簡単なはずの「白内障手術」で、医者が手を焼く患者の共通点

年齢を重ねれば、老眼や白内障なども始まり、視力の衰えをよりいっそう感じることでしょう。「年だから仕方がないか…」と、納得してしまいそうになりますが、思わぬ病気を発症している可能性に、気づいているでしょうか。本連載では、はんがい眼科・板谷正紀院長の書籍『「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋して、眼病の知識をわかりやすく解説します。

手術の難易度が激上がりするのはどのようなケースか

あっ、このパターン…
あっ、このパターン…

 

◆ハイリスク白内障は水晶体とその周囲の構造に問題がある

 

白内障手術は、年間1000万件以上も行われている超メジャーな手術ですが、水晶体を包んでいる「ふくろ」がやぶれてしまうと、一気に難易度が高くなります(ハイリスク白内障)。

 

ハイリスク白内障では、水晶体の中身である核が硬すぎる、水晶体の中身が破裂しそうに膨化している、水晶体を固定している線維が切れている、水晶体の前の角膜との間のスペースが狭い、水晶体の前にある虹彩がふにゃふにゃに弱いなど、水晶体とその周囲の構造に問題が潜んでいます。

 

それぞれの問題を把握し、問題に応じて用いる器具、白内障手術装置の設定、粘弾性物質の準備をしておけば安全に手術を行うことができるのです。

 

ハイリスク白内障① チン小帯が断裂している

 

ハイリスク白内障の中でもっとも多く見られるのが水晶体を固定しているチン小帯と呼ばれる線維組織が弱くなったり部分的に切れている症例です。

 

[図表1]チン小帯が断裂している
[図表1]チン小帯が断裂している

 

水晶体を丸く取り囲んでいるチン小帯が半分以上(180度以上)切れてしまっている場合は、標準的な白内障の手順で手術をおこなって水晶体をつつんでいる「ふくろ」を温存することが難しいのです。

 

我々は、わずかな可能性に賭けて「ふくろ」を温存します。そのために通常は行わない特殊なテクニックを駆使します。

 

水晶体前嚢切開(CCC)の切開面に4カ所フックをかけて水晶体の「ふくろ」を固定します。そして、「ふくろ」が超音波乳化吸引用のプローブに吸い込まれないように、高分子のヒアルロン酸を、吸引除去した水晶体の代わりに注入し、常に「ふくろ」がぱんぱんにふくらんでいる状態で手術を行います。そして、「ふくろ」を破らずに温存できて、チン小帯の切れている範囲が狭ければ、「ふくろ」の中に眼内レンズを挿入します。

 

残念ながらチン小帯の切れている範囲が広ければ、そのまま眼内レンズを挿入すると傾いてしまったり、眼底に落ちてしまうリスクがあるため、「ふくろ」の中に挿入するのを諦めて、眼内レンズを特殊な方法で固定します。

 

眼内レンズ固定用のループ(足)を強膜という眼球の中でもっとも丈夫な壁に差し込んで固定する(強膜内固定術)をおこなうか、糸で縫って固定する(眼内レンズ縫着術)という方法をとります。この手術を行うには、硝子体がからまないように十分に切除する必要があり、硝子体手術の素養があるほうが安全です。

 

ハイリスク白内障② 目の中に小麦粉のような白い粉がふく

 

瞳孔や水晶体に白い粉が沈着してくる状態を「落屑症候群」といい、チン小帯が弱くなる代表的な病気です。この病気だけ特記するのは、単にチン小帯が弱くて白内障手術が難しいだけではなく、進行の速い緑内障にもなりやすい人がいるなど苦労が多いからです。

 

[図表2]落屑症候群

 

目の中にふいてくる小麦粉のような物質は落屑とも偽落屑とも呼ばれますが、これが水晶体の表面や瞳孔のふち、線維柱帯や水晶体を支えるチン小帯に付着します。そもそもこれがあると白内障になりやすいというデータもありますが、最も困るのは、水晶体を固定しているチン小帯が弱くなり、チン小帯断裂がおこりやすいことです。

 

落屑症候群で、水晶体の前のスペースである前房が浅いと、チン小帯断裂の可能性が高く、一気に難度が高まります。

 

