悔しい「マスクの高額転売」を野放しにせざるを得ないワケ

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ久留米大学教授の塚崎公義先生が、身近なテーマを読み解きます。第8回は、マスクの高額転売を苦々しく思っても禁止できない事情を解説します。

問題視されている「マスクの高額転売」だが…

新型肺炎の流行が拡大し、日本国内の感染例も増加してきました。そうしたなかで、マスクの売り切れが続発しており、それを見て「マスクを大量に購入して高値で転売して儲けよう」という人が出てきました。

 

困っている他人の足元を見て儲けようというわけですから、腹立たしいことですし、筆者は転売屋になろうとは思っていません。

 

しかし、では「転売屋を禁止しよう」と考えているかといえば、そうではありません。悔しいけれども、転売屋を禁止することはできないのです。

 

経済を見るときは「暖かい心」と「冷たい頭脳」を使う必要がありますが、以下では暖かい心を封印して冷たい頭脳に活躍してもらうことにしましょう。

最悪なのは「本当に困っている人が買えない」状況

100人が暮らす村があり、各自が毎日1枚ずつマスクを買っているとします。店には200枚のマスクが置いてあり、売れた分だけ仕入れますから、平和です。

 

あるとき、疫病が流行し、人々が不安になって「マスクを10枚買い置きしよう」と考えたとします。20人が買った時点で店の在庫がなくなりますから、残りの80人はマスクが買えなくなってしまいます。

 

マスクが買えなかった人は疫病に罹患するリスクに怯えなければいけないので可哀想ですが、なかには持病があって、マスクが絶対に必要な人がいるかもしれません。そうなると、悲惨です。

 

さて、人々が「マスクが10円なら、10枚買い置きしたいけれど、20円ならば、2枚買い置きしたい」と考えているとします。そうなると、10枚買った人々は「20円で転売します」ということになるでしょう。全員が2枚ずつのマスクを手にすることになるわけです。

 

不愉快ではありますが、マスクなしで過ごす不安も消え、持病の人もマスクを入手することができるわけです。

 

「マスク転売禁止令」が出たら、「絶対に必要な人さえもマスクが手に入らない」という最悪の状況が起こり得るわけですが、マスク転売が許されれば、「金さえ出せば、絶対に必要な人はマスクが入手できる」わけですから、これは「改善」といわざるを得ないでしょう。封印していなければ「暖かい心」は悔しがるでしょうが(笑)。

 

転売が許されれば、「金さえ出せば、絶対に必要な人はマスクが入手できる」
「お金さえ出せば、必要な人がマスクが入手できる」状況が大切

「マスク転売」にも押し寄せる、グローバリズムの波

日本国内だけのことを考えても転売屋を禁止するべきでありませんが、経済がグローバル化していることを考えれば、なおさらです。

 

日本人の常識と倫理観からすれば、転売はケシカランことですが、他国の人々もそう考えるとは限りません。仮にA国では人々が転売をケシカランと思っていないとします。

 

そうなると、「転売禁止条約」の締結は不可能ですから、A国の転売屋が日本で大量のマスクを購入してA国で転売することになるでしょう。あるいは、もともとマスクがA国からの輸入品である場合には、マスクが日本に輸入されなくなるでしょう。

 

そうなると、上記ケースでは日本人がマスクを購入することができた(転売禁止の場合でも、日本人が購入できた事には違いない)のに、今度は「日本人が誰もマスクを買えない」といったことも起こりうるわけです。それでは到底、転売禁止法は制定できませんね。

転売屋の出現はやむなし、消費者が賢くなることも大切

10円で購入したマスクを10円でしか転売できないのであれば、だれも転売屋になろうとは思いません。11円でも無理でしょう。それは、転売にはコストがかかるのみならず、リスクもあるからです。

 

新型肺炎が短期間で収束したり、マスク製造メーカーが大増産したりすれば、マスク不足が早期に解消されるかもしれません。そうなれば、転売屋からマスク を買う人はいないでしょう。薬局で普通の値段で買えますし、そもそも予備のマスクを持っている人も多いでしょうから。

 

そうなると、転売屋は大量の不良在庫を抱えることにもなりかねません。そうしたリスクを負って商売をする以上、それに見合った利益の見込みが必要なわけです。

 

したがって、マスクを1000円で売るような暴利は禁止してもいいでしょうが、20円で売る程度の利益は認めてやらないといけないでしょう。

 

転売屋に儲けさせるくらいなら、薬局等がマスクを値上げしてくれればいいのですが、彼らは顧客の評判を大事にするので、彼らが値上げすることは期待薄ですね。騒動が収まったあとに「あの薬局はガメツイ。二度とあそこで買い物したくない」という客が増えてしまうことを心配するでしょうから。

 

ちなみに、1枚1000円で売って暴利を得ている転売屋もいるようです。これは法律で禁止してもいいのでしょうが、買い手が賢くなることも重要です。

 

本来であれば、転売屋同士が競争しているわけですから、買い手が注意深く転売屋たちの価格を比べ、いちばん安いところから買うようにすれば、そうした暴利を狙う転売屋は商売ができないはずなのです。

 

読者におかれては、自分が賢く行動するのみならず、周囲に超高値でマスク を買っている「情報弱者」がいたならば、注意を喚起してやっていただければと思います。久しぶりに「暖かい心」の登場ですね(笑)。

 

今回は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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