「私、絶対に許せない!」叔母の遺言書に書かれていたこと…

配偶者や子どもがいない方が被相続人になった場合、状況によってはきょうだいのほか、甥姪も法定相続人となります。しかし、きょうだいや甥姪の場合は「遺留分」がないため、遺産分割は被相続人の意思ですべて決めることができるのです。相続人は遺言の内容に納得できなくても、受け止めなければなりません。※本記事は、株式会社トータルエージェントが運営するウェブサイト「不動産・相続お悩み相談室」から抜粋・再編集したものです。

気に入らない兄弟姉妹・甥姪を、相続人から外す

配偶者や子どもがいない方が亡くなった場合、その方の法定相続人は、親、親がなければきょうだいになります。もしきょうだいが亡くなっても、その方にお子さんがいれば(甥姪)、その方も法定相続人に含まれます。

 

法定相続人には「遺留分」といって、相続人の生活を保障するための最低限の財産が相続できる権利が保障されており、法定相続分の半分がそれに該当します。

 

しかし、遺留分が認められているのは、被相続人の配偶者や直系卑属(子・孫)、もし配偶者や子どもがいない場合は直系尊属(親)であり、きょうだい(甥姪)が相続人の場合は遺留分は認められません。

 

そのため、きょうだいや甥姪の立場の方は、被相続人が残した遺言書に記述がなければ、当然ですが、相続財産は何も受け継ぐことはできないのです。遺言書は遺言作成者の意思であり、どれほど内容に不服を感じても、一度は受け止めなければなりません。

 

今回は、伯母が残した遺言書によって、相続人のうちひとりだけ排除されてしまった、会社員の綾子さん(仮名)のケースを紹介します。

 

…………………………………………………………

 

綾子さんのところに、母方の伯母が亡くなったとの連絡が入ったのは、会社から自宅に戻り、一息ついたときでした。

 

電話をくれたのは綾子さんの叔母の景子さんで、5年前に亡くなった綾子さんの母親のいちばん下の妹でした。

 

「綾子ちゃん、とうとう静子姉さんが亡くなったのよ」

 

「本当!? まだ大丈夫そうだって、この間聞いたばかりなのに…」

 

景子さんは、姉の静子さんが息を引き取るときの様子をひとしきり話すと、葬儀の日時と場所、段取りなどを綾子さんに伝え、電話を切りました。

 

伯母の静子さんは高齢で、数年間病院で寝たきりだったこともあり、葬儀は静子さんのきょうだい3人と、姪の綾子さんだけのこじんまりとしたものでした。

 

40代で未亡人になった伯母の静子さんは、かなりわがままな性格で、きょうだいのなかでも、綾子さんの母親の美香さんを、ひどく振り回していました。体調が悪いといっては呼び出し、体調がいいといっては運転手代わりに使うなどは日常茶飯事で、綾子さんが見ている限り、美香さんは静子さんのための持ち出しも多く、かなりの金額を使ったようです。しかし、静子さんは感謝するわけでもなく、

 

「私は体が悪くて働けないけれど、美香は元気に仕事をしているんだから当然」

「私は主人も子どももいないけれど、美香には夫も娘もいるんだから当然」

 

などといって、意にも介さない様子でした。それを見ていた綾子さんは、伯母の静子さんのことを好きになれませんでした。

 

しかし、静子さんが最初の心臓発作で倒れたとき、病院のベッドで綾子さんの手を握り、綾子さんのお母さんにはお世話になった、わがままを黙って聞いてくれて、本当に感謝している、といって涙を流しました。

 

「もう先が見えてきたけれど、伯母さんには子どもがいない。財産をあげようと思っていた大事な美香も、先に逝ってしまった。だから全部、綾子にあげる」

 

綾子さんはこの言葉を聞いて、財産のことより、静子伯母さんはちゃんと母の美香さんに感謝していたのだと心を動かされ、すっと胸のわだかまりが解けるような思いがしました。

 

「お母さんに面倒かけたから、財産は姪のあなたに…」伯母の感謝を聞き、心が晴れた
「あなたのお母さんに面倒かけたから」…伯母の本心ではなかったのか?

年取った伯母は「全部あげる」といったはずなのに…

伯母の静子さんの四十九日の法要のあと、叔父の正雄さんが綾子さんに話しかけました。

 

「綾子ちゃん。綾子ちゃんに印鑑をもらわなければいけない書類があるんだ。ちょっと見てくれるかな?」

 

正雄さんが運転する車に全員が乗り合わせ、正雄さんの家に向かいました。

 

リビングに通されるとすぐ、正雄さんが茶色のA4サイズの封筒を持ってきました。

 

「静子姉さんは遺言書を残していてね。それをもとに書類を作ったんだが、綾子ちゃんの印鑑と、印鑑証明が必要なんだよ」

 

「見せてもらえますか?」

 

病床の静子伯母さんの言葉がずっと頭に残っていた綾子さんは、書類を素早く引き寄せました。封筒の中の書類は「遺産分割協議書」と書いてありました。

 

遺産分割協議書

被相続人 佐藤静子(昭和〇年〇月〇日)
死亡日  令和〇年〇月〇日
本籍地  東京都世田谷区……

令和〇年〇月〇日、被相続人佐藤静子の死亡によって開始した遺産相続を、佐藤静子の相続人全員で遺産分割協議を行った結果、下記のとおりに遺産を分配・取得することに合意したことを認める。
    ……………………