対処法としては「ハイリスク白内障① チン小帯が断裂している」場合とほぼ同じですが、放置したりした場合、眼内レンズを入れることができないほど重症になることもありますから、早めの手術をお勧めします。

 

チン小帯に極力負担をかけないように手術をして眼内レンズを無事「ふくろ」の中に挿入できたとしても、何年か先にチン小帯断裂が徐々に広がり、眼内レンズが眼底に落ちてしまって、急に見えなくなることがあります。このような場合は、硝子体手術で落下した眼内レンズを安全に取り出して、強膜内固定術か眼内レンズ縫着術で眼内レンズを固定しなおします。

 

最も苦労するのが緑内障を併発している落屑症候群です。「落屑緑内障」といいます。落屑緑内障の特徴は、「視野障害の進行が速い」「眼圧の変動が激しく、時に(特に冬場)発作的に眼圧が急上昇することがある」「片眼性の場合は気がつかず末期で発見されることがある」などです。

 

ここで問題が起こります。眼内レンズを水晶体の「ふくろ」に固定できなかったとき、強膜内固定術か眼内レンズ縫着術が必要になりますが、これら手術は白目の結膜を広く切ることが多いのです。ところが、結膜を切りますと緑内障の手術が効きにくくなるという欠点があります。

 

ハイリスク白内障③ 角膜と水晶体の間にある空間が浅くなっている(浅前房)

 

高齢の患者さんによく見られる難症例で、もともと若い頃はメガネいらずで過ごせた正視または遠視の方に起こりやすいものです。

 

正視または遠視の方は、目の作りが小さく、角膜と水晶体の間にある空間(前房)もやや狭いのです。だれでも加齢とともに徐々に水晶体が大きくなって前にでてくるものですが、もともと前房のつくりが小さい方は、極端に浅く(狭く)なってしまうのです。前房が極端に狭いと、その後の前囊切開や水晶体乳化吸引という手術の手順がスムーズに行えなくなるので、これもハイリスク白内障に分類されます。

 

さらなる理由は、前房が狭いと角膜内皮という弱い部位が水晶体に近いため、角膜内皮のダメージが大きくなりやすいのです。角膜内皮のダメージが大きいと角膜が白く濁って角膜移植が必要になることもあります。

 

この場合はチン小帯が弱い場合と同様、通常のヒアルロン酸より粘度の高い(高分子)ものを使います。この粘度の高いヒアルロン酸が、前にでようとする水晶体の力を抑えてくれるので、角膜と水晶体の間に前房という空間をしっかりつくってくれ、安全に手術ができるのです。

 

ハイリスク白内障④ 水晶体が急激に膨化

 

この症例は白内障が急激に進行し、水晶体がふくらんで「ふくろ」がパンパンになっている症例です。

 

水晶体の「ふくろ」の中の圧が高まっていて、そのまま前囊切開をおこなうと勢いよく水晶体の中身が出てきて切開を押し広げ「ふくろ」が裂けてしまいます。下手をすると、水晶体の「ふくろ」の底まで裂け、水晶体核が眼底に落ちます(=水晶体落下)。小さな前囊切開(CCC)をして開いた小さな孔から「ふくろ」の中身を少し吸い出して内圧を抜き、それからもう一度標準サイズの前囊切開(CCC)を行います。あとは標準的な手術になります。

 

膨化した水晶体核は、水晶体に細かな水疱が浮かんでいるなど術前の診察である程度わかります。

アトピーがある人も「白内障手術」で注意が必要

ハイリスク白内障⑤ 放置して水晶体核が硬化

 

白内障を長期間放置すると水晶体の核が硬くなっていきます。

 

水晶体核のにごりは5段階に分けられます。グレード4と5は核が相当硬く、グレード3までに手術を行う方が安全に手術ができます。にごりだけではなく高齢になるほど核が硬い傾向があります。

 

水晶体の核がかちかちになっていると、簡単には割れない、高いパワーの超音波を使う必要があり、乳化吸引に時間がかかる状況になります。なかには核の底がにかわのように強靱な硬さになっていて、通常通りの手技では「ふくろ」を破るリスクが高まります。

 

長時間高いパワーの超音波を使うと角膜内皮細胞がたくさん減ってしまうリスクもでてきます。白内障手術の技術の差が結果の違いを生みやすい症例です。

 

