
事故で意識が戻らなくなった妹を見捨てようとする妹の家族。妹を守るために父からの相続財産を多く渡すと、妹の死後、妹を見捨てた親族に実家の財産がわたることに…。防ぐ方法はあるのでしょうか?※本記事は、株式会社トータルエージェントが運営するウェブサイト「不動産・相続お悩み相談室」から抜粋・再編集したものです。
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裕福な家庭で育った、仲のいい姉妹
横浜在住の専業主婦・Aさんには、Bさんというとても仲のいい妹がいます。二人の父親は横浜で輸入品販売会社を経営しており、二人は裕福な家庭環境で成長しました。姉妹は大学を卒業後、数年間の会社勤めを経てそれぞれ結婚しました。
Aさんは子どもに恵まれなかったのですが、Bさんは3人の子どもに恵まれました。とはいえ、いずれの家庭も円満で、お互いによく行き来していました。
Bさん一家は旅行好きで、しばしば国内外の旅行に出かけていました。
「冬休みは伊豆に行くの!」
「いいわね、行ってらっしゃい」
旅行の数日前に、弾むような声で電話をかけてきた妹と、Aさんはひとしきり楽しくおしゃべりしました。
「お姉ちゃん、お土産買ってくるからね!」
「ありがとう、気をつけてね」
旅行先で起こった不幸な事故
Bさんの夫から電話がかかってきたのは、帰宅予定と聞いていた日の前日でした。
「お姉さん、大変なんです。Bが交通事故に遭って、いま入院しています」
「……えっ!?」
詳しく話を聞くと、ホテルを出て街に買い物へ出かけるとき、わき見運転の車にはねられたというのです。
「みんなは?」
「事故に遭ったのはBだけです」
「容体は?」
「いま、集中治療室にいます。状況はまだわかりませんが、かなり深刻です」
「そんな……」
Bさんは旅行先近くの総合病院に3週間入院したあと、容体が落ち着ついたため、横浜の病院に搬送されました。しかし、家族や親族の期待はむなしく、Bさんの意識が戻ることは絶望的でした。頭を強打し、脳に損傷を受けたのです。
Aさんは足しげく病院に通い、目を覚まさない妹を見舞いました。高齢の父親は介護認定を受けて有料ホームに入所しており、数年前に母親を亡くしてからめっきり弱ってしまっています。Aさんは父親に妹の現況を伝えるのは忍びなく、詳しい話ができないままでした。
事故から半年近くたつと、Bさんの夫と子どもたちは次第に病院から足が遠のくようになりました。仕事も忙しいだろうし、子どもたちも勉強や部活があるだろうから…と、あまり気にしないようにしていたAさんですが、ある日、Bさんの夫から、折り入って話があるとの電話がありました。

「申し訳ありません。僕は妻と離婚したいんです」
「お姉さん、こんばんは。遅くに失礼します」
「Cさん。お仕事帰りに寄っていただいて、すみませんね」
Aさんは妹の夫であるCさんを、自宅のリビングに通しました。
「Bちゃんのこと、本当に心配よね。とても仲良しの家族だから、みんなどんなにかつらいだろうと思って…」
「ええ…」
「でも私、奇跡を信じてる。毎週お見舞いに行っているけど、顔色もいいし、きっと目を開けてくれる日が来ると思うの」
「…………」
Aさんは黙り込んだCさんの表情から、不穏なものを感じました。
「折り入ってお話って何かしら? 入院費なら心配しないで、父が…」
「お姉さん、申し訳ありません。僕はBと離婚したいんです」
「…え?」
「目の覚めないBを抱えながら、これからの人生を生きるのがつらいんです。子どもたちもどんどん成長します。現実が押し寄せてくるんです。子どもたちを守るためにも、僕はこれ以上Bを支えられません…」
「ちょっと待って」
「すみません、今日はこれだけお伝えに来ました。また改めてお伺いします」
言葉を失うAさんを残し、Cさんは逃げるように帰っていきました。
妹を見捨てた「妹の家族」を許せない
その後、Aさんは何度もCさんと話し合いを持とうとしましたが、実現しませんでした。Cさんの気持ちは、確実に離婚に向かっているようでした。
Aさんは当初、妹の家庭を守らなければと思い、Cさんに離婚を思いとどまるよう働きかけてきましたが、妹を心配するそぶりも見せないCさんとその子どもたちに、次第に怒りを覚えるようになりました。
「かわいそうな妹を、簡単に見捨てようとするなんて…!」
そのとき、ふと思い浮かんだのは父親の顔でした。AさんとBさんの父親は事業を成功させた資産家ですが、すでに高齢であり、そう遠くない将来、相続の発生が予想されます。当然、寝たきりのBさんにも財産がわたることになりますが、もしBさんが亡くなれば、その財産は子どもたちに受け継がれることになります。
「妹を見捨てた子どもたちに、絶対そんなことはさせたくない…」
Aさんは弁護士のもとを訪れました。
目を覚まさない妹と、老父の財産を守るには?
