
白内障手術は、手術方法から眼内レンズの選択肢に至るまで、たった数年前と比べても飛躍的な進歩を遂げています。しかし、いまだに「期待していたほどではなかった」「よりよい眼内レンズを選んだはずなのに、見えない」と後悔する患者が絶えません。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。本連載では、年間1500件もの白内障手術を手掛ける、アイケアクリニック院長の佐藤香氏が、白内障治療に関する疑問を、Q&A方式でわかりやすく解説します。
強度の乱視は「レーザー治療+眼内レンズ」で矯正可能
Q:強い乱視があるのですが、私に合うレンズはありますか?
A:大丈夫です。強い乱視も矯正可能です。
乱視に対応している眼内レンズもありますし、仮に眼内レンズでは矯正できないくらい強い乱視の場合には、手術の際にレーザーを打つことで矯正することができます。
乱視は黒目の部分に凸凹があり、光が乱反射することが原因で起こっています。レーザーを使って黒目の凸凹をなだらかに整えることで、正しい見え方になります。
ただし、その施術ができる医療機関はあまり多くありません。乱視の強い方は、眼内レンズだけでなく、レーザーを使った乱視矯正ができる医療機関を選ぶようにしましょう。

既製品になければオーダーメイドで眼内レンズを作る
Q:強い遠視があるのですが、私に合うレンズはありますか?
A:遠視が強い人に合うレンズもありますので、心配ご無用です。まずは既製の眼内レンズで合うものを選び、既製品になければオーダーメイドで眼内レンズを作るようにするとよいでしょう。
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どんな目でも度数ぴったり…オーダーメイドという選択
Q:多焦点眼内レンズにはオーダーメイドのものもあると聞きましたが、既製のものとどんな違いがあるのでしょうか?
A:既製の眼内レンズとオーダーメイド眼内レンズの違いは、レンズの度数を示す「ディオプター」の刻みが大きいか小さいかという点にあります。
視力検査というと、一般の方には「1.5」とか「0.7」などといった数字のほうがなじみが深いと思いますが、目の本当の状態を知るにはディオプターで示される「度数」が非常に重要です。
既製の眼内レンズは0.5ディオプター刻みで作られているところ、オーダーメイド眼内レンズでは、0.01ディオプター刻みで作ることができるのです。
靴のサイズで言えば、既製品が0.5cm刻みのものしかないのに比べて、オーダーメイドなら0.01cm刻みで足に合わせることができるイメージです。
オーダーメイドであれば、患者さんのレンズの度数にぴったり合わせたレンズが作れるので、どんな目にも合わせることができ満足度の高いものが作れるということが、おわかりいただけたのではないでしょうか。
あえて欠点を指摘するとすれば、完全オーダーメイドのため、注文から製品が届くまで4週間ほどかかってしまうことでしょうか。また、高性能であるがゆえに、十分な設備のない病院・クリニックでは、その性能のよさを最大限に引き出す手術をすることが難しいという点もあります。
「どこで手術しても同じ」という考えは後悔の元
Q:どの眼科でも同じ多焦点眼内レンズを扱っているのでしょうか? 同じレンズを扱っている病院なら、どこで手術を受けても同じですよね?
A:扱っている多焦点眼内レンズの種類は、病院・クリニックによって異なるのが実状です。また、同じ種類の眼内レンズを扱っていたとしても、施設によって手術の方法が異なる可能性が高いです。
●多種類の眼内レンズに対応できる手術経験・設備がない
たとえば多焦点眼内レンズに関していえば、用意があるのは1~2種類に限られる眼科が一般的なようです。
海外から輸入するプレミアムな多焦点眼内レンズを扱うような眼科も、全国的に見てもごく限られています。当院のように、乱視矯正用のトーリックレンズを含めて20種類以上の多焦点眼内レンズを扱っている眼科は珍しいかもしれません。というのも、多焦点眼内レンズにはさまざまな種類があり、それぞれ求められる扱い方の知識や技術、必要な設備などが変わってきます。
率直に言ってしまえば、手術経験や設備の面で多種類の眼内レンズには対応できないため、ごく限られた1~2種類のレンズを使った手術しかできないということです。
●設備や執刀する医師が違うと同じ手術にはならない
また、せっかくよい眼内レンズを扱っていたとしても、設備が整っていないと、その多焦点眼内レンズの特性を活かしきれず、手術後のトラブルにつながる可能性もあります。十分な知識と豊富な手術経験を持たない医師が担当した場合も同様です。多焦点眼内レンズ個々の特徴やメリット、性質などを比較しながらしっかりと把握し、患者さんにきちんと説明できるコミュニケーション能力も求められるでしょう。
受診した眼科で扱っている多焦点眼内レンズの種類が少なければ、患者さんはその少ない範囲のなかから選択せざるを得ません。
●カウンセリングなしで眼内レンズを「決められてしまう」ことも
一部の眼科では患者さんの目の状態に関係なく、その施設にあるもののなかから眼内レンズを決めてしまうこともあるようです。「多焦点眼内レンズにはほかにもさまざまな種類がある」ということ自体を患者さんに説明していないのです。それでは患者さんが正しい判断をできなくなってしまいます。
こうしたリスクを回避するため、あらかじめ扱っている多焦点眼内レンズの種類を調べ、できるだけ選択肢の多い眼科を受診することをおすすめします。
なお、当院では20種類以上の多焦点眼内レンズを導入しています。白内障手術は患者さんの生活スタイルや目の状態に合わせて最適な眼内レンズを選んでいただくことが何よりも重要と考えているからです。
そのため、絶えず白内障手術に関わる最新情報をキャッチし、海外の眼内レンズを取り扱う国内メーカーとも積極的にコンタクトを取り、その眼内レンズを導入した際に必要な知識や技術や設備などの体制を整え、常にベストな白内障手術を患者さんに受けていただけるよう研鑽を積み重ねています。
佐藤 香
アイケアクリニック 院長
アイケアクリニック銀座院 院長