グレード5で超音波乳化吸引の負担が大きいと予想される場合は、超音波乳化吸引をあきらめ、9㎜程度の大きな強角膜切開を行って、そこから水晶体核を丸ごと取り出す方法があります。私が研修医の頃まで主流であった水晶体囊外摘出術という方法です。

 

この方法は、切開が大きいことと、多くの縫合を要するため術後の乱視が強く出ることや、角膜内皮細胞が減りやすい、創口が弱く回復に時間がかかるなどの問題があり、超音波乳化吸引術に取って代わられたわけですが、難症例にだけ行われています。

 

われわれは、乱視を少なくし、角膜内皮細胞へのダメージを減らすため、強膜をフラウン切開という方法で切開して、核を2本の鑷子(せっし)ではさみこんでとりだす小切開水晶体囊外摘出術を用いています。

 

超音波乳化吸引術を選んだ場合は、まず確実に核を底まで割ることが決め手になります。底ににかわのような強靱な部分が割れなくてつながっていても、そこも工夫をして割ることです。割れれば、あとは適切な超音波パワーと吸引圧を設定して、超音波を可能な限り角膜内皮に当てないようにして、焦らず確実に乳化吸引していきます。術者の精神力も問われます。

 

ハイリスク白内障⑥ 前立腺の薬による虹彩の脆弱化

 

これは薬による副作用で白内障の手術が難しくなる症例です。

 

その薬とは、前立腺肥大の薬(ハルナール、ユリーフ、フリバス、バソメット、エブランチル、ミニプレスなど)のことです。これらの薬を長期間内服していると、水晶体の前にある虹彩が脆弱になってしまうことがあります。これを術中虹彩緊張低下症候群(IFIS<アイフィス>)といいます。

 

この問題があると手術中に虹彩(いわゆる茶目)がふにゃふにゃになり、「手術中の水流によってうねったり動いたりする」「急に縮瞳(瞳孔が小さくなる)する」「虹彩が手術の切開創に挟まり込む」など、思った以上に難しい手術になってしまいます。

 

手術前にこれらの薬を飲むのをやめても、すぐにIFISの症状がなくなるわけではないので、手術前に服用をやめてもらうことはありませんが、これらの薬を服用されているかたは主治医に申し出ていただくことが大切です。

 

術前にわかっていれば、これも高分子のヒアルロン酸をつかうことで、虹彩の動きを抑えることができます。そうすれば吸引の際に虹彩まで吸い込まれて、虹彩が破れたり、「ふくろ」がやぶれるような事態を避けることができます。

 

ハイリスク白内障⑦ アトピー性白内障

 

併発性白内障に分類されるアトピー性白内障ですが、網膜剝離など他の目の病気を併発している場合も少なくなく、ハイリスク白内障といえます。白内障の手術で前囊切開(CCC)というふくろの前の部分(前囊)を丸く切り取る操作がありますが、アトピーの方は、この部分に硬い線維性のにごりが生じやすく、前囊切開が難しくなります。

 

また、手術後に水晶体のふくろの収縮が強く起こり、眼内レンズの位置がずれることもあります。できるだけ真ん中に丸い前囊切開を行うことでずれを軽減します。また若い人に発症することがあるのもアトピー性白内障の特徴です。

 

以前私が手術をした23歳の男性の症例です。子どものときからアトピーと診断されており、ステロイドも長年使っていました。20歳ぐらいから徐々に視野に霞がかかるようになってきたので、眼科の診察を受けたら白内障と診断されました。事前の検査で網膜剝離の疑いもあるとのことで、私がいた大学病院に紹介されてきたのです。検査の結果、網膜剝離が確認されたので、白内障手術だけでなく、網膜剝離の手術もうけることになりました。

 

ハイリスク白内障⑧ ほかの目の病気を併発してる

 

視力を失うリスクが高いのは、緑内障や網膜剝離、加齢黄斑変性など眼底などの病気を併発している場合です。白内障の陰に潜む眼底の失明につながりかねない病気を見逃さないこともビジョンを守るためには必須なのです。

 

 

板谷正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

 

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載眼科院長が教える!ライフスタイルに合わせた「白内障手術」ガイド

「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術

「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術

板谷 正紀

幻冬舎

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