「遺言を書いておけばいいんでしょ?」「お金少ないし、子どもたちが何とかしてくれる」…相続のシーンでは、こういった声が多く聞かれます。しかし、安易な生前対策をした結果、骨肉の「争族」が発生してしまう例は後を絶ちません。そこで連載では、税理士法人レディング代表・木下勇人氏の書籍『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版)より一部を抜粋、さまざまな事例をもとに、相続の基礎知識を解説していきます。

「まさか自分に子供が…。」佐久間さんのケース

佐久間さん(62)は、久しぶりの同窓会でかつての悪友から「昔深い仲になった年上の女性が、こっそり君の子供を産んでいるかもしれない」と告げられました。まさかとは思いつつ、思いあたる節があるだけに、佐久間さんは「家族にどう言ったらいいのか」と考え込んでしまうのでした。
 
家族にどう説明したらいいのか
家族にどう説明したらいいのか

 

あなたが男性で、誰にも知られていない子供……つまり「隠し子(非嫡出子)」がいる場合、あなた(父親)が認知しているかどうか、がポイントになります。隠し子に財産を残したいなら、自分が生きているうちに認知するか、遺言に書いて認知しましょう。認知していれば、嫡出子(結婚相手との間に生まれた子)と同等の権利が発生します。

 

財産を残したくない場合は……あなたが認知をしない限り、内縁の妻や愛人との間の子に、相続権はありません。しかし愛人なり内縁の妻なりが「あの人の子供です」と、裁判を起こし、DNA判定などで子供だという事実を勝ち取れば隠し子(非嫡出子)は相続の権利が生じてしまいます。

 

あなたが女性で、内縁の夫との間に隠し子が……というケースでは、認知が関係してくることはありません。母親の場合、出産という事実によって親子関係の確認ができるため、認知は不要です。また、生まれた子は出生届を提出した際に母親の戸籍に入るので、戸籍を追えば子供の存在を隠しきれないからです。

 

【『認知』はどうやってする?】

ドラマの世界ではおなじみの「認知」という言葉ですが、どういうことかイマイチ分からない、という方も多いと思うので改めて解説します。認知とは、結婚していない(婚姻関係にない)男女の間に生まれた子(非嫡出子)に対して、法律上の「父」を設定する行為です。

 

認知する方法は、任意認知、遺言認知、裁判認知があります。いずれも、市区町村役場に「認知届」を提出することで効力が生じます。

 

・任意認知

父が認知届を提出して認知する方法です。期限は特に決まっていません。子供が胎児でも認知できます。

 

・遺言認知

遺言に書いて認知する方法です。遺言執行者が就任後10日以内に認知届を提出します。生前に父親が認知届を書いておいて、死後に誰かに提出を託す、ということはできません。

 

・裁判認知

裁判で認知を確定します。裁判の確定日から10日以内に、訴提起者が認知届を提出します。

 

【非嫡出子でも権利は同等】

以前の民法では、正妻の子ではない「非嫡出子」の法定相続分は嫡出子の1/2、とされていましたが、この規定は平成25年最高裁により違法と判断され、嫡出子も非嫡出子も権利は同じになりました(平成25年9月5日以後に開始した相続について適用)。

 

【「戸籍の提出」はマスト】

戸籍は、日本人の国籍に関する事項と、親族的な身分関係を登録・公証する公文書です。戸籍謄本(こせきとうほん)、戸籍抄本(こせきしょうほん)、どちらも戸籍原本の写しですが、記載内容が違います。

 

・戸籍謄本(全部事項証明)……戸籍原本のすべての写し。その戸籍に掲載されているすべての人の情報を記載。

 

・戸籍抄本(個人事項証明)……戸籍原本の一部のみの写し。その戸籍に掲載されている一部の人の情報のみを記載(2人以上記載があるうちの1人分など)。

 

【戸籍謄本の提出が求められるとき】

相続の手続きでは、次のようなときに戸籍謄本の提出が求められます。

 

預貯金や証券口座の名義変更、相続税の申告、不動産の相続登記、相続放棄または限定承認など。

 

【被相続人の戸籍をさかのぼる】

遺言がない場合、相続人は被相続人が生まれてから死ぬまですべての戸籍謄本を取る必要があります。死亡時だけでなく、出生から死亡までの戸籍が必要なのは、隠れた相続人がいないかを確認するためです。

 

戸籍は、まず被相続人の最後の戸籍をとり、そこから順次さかのぼっていきます。遠方の役所は郵送で申請することになります。申請方法は、請求先の役所のホームページで確認しましょう。

 

悲しみに暮れる中、出生から死亡まで、すべての戸籍をつなげるのは大変な作業です。司法書士や行政書士などプロに頼むこともできます。

 

 

木下 勇人

税理士法人レディング 代表

 

ホントは怖い 相続の話

ホントは怖い 相続の話

木下 勇人

ぱる出版

「知らなかった」では済まされない! ×遺言書を書いておけば大丈夫 ×財産が少ないから財産目録はいらない ×成年後見人を付ければ安心 ……これらはすべて間違い! 3000件の遺産相続に関わった相続専門税理士が教え…

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