「先生、意識不明の妹に、相続放棄させたいのです」
「それは…。一体どんなご事情がおありでしょうか?」
Aさんは泣きながら、妹の置かれた状況と自分の心のうちを弁護士に訴えました。
「なるほど…。それはおつらいですね」
弁護士はAさんをいたわるように言葉をかけました。
「妹は私が一生守ります。私たちの父親には十分な財産がありますし、妹の治療費についてはなにも問題ありません。私だって本当は、自分に万一のことがあった場合を考えて妹に財産を多く持たせておきたいのです。でも、もし妹になにかあれば、財産は妹を見捨てた子どもたちにわたってしまう…」
「なるほど。お気持ちはわかりました。しかし、妹さんは意思疎通ができる状態ではないため、相続放棄をしてもらうことはできません。このような状況で相続が発生した場合は、妹さんに成年後見人がついて、妹さんの権利と財産が守られるように相続手続を進めることになります。相続放棄は妹さんの利益を損なうことになりますから、一般的には、後見人が相続放棄を行うことは難しいでしょう」
「では、いずれはあの子どもたちにも財産が行ってしまうのでしょうか?」
「それを防ぐには、お父様に遺言書を書いていただくほかありません。失礼ですが、お父様に、深刻な病気や認知症の兆候はないでしょうか?」
「数年前に母を亡くしてから一気に年を取りましたが、まだそこまでは…」
「では、一刻も早く公正証書遺言を作成いただきましょう。お父さまが意思の疎通が図れない状態になったり、亡くなったりすると、Aさんのお考えを実現することはできません」
「はい、わかりました」
Aさんは弁護士にアドバイスされたとおり、公証人役場に向かいました。
公正証書遺言はもちろん、家族信託の検討も視野に
Aさんの妹さんの子どもたちに、父親の財産が多く渡らないようにするためには、父親に公正証書遺言を作成してもらうことが重要です。
ただし、法定相続人には「遺留分」といって、相続人の生活を保障するための最低限の財産が相続できる権利が保障されており、法定相続分の半分がそれに該当します。今回の事例では、相続人はAさんとBさんの2人であるため、基本は父親の資産を半分ずつ相続することになりますが、妹さんの相続分を最低限にするには、遺言書の内容について相続分を1/4にとどめたものにする必要があるでしょう。
また、場合によってはAさんの父親とAさんの配偶者を養子縁組して相続人を増やし、Bさんの相続割合を減らす方法もあります。しかし、万一人間関係が破綻したりすると、問題が複雑化する可能性があるため、先々までを見据えたうえでの慎重な検討が求められます。
また、今回はAさんがBさんの面倒を見るという決意をされていますが、Aさんに万一のことがあっても心配がないように、Bさんのために家族信託を活用して財産管理する方法もあります。
どのように妹さんの生活を守るかは、今後を考えてよく計画を立てなければならないため、弁護士等の専門家に相談するとよいでしょう。
※守秘義務の件計上、実際の事例から変更している部分があります。
山村 暢彦 弁護士
弁護士法人横浜パートナー法律事務所
髙木 優一
株式会社トータルエージェント 代表取締役社長
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