
かつて、白内障手術は入院必須の大掛かりなものでした。しかし今では日帰りで行える手術となり、両目を同時に行っても10分で終わるようになりました。仕事を休めない多忙な人でも受けられる、スピーディかつ安全な手術となっています。本連載では、年間1500件もの白内障手術を手掛ける、アイケアクリニック院長の佐藤香氏が、白内障治療に関する疑問を、Q&A方式でわかりやすく解説します。
「昔に入れた単焦点眼内レンズ」を多焦点に変える技術
Q:何年も前に、単焦点眼内レンズを入れたのですが、あとから多焦点眼内レンズを入れることは可能ですか?
A:「アドオンレンズ」として、今ある単焦点眼内レンズの上から新しい多焦点眼内レンズを挿入することで可能になります。
まだ単焦点眼内レンズしかなかったころに白内障手術を受けた方もたくさんいらっしゃいますし、「眼科で多焦点眼内レンズの説明を十分に受けないまま、単焦点眼内レンズを選んでしまった」という方、「単焦点眼内レンズの見え方に満足できない」という方などもいらっしゃいます。特に近年、多焦点眼内レンズへの入れ替えのニーズが高まっていると感じます。
アドオンレンズは、先に白内障手術で挿入したレンズの上に重ねて挿入することができる特殊な眼内レンズです。レンズを追加することで屈折や乱視を矯正できるため、「すでに入っている単焦点眼内レンズを多焦点眼内レンズにしたい」「白内障手術を受けたが、裸眼での見え方を改善したい」などのニーズに対応して使用されます。
手術時間は3~4分程度ですし、術後の回復までにかかる時間が短く、リスクが少なく安全な手術であるところも安心なポイントです。

デスクワークなら手術の翌日から出勤可能
続いて、白内障手術後のケアや、生活するうえでの注意点を解説します。手術後の不安を払しょくし、安心して手術にのぞめるようにしましょう。
Q:普段働いているのですが、手術後はどれくらいで仕事に戻れますか?
A:お仕事の内容にもよりますが、デスクワークの方であれば、基本的には手術の翌日から出勤しても大丈夫です。
屋外でハードな作業が必要な仕事などの場合は、2週間ぐらいは安静が必要なため、職場の方とスケジュールについてよく相談しておくことをおすすめします。また、仕事で重いものを持つと傷口が開いてしまう場合があります。仕事で重いものを持つ場合は、そのことも主治医に伝えておきましょう。
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両目同時に手術をしても、術後10分で帰宅可能
Q:手術後の流れを教えてください。
A:手術そのものは5~10分で済み、準備時間を含めても30分程度で終了します。リカバリー室で10分ほどクールダウンしたあとは、眼帯をつけてご自宅に帰ることができます。
最近は両目同時手術を受ける方も増えました。その場合も片目の手術と同じように、手術後10分ほどで帰宅できます。両目同時に手術をした場合、眼帯ではなく保護メガネをかけて帰宅していただきます。
●当日の過ごし方
手術直後は瞳孔が広がった状態なので、あまり鮮明な見え方ではありませんが、手術終了から4~5時間で元の状態に戻りますのでご安心ください。両目同時に手術をしたからといって「その日は目が見えない」ということはありませんし、体への負担が増えることもありません。
●手術の翌日
手術の翌日は、術後の経過観察のために来院していただく必要があります。片目のみ手術した方は、翌日の診察後から眼帯を外していただきます。お仕事が忙しい方は手術当日だけ勤務を休み、翌日は診察を受けてからそのまま出社するということも可能です。
●手術の翌々日以降
手術の翌日から3~6日後に経過観察の検査を受けていただきますが、これは、手術をした病院ではなく、勤務先の近くなど、最寄りの病院・クリニックで受けていただいてもかまいません。
なるべく安静に過ごすのが望ましいですが、デスクワークならお仕事への復帰も問題なく可能です。
ただし、屋外でハードな作業が必要な仕事などの場合は、手術前に主治医に相談して決めておくことをおすすめします。
●重いものを持たないように注意する
重いものを持つと目に力が入るため、傷口が開いてしまう可能性があります。ついうっかり、宅配などの重い荷物を玄関先で受け取ってしまうことがあるかもしれません。特に水やビールなど、飲料は重量がありますから注意しましょう。手術から1週間以内は、重いものを持たないようにしてください。
術後は定期検診が必要
Q:手術後、通院はどれくらい必要なのでしょう?
A:当院では、術後の経過観察のために、
1回目:手術の翌日
2回目:前回の検診から3~4日後(やや回復が遅い方や高齢の方が対象)
2~3回目:前回の検診から1週間後
3~4回目:前回の検診から2、3週間後
4~5回目:前回の検診から1ヵ月後
6~7回目:前回の検診から2ヵ月後
というスケジュールで検診に来ていただきます。特に手術翌日の来院は重要です。術後の経過を観察することも重要ですが、万が一、感染症になっていたら早期の治療が必要だからです。遅くなると視力低下などに至ることがあります。白内障手術は、眼内レンズを挿入するための切開がわずか2.4mmほどの低侵襲の手術です。手術自体は局所麻酔で痛みを抑えていますが、万が一、痛みが続くようであれば、必ず手術を受けた病院・クリニックに連絡するようにしましょう。
当院では、2回目以降の定期検診については、「来院が難しければ、ご自宅や勤務先の近くの眼科で受けていただいてもかまいません」と患者さんにお伝えしています。その場合はどのような手術をしたか、どのような眼内レンズを使用したかなどの詳細な情報を記載した紹介状をお作りいたしますので、ご安心ください。
内服薬と目薬は必ず用法容量を守る
Q:手術後、薬を服用したり、目薬を差したりする必要はありますか?
A:白内障手術後は、感染症を予防するための内服薬が処方されます。もし普段から飲んでいる薬があれば、術前に確認しますので、お薬手帳を持参いただくことをおすすめします。
まれに「たくさんの薬を飲むのは抵抗があるので、どれかを間引きたい」とおっしゃる患者さんがいらっしゃいますが、ご自身の判断で服薬をやめるのは非常に危険です。
もし、服薬に関して心配なことがあれば、必ず医師に相談するようにしてください。手術後の目薬は通常3種類が処方されます。医師の指示に従って、毎日決められた時間に差してもらいます。これは、およそ1~3ヵ月間は続ける必要があります。
長いと感じるかもしれませんが、手術後に処方される目薬は感染症を防ぐためのものと、炎症を防ぐためのものとが含まれています。
術後の経過が順調であれば、点眼する回数を減らしたり、目薬の濃度を薄くしたりすることもあります。まずは毎日、決められた目薬を決められた回数だけ使用してください。それが最も早く日常を取り戻すことにつながります。
佐藤 香
アイケアクリニック 院長
アイケアクリニック銀座院 院長