新型肺炎流行でも、日本経済へのダメージは限定的といえるワケ

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ久留米大学教授の塚崎公義先生が、身近なテーマを読み解きます。第10回は、新型肺炎が日本経済にどのような影響を及ぼすか、起こりうる事例について考察します。

中国人の爆買い程度では、経済に影響は出ないので…

本記事の掲載時点では、新型肺炎がどの程度広がるのか予想が難しいため、影響を論じるのは容易ではありませんが、「世界でも日本でも流行は比較的抑制されたものであり、事態は半年程度で収束する」「政府が倒産防止のための資金繰り支援策を充実させる」と仮定したうえで、新型肺炎の影響を考えてみましょう。

 

中国人の訪日客が激減したことで、「爆買い需要が消えた」「京都がガラガラだ」といった報道がなされています。

 

しかし、外国人が日本国内で使っている金額は全体でGDPの1%程度ですから、中国人の爆買い等は経済に甚大な影響を与えるような規模ではないのです。狭い範囲に集中的に影響が出るので、目立ちやすく、マスコミ報道にのりやすい、ということですね。

 

数万人が参加する予定だった大型イベントの中止や大規模スタジアムの無観客試合等々も、注目度は高いですが、経済全体に占めるウエイトは大きくないでしょう。

 

中国向けの輸出は、一時的には激減するでしょうが、それも半年後に再び増加するということであれば、影響は限定的でしょう。

 

中国製の部品が入荷しないので、日本国内の工場が操業できない、というニュースもありました。しかし、これも影響は小さいでしょう。需要があるなら、在庫を取り崩して需要に応え、後日大増産して払底した在庫を穴埋めすればいいのですから。

 

在庫が売り切れてしまい、客が他社に逃げてしまうのであれば問題ですが、話題となっている自動車などの場合には、「買うべき車種が決まっているので入荷するまで待つ」という客も多いかもしれませんね。

 

むしろ影響が大きいのは、無数の小規模イベントの中止や、1億人以上の日本人が不急不要の用事を自粛するようになったことでしょう。目立たず、ニュースにもなりにくいですが、こちらのほうが圧倒的に大きな打撃だといえます。

 

不要不急の用事の「過度な自粛」の打撃は大きい
「過度な自粛」の打撃は大きい

 

「国民総自粛」のような状況が続けば、行楽関連や外食等々の需要が落ち込み、景気の悪化は不可避でしょう。

 

しかし、過度な自粛が短期間で終わり、新型コロナ自体も半年程度で収束すれば、行楽需要等も元に戻るでしょうから、景気も早期に回復すると期待されます。

すでに政府は「中小企業の資金繰り支援」に乗り出した

問題は、その間に「雇用が失われるのか、守られるのか」ということです。雇用が守られ、給料がもらえているならば、自粛して出費をしなかったぶんだけ、人々の懐具合も暖まっているかもしれません。それならば消費の回復は早いでしょう。

 

しかし、半年間に倒産が激増して失業が増えてしまえば、個人消費が戻らないということにもなりかねません。飲食の需要が復活しても、店が倒産してしまっていたらどうにもなりません。

 

そこで、政府にお願いしたい最大の景気対策は「倒産を防ぐための中小企業の資金繰り支援」です。需要を拡大する政策は困難でも、倒産を防ぐことならば、人の移動を伴わずにできるはずですから。

 

幸い、政府は中小企業の資金繰り支援に迅速に乗り出していますから、大きな懸念はなさそうですが、あとは必要な人に支援策の情報が届き、彼らが支援を要請してくるように、情報の発信を頑張っていただければと思います。

 

中国の経済は短期的に相当なダメージを受けているはずですから、中国の部品メーカーが破産してしまう可能性も懸念されます。そうなると、新型肺炎が収束しても部品が入手できずに国内工場が稼働できない、といったリスクがあるからです。

 

もっともこれについては、日本企業が現地部品メーカーの資金繰りを支援するでしょうし、中国以外の代替部品メーカーを探すでしょうから、大きな影響はないと期待しましょう。

少子高齢化が「景気の波を小さくしている」点に注目

まったく違う観点ですが、高齢化が景気の波を小さくしている、ということも重要だと思われます。

 

高齢者の所得は年金が中心なので、安定しています。従って、高齢者の消費も安定しています。高齢化で消費者に占める高齢者のウエイトが上がっていけば、消費が安定し、景気の落ち込みを和らげる役割を果たしてくれるはずです。

 

高齢者が増えれば、高齢者向けの仕事をしている人も増えるでしょう。彼らの所得も消費も安定しているでしょうから、これも景気を安定させる要因となるはずです。

 

極端な話、現役世代が全員で高齢者の介護をしている経済を考えれば、景気の変動はゼロでしょう。もちろん、これは極端ですが、日本経済が少しずつそうした方向に向かっているのは疑いありませんから、少しずつ日本経済の景気の波が小さくなっているわけです。

 

したがって、従来よりも日本経済の景気の波が小さくなっており、「10年前、20年前に同じことが起きていたら大不況が来ていたはずが、今回はそれほどでもなかった」ということになるかもしれません。そうに考えると、今回の新型肺炎の景気への影響についても、過度な懸念は不要でしょう。

 

今回は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

 

久留米大学教授

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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