時価総額「30億円」の不動産を相続…納税資金が全然足りない

いつの時代もなくならない相続トラブル。特に、相続財産に不動産が含まれる場合、納税の際に大きな問題が発生してしまいます。そこで本記事では、『円満相続をかなえる本』(幻冬舎MC)より、具体的な事例と解決策を紹介します。

「大変なことになる」とは気づいていたものの…

◆相続税の納税資金が足りない!

 

ご依頼人の佐藤さん(仮名)とはそれまで面識がなく、私が日頃取引している銀行からのご紹介で初めてお会いしました。

 

佐藤さんは80代の女性です。このほどお姉さんが亡くなられて、その資産を甥(40代)と姪(30代)とともに相続することになったといいます。その資産は主に、時価総額30億円を超える不動産で、実際にいくらの相続税を納める必要があるのか、また、ご自身で大まかに計算してみたところ、いずれにしろ所持している金融資産だけでは納税資金が足りないことがわかったので、相続後であっても実行可能で最適な納税方法を提案してほしいとのことでした。

 

佐藤さんは以前から漠然と、〝もし、この資産を相続することになったら、相続税を納めるのが大変だろう〟ということは認識していたそうです。しかし、お姉さんは生前、顧問税理士がいたにもかかわらず、相続対策を特に何もしていなかったのです。

 

「大変なことになる」とわかってはいたけど…
「大変なことになる」とわかってはいたけど…

 

今回の相続は、お姉さんが生前書かれた遺言書にもとづいたもので、取引銀行と打ち合わせを重ねて作成されたものであるため、その遺志に背(そむ)くようなことはしたくないといいます。したがって、相続を放棄するわけにもいかず、何としても相続税を納めなければいけません。私はさっそく、相続税の試算にとりかかりました。

 

〈相続税の試算〉

 

相続税を試算するにあたっては、まず、相続する資産について財産評価を行ない、できるだけ早めに大まかな納税額を計算し、納税資金が実際のところ、足りているのか足りていないのかを依頼者に報告します。納税資金の目途を具体的に立てるのはそれからになります。

 

ところで、相続税の納税期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。この佐藤さんのケースもそうでしたが、取引銀行など金融機関(あるいは不動産会社、生命保険会社など)からの紹介で税理士がお客様にお会いするタイミングは、多くの場合、49日の法要が済んだ頃となります。つまり相続が発生してから、少なくとも2か月弱が経過しています。

 

このタイミングで依頼を受けて、期限までにある程度の余裕をもって税務署に申告・納税をしようとするなら、すべての資産を評価するためにとれる時間は、実質1~2か月。不動産の現地調査、役所調査をする時間、評価減が適用できるかなど検討を重ねる時間を考えると、非常に厳しいスケジュールにならざるを得ません。

 

さらに今回のように、相続税の納税資金が足りないという場合、相続した不動産を売却する必要があるのであれば、どの不動産を残して、どの不動産を売却するか、詳細に検討することもしなくてはいけません。あっという間に日が過ぎてしまい、時間があるようでないというのが現実です。

限られたスケジュールのなかどうやって解決するか

このようなタイトなスケジュールのなか、どのようにこの佐藤さんの案件を進めるべきでしょうか。まずは、論点を整理することから始めます。

 

〈佐藤さんのケースにおける論点〉

 

① 相続税の納税資金が足りないことは、おおよそ見当がつくが、実際にどれくらい足りないのか。

② 相続税の納税については、どのような方法をとるか。すなわち、現金で全額を一括して納付するか、分割払い(延納)にするか、相続で取得した財産で納税(物納)するか。

③ 現金で一括して納付する方法を選択したとき、現金をどのように用意するか。すなわち、相続人が所有している金融資産から支払うか、銀行から借入を行なうか、相続した不動産や相続人が所有している不動産を売却して現金を用意するか。

 

次に、これらについて結論を出す(解決する)ためにしなければならないことを明確にします。

 

〈論点を解決するためにすべきこと〉

 

① 相続税の納税資金が足りないことは、おおよそ見当がつくが、実際にどれくらい足りないのか。

・相続財産について財産評価を行ない、相続税額を計算する。

・相続税以外にかかる費用を見積もる(不動産の名義変更、相続税申告に係る税理士報酬、司法書士や弁護士を遺言執行者とした場合の執行報酬など)。

・相続人の納税後の生活費の算定。

 

② 相続税の納税については、どのような方法をとるか。

・まずは、現金で一括納付できる方法を検討する。

・分割納付(延納)や相続財産で納付(物納)する場合は、適用要件を満たすかどうかを確認する。

・物納を選択した場合、どの財産を納めるかを決め、必要な手続きと書類の準備を行なう。

 

③ 現金で一括して納付する方法を選択したとき、現金をどのように用意するか。

・相続した金融資産や相続人が所有する金融資産にて納税することが一番望ましいので、相続財産に預金や有価証券があれば換金する。

・銀行からの借入が必要な場合は、担保や融資条件、金利、返済方法について早い段階で相談する(返済条件にもとづくシミュレーションも実施する必要あり)。

・相続した不動産を売却する場合、利用状況、収支状況、利回りなどを分析してランク付けを行なう。

 

佐藤さんの場合は、お姉さんの生前に相続対策を一切行なっていなかったこともあり、49日の法要を過ぎて相談に来られてからの限られた時間のなかで、多くのことを検討する必要がありました。しかし、そうしたなかでも最優先したのは、佐藤さんにとって、どの方法をとるのが一番有利であるかということです。

 

概して、銀行からお金を借りるにしても、不動産を売却するにしても、納税期限があるというので足元を見られ、決して有利とはいえない条件で進めていかざるを得ないケースも実際にはあります。

 

結果として佐藤さんは、不動産を売却することを選びました。しかし、限られた時間のなかで、しっかりとスケジュールを立て、相続税や不動産の売却に係る税金についてさまざまなシミュレーションを複数回行ない、数字の根拠にもとづいて具体的な筋道を立てられたこと、そして、各専門家がチームを組んで知恵を出し合いながら協力体制をしっかり築いて対応することができたため、幸いにも佐藤さんにとって、非常にいい条件で売却することができ、相続税の納税を無事に済ませることができました。

 

とはいえ、相続対策は、いざ相続が発生してからでは、時間に限りがありますので、できることにも限りがあります。やはり、相続が発生する前から、ある程度余裕をもって対策をすることができれば、あたふたすることはありません。

 

佐藤さんについても、もし、佐藤さんのお姉さんと生前からお付き合いがあれば、相続対策をいくつもご提案しながら、できる限りの節税をすることも可能だったでしょう。特に財産額が大きくなればなるほど、節税できる額は大きくなりますので、早めの相談が相続対策の第一歩ではないかと思います。

 

 

島根 猛/石川 宗徳/森田 努/佐藤 良久/近藤 俊之/幾島 光子

 

税理士

24歳で税理士試験に合格し、27歳で税理士登録。実務経験に加え、専門学校の税理士講座で教鞭を執るほか、生命保険の営業も経験。相続税を究めた税理士として、顧客のニーズに沿った親身なオーダーメイドの相続対策を提案。年間150件以上の相続案件に携わる。

著者紹介

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本記事は、2017年9月22日刊行の書籍『円満相続をかなえる本』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、予めご了承ください。

円満相続をかなえる本

円満相続をかなえる本

石川 宗徳,森田 努,島根 猛,佐藤 良久,近藤 俊之,幾島 光子

幻冬舎メディアコンサルティング

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