その「あるもの」の像が黄斑の中心窩に結ばれるように動きます。そこは先にも触れたように色センサーがぎっしりならんで感度がよく、細部までくっきりと認識できることになります。

 

あなたが意識的に「あるもの」を見ようとするときに、目や顔を動かして対象を視界の中央に持っていこうとするのは、あなたが無意識のうちに「黄斑で見よう」としているからなのです。

 

今この文章を読んでいるあなたが「見ている」のは、この行のこの文字です。しかし同時に、紙面の角にあるページ数や、本の向こう側にある景色も目に入っているでしょう。

 

あるいはこの瞬間に誰かがあなたにタオルを投げつけたとすれば、あなたはそれがどんな柄かはわからないにせよ(それがタオルかどうかもわからないかもしれません)、とっさに避けられるはずです。

 

ためしに、このを見ながら周囲のどのあたりまでが視界に入っているか、確認してみてください。自分が思っていたよりも、ずいぶんと広範囲に見えるのではないでしょうか? 

 

人間の視野は健康な大人が両目で見た場合、上下に120~130度、左右に150~200度あるとされています(個人差はあります)。けれども、視野の全部がはっきり見えているわけではないはずです。

 

中心部分は色も形も詳細に認識できるけれど、外に向かうにつれてだんだんぼんやりとしていき、いちばん端っこになるとモノのあるなしや動きが辛うじてわかる程度になっていたでしょう。これは、センサーの分布がそのようになっているからです。「視細胞(光センサー)分布のイメージ」の図を見てください。

 

[図表3]視細胞(光センサー)分布のイメージ

 

黄斑部分には色センサーが圧倒的に多く(とくに中心のくぼみには色センサーのみが並んでいます)、これによって視界の中心部分が詳細に認識できるのです。明るさセンサーはというと、その周囲をぎっしりと取り囲むように並んでいます。

 

外側にいくほど色センサーより明るさセンサーの割合が多くなっていきますが、すき間もだいぶひらいているのがわかります。この部分は「モノのあるなしはわかるけれども、色や形までは詳しく見分けられない」ようになっているのです。

 

[図表4]垂直視野と水平視野

 

これが私たちが日頃、漠然と感じている「視界の中央とくに中心部分は細かい部分まではよく見えるけれども、外側のほうは見えるには見えるがぼんやりしている」理由です。

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/
▼多焦点白内障手術無料説明会 開催中!▼
http://seminar.hangai.org/multifocal_cataractsurgery/

著者紹介

連載眼科理事長が解説!「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

目の悩みは眼底を疑いなさい 「見える」を支える“黄斑”のチカラ

板谷 正紀

幻冬舎

欧米の成人失明原因第1位でありながら、あまり認知されていない黄斑疾患。初期症状や治療法、予防法を徹底的にわかりやすく解説した革新的一冊。