高齢者の「家賃滞納」問題。法律に基づき退去させることも可能だが、財産の少ない高齢者への強制執行に、苦しむオーナーも少なくない。そこで本連載では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より、高齢者の賃貸トラブルの実例を挙げ、その実態に迫っていく。

「年金」と「生活保護費」のみでどう生き抜くか…

ここ数カ月寝込みがちだった聡さんの最期は、脳梗塞でした。

 

裁判中に被告が死亡すると、その被告の地位は手続きをとって相続人が承継することになります。ただこの段階で幸代さんを被告としたところで、強制執行は不能に終わるかもしれません。何とか次の転居先を見つけて任意に退去してもらうのがいちばんです。

 

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「一緒に役所に相談に行きましょう」

 

幸代さんは、初めてこちらの提案を黙って聞いてくれました。

 

「息子をサポートしてくれるNPOの担当者がいるんです。その方が協力してくれるかもしれません……」

 

聡さんが亡くなって、とても心細そうでした。それも当然かもしれません。残された幸代さんは、精神疾患の長男と次男を抱えているのです。しかも収入源は、公的な年金と子ども達の生活保護費のみ。親族で頼れる方もいません。

 

私は精神疾患を抱える人たちをサポートする、NPOの担当者の連絡先を聞き、直接連絡することにしました。

 

「加山さんからお聞きしています」

 

電話口の新井さんは、物腰の柔らかな、一瞬で人を和ませるそんな雰囲気が受話器から伝わってきました。

 

新井さんは加山さんの息子さん二人を、自立できるようにサポートしているとのこと。繋がりのある不動産会社に、新しい部屋を探す手配まですでにされていました。

 

幸代さんの僅かな遺族年金と、息子さんの生活保護費。これで賄える物件を探していかねばなりません。しかも連帯保証人は探せないでしょう。

 

「私のことを信用してくれている社長なら、貸してくれるかもしれません」

 

その言葉を頼りに、お願いするしかありません。ただ出せる家賃からも、かなり狭い部屋になりそうです。70歳を超えて、なかなか自分から引っ越し作業はできません。相当な量の物も、処分しなければならないでしょう。

 

付き合いのある業者さんに、幸代さん宅の片付けサポートもお願いしました。裁判所には事情を説明し、当面手続きの進行を待ってもらうこともできました。こうして私たちの加山家転居プロジェクトが始まったのです。

 

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