 

静子さんは配偶者を先に亡くしており、子どもがいないため、法定相続人は妹の明子さんと景子さん、弟の正雄さん、そして、静子さんより先亡くなったもうひとりの妹・美香さんの娘、綾子さんです。しかし、その遺産分割協議書には、綾子さんを除く3人で分割する旨が明記されていました。

 

「正雄叔父さん、これはなに? 私は何も知らないし聞いてない!」

 

「綾子ちゃん、気持ちはわかるけど、静子伯母さんは遺言書を残していてね。そこには綾子ちゃんの名前はなかったんだよ」

 

静子さんは、世田谷にある一軒家のほか、5000万円もの現預金を残していました。

 

「どうして!? 静子伯母さんが倒れたとき〈お母さんに面倒かけたから、私に〉って、いっていたのに!」

 

「うーん、それはだれも聞いていないし、遺言書にもなかったからね…」

 

「私が代襲相続人だから外すってこと? 叔父さんたちひどい!」

 

「いや、綾子ちゃん。だから、遺言書には…」

わがままな伯母にずっと振り回されていた亡母

綾子さんは、大学時代からの友人で、司法書士事務所を経営している裕子さんのところに泣きつきました。

 

「綾ちゃん、大変だったね」

 

「私、絶対に許せない! お母さんをあんなに振り回しておきながら…。お母さんが早く亡くなったのも、あの伯母さんがストレスになったせいなのよ!」

 

「お母さんに無理ばっかりかけるっていっていたの、覚えてるよ」

 

「うちには全然お金がない、主人が残したボロ家しかない、場所柄税金ばっかり高くてスッカラカンなんだ…っていうから、お母さんはいろいろ助けてきたのに、貯金が5000万円も残ってるの、信じられる!?」

 

「そんなに…!」

 

「〈つらい、もう死にたい〉って毎日のように電話をかけて来るから、お母さんは食事や旅行に連れ出して、病院にも付き添って、ずっと話し相手になって、ほかの親戚とのトラブルも全部仲裁して。みんな、静子伯母さんを嫌って、これまで寄りつきもしなかったのに…」

 

「そうだったんだ…」

 

綾子さんは裕子さんにありったけをぶちまけると、肩を落としてため息をつきました。

遺言書は「被相続人の意思」

「裕ちゃん、私、どうしても遺産はもらえないのかな? お母さんがあの伯母さんに使った分だけでも取り戻したい…」

 

裕子さんは、いいにくそうに口を開きました。

 

「遺言書に、あなたに相続させるっていう文章がないからね。確かに姪は法定相続人なんだけど、親や子どもとちがって〈遺留分〉がないの。だから、伯母さんが書いた遺言書通りの協議をするしかないね…」

 

「そんなひどい話ってある? 伯母さん本人から聞いた話と全然違うし、そもそもあの伯母さんのために、母がどれだけ迷惑したか…。遺言書って、本当に伯母さんが書いたのかな?」

 

「うーん。遺言書は遺言作成者の意思だからね。内容が不服でも、一度は受け止めなければ…。もちろん、明らかにおかしな内容だったり、他人に書かされたような疑いがあれば、裁判で争うこともできるけれど、覆すのはかなり大変だよ」

 

「じゃあ、遺産分割協議書に私が印鑑を押さなかったらどうなるの? どんな問題が起きる?」

 

「綾ちゃんの印鑑がないと、遺産分割協議は完了できない。もっとも、印鑑を押さなくても法的なペナルティはないよ」

 

綾子さんが自宅に戻ると、留守番電話の通知ボタンが点滅していました。

 

『綾子ちゃん、遺産分割協議書の件だけど、叔父さんたち、綾子ちゃんに〈ハンコ代〉を払うから、実印押してもらえないかね? 叔父さんたちももう年だから……』

 

録音された叔父の正雄さんの声を聴きながら、綾子さんは裕子さんから聞いた「綾ちゃんの印鑑がないと、遺産分割協議は完了できない」という言葉を何度も思い返していました。そして、覚悟を決めた表情で受話器を取り上げました。

 

 

菱田 陽介

菱田司法書士事務所 代表

 

髙木 優一

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長

 

菱田司法書士事務所 代表

東京都生まれ。明治大学法学部卒業。都内の司法書士事務所で経験を積み、のちに菱田司法書士事務所に移る。相続、遺言、不動産に関する案件を多く手掛けている。

菱田司法書士事務所は、東京都大田区大森で85年以上にわたって相続の問題を扱っている老舗。現在の代表は4代目に当たる。

菱田司法書士事務所ウェブサイト:https://hishida-jimusho.net/

著者紹介

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長
相続診断士
宅地建物取引士

昭和46年2月生まれ。専修大学経営学部卒業後、不動産仲介、建売分譲会社に9年間勤務。32歳で独立し、株式会社トータルエージェントを設立。独立時は任意売却業務を中心に事業展開していたものの、7年前より不動産相続コンサル業務に特化。

毎週木曜日かわさきFMにて相続の専門家をゲストに招き「高木優一の不動産・相続お悩み相談室」にて情報発信する傍ら、相続コンサル会社が運営する葬儀社「合同会社春光舎」の代表社員としても活躍中。

著者紹介

連載弁護士・税理士・司法書士は見た!実際にあった相続トラブルの事例

本記事は、不動産・相続お悩み相談(http://www.fudosan-consulting.jp/)に掲載された記事を再編集したものです。

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