
白内障手術の進化はすさまじく、安全性の高さはいうまでもありません。しかし従来の手術方式では医師の腕に左右されるところが多いうえ、人の手先では精確さに限度があり、手術がプラン通りにいかないこともあります。そのため、「ベテラン医師の手術を受けたのに、見え方が改善しなかった」と残念な結果になることも珍しくありませんでした。本連載では、年間1500件もの白内障手術を手掛ける、アイケアクリニック院長の佐藤香氏が、白内障治療に関する疑問を、Q&A方式でわかりやすく解説します。
手術の精度を底上げした最先端システム「CRS」
Q:「The Cataract Refactive Suite」(CRS)とはどういう治療なのでしょうか?
A:CRSとは特定の治療法ではありません。
スイスのアルコン社が、手術機器や眼内レンズに特化して研究・開発し、世界の白内障手術のあり方を根本から変えた最先端のシステムのことを略してこう呼んでいるのです。
CRSは手術後の患者さんの見え方に対する高いニーズに応えるために開発された一連の手術行程のことで、特に多焦点眼内レンズの性能を引き出すための手術の術式、レンズの選択、乱視矯正を行うための適切な切開やレンズの固定位置など、医師の手技だけではむずかしい高い精度が求められる場面で活躍します。

白内障手術に革命を起こした「5つの機械」とは?
具体的には、以下の5つの機器の総称です。
①適切な切開位置とレンズの位置をガイドして手術の精度を上げる「VERION with VerifEye Lynk(ベリオン)」
手術前の検査から術中まで、乱視状態を正確に把握することにより、より高度な乱視矯正を提供できる機器です。これまでは、レンズの固定位置を正確に記録するために、直接目にペンで印をつけていた医師もいましたが、VERIONを使用すれば、強膜の血管や虹彩の特徴などを記録して追跡してくれるので、手術中の軸のズレを補正して、正しい切開位置やレンズの位置をガイドしてくれます。
多焦点眼内レンズを使用したり、乱視矯正を行ったりするような高い精度の技術が求められる白内障手術では、なくてはならない機器となっています。
![[図表1]VERION(べリオン)](/mwimgs/d/6/400/img_d6e0591995cda9e84fff719f38a92640206261.png)
②高精度のレーザー白内障手術を実現する「LenSx(レンズエックス)」
最先端技術の「フェムトセカンドレーザー」による白内障手術をするために、欠かせない次世代型のメスといえる手術機器です。
医師の手で手術のすべてを行うマニュアル手術