
いまや日帰りで受けられる白内障手術。身体的な負担がほぼなく、きわめて安全かつ確実な手術方法が確立されており、デスクワークであれば手術の翌日から仕事復帰が可能です。しかし傷口が治るまでは油断できません。快適な見え方を確立させるために気を付けたいポイントを紹介。本連載では、年間1500件もの白内障手術を手掛ける、アイケアクリニック院長の佐藤香氏が、白内障治療に関する疑問を、Q&A方式でわかりやすく解説します。
手術後、最も注意すべき感染症…生活上のポイント
Q:手術後、感染の可能性があると聞きましたが、感染を防ぐにはどんなことに気を付けたらよいでしょう?
A:白内障の手術後で最も気をつけなければならないのは、眼内に菌などが侵入して起こる感染症を防ぐことです。
白内障手術は、技術的進歩によって切開部が2mm前後と極小となり(極小切開白内障手術)、縫合の必要もないので、日帰りでも安心して受けられるようになりました。そのため手術の翌日から仕事に復帰することも可能ですが、だからといって、完全に同じ日常を送ってよいというわけではありません。洗顔、入浴、洗髪など、日を追って、守っていただきたい生活上の制限がいくつかあります。
●洗顔
術後5日目までは洗顔を行わず、タオルで拭く程度にとどめてください。
●入浴
シャワーは手術翌日から可能です。ただし、水道水には多くの雑菌が入っています。術後5日目までは絶対に顔に水がかからないよう注意しましょう。洗髪は手術後1週間は控えてください。気になるようであれば、ドライシャンプーを使うようにしましょう。また、美容院での洗髪は可能です。
●化粧
アイメイクは手術後1週間後から可能です。それ以外のメイクは、水道水で洗顔をすることがなければ(=拭き取りタイプのメイク落としを使用するなら)2日目から可能です。
●目の保護のためにすべきこと
1:細菌感染や出血を防ぐために、目をこすったりぶつけたりしないよう注意しましょう。
2:手術後1週間程度は、なるべく目をこすらずにすむよう、保護メガネをかけていただきます。目にホコリやゴミが入ることを防ぎ、手でうっかり患部を触るようなことも避けられます。
睡眠中は、無意識に目をこすったりしやすいものです。そのため、就寝時は、簡易的な眼帯もしくは保護メガネをつけていただきます。日中と同じく術後1週間は使用していただく必要があります。
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手術後、翌日からはどんどん目を使うべし
Q:手術後はテレビやパソコンを見るのは控えたほうがよいのでしょうか?
A:手術の当日は目があまりよく見えないので、安静に過ごしていただきたいですが、翌日からはむしろ、どんどん目を使うようにしてください。
目は「今までの見え方」に慣れてしまっています。新しい見え方に慣れていくという意味でも、目は使ったほうがよいのです。また、大事なのは「自分は目がよく見えるようになった」と信じることです。
これまで多くの患者さんを診てきましたが、素直に「よく見えるようになりました」とおっしゃる患者さんのほうが、「こんな手術で、本当によく見えるようになるのでしょうか?」と疑いを持っている患者さんよりも、視力が早く戻っているという実感があります。
運転、旅行、スポーツ…手術後、いつから始めていい?
Q:車を運転したいのですが、手術後いつから始めてもよいでしょうか?
A:運転については「手術後●●日以上が経ってから」というような基準はありません。運転免許の取得基準に「両目で0.7以上の視力があること」というものがありますが、その基準を満たしていれば、翌日からでも再開することができます。
手術翌日の検診結果を見て、医師に「もう運転してもいいですか?」と尋ねてみるといいでしょう。ただし、ご自分で「本当に大丈夫かな?」と不安を感じているうちは控えるようにして、「もう大丈夫!」と思えるようになってから再開するようにしてください。
Q:手術後、旅行はいつからしてもよいでしょうか?
A:温泉旅行など、目に水が入るような場所への旅行は、手術後1ヵ月くらい経って、完全に傷口がふさがるまでは控えるようにしてください。
ハイキングや登山など、運動量の多い旅行も同様です。目に水が入ることのない、一般的な観光旅行でしたら、手術後1週間を目安にするとよいでしょう。
当院には遠方から手術を受けに来られ、翌日帰宅される患者さんも大勢いらっしゃいます。その方たちのように「移動のためだけ」に新幹線や飛行機に乗るのであれば、翌日からでも大丈夫です。
Q:手術後、ジョギングはいつからしてもよいのでしょうか?
A:手術後2週間が目安になります。ただし、手術後の炎症などの状態によるので、定期検診で必ず医師に「ジョギングを始めてもよいですか?」と尋ねて、許可を取ってから再開するようにしてください。
眼内レンズがズレたり壊れたりすることは滅多にない
Q:手術後に眼内レンズがズレたり壊れたりすることはありますか?
A:白内障手術で挿入した眼内レンズが、ズレたり壊れたりすることは滅多にありません。ですが、ごくまれに、なんらかの原因で眼内レンズが入っている水晶体のふくろが破れてしまったり、あるいはふくろを支えているチン小帯がゆるんで切れてしまったりするようなケースは考えられます。その場合、眼内レンズがズレる、目の奥へ落下してしまうということがあります。
また、アトピー性皮膚炎の方は目のかゆみを抑えるために強くこすったりすることで、衝撃が積み重なった結果、チン小帯が緩んで断裂してしまうことがあります。そのほか外傷などで強い衝撃が加わることにより、水晶体のふくろが破れ、眼内レンズが目の奥の硝子体へ落下してしまうこともあります。
このような状態になると、まず見え方に変化が生じます。白内障手術で見え方が良好になったのに、急に見えづらくなって異常を感じる場合が多いようです。こうした異変を感じたら、ためらわずに手術を受けた眼科を受診するようにしてください。

(※写真はイメージです/PIXTA)
手術後、白内障が再発することはある?
Q:手術後、白内障が再発することはありますか?
A:眼内レンズが濁るという意味での白内障の再発はありません。ただし、眼内レンズを包む嚢(のう)が濁って生じる「後発白内障」になる可能性はあります。簡単に治療できますので、心配になったら眼科を受診するとよいでしょう。
Q:プールや温泉にはいつから入れるでしょうか?
A:プールや温泉は「雑菌だらけ」と言っても過言ではありません。手術後1ヵ月程度は避けるようにしてください。
Q:手術後、飛行機に乗っても大丈夫でしょうか?
A:問題ありません。当院には遠方から飛行機に乗って手術を受けに来られ、翌日にまた飛行機に乗って帰られる患者さんが大勢いらっしゃいます。これまでそうした方たちにトラブルが起こったことはありませんのでご安心ください。
アイケアクリニック 院長
アイケアクリニック銀座院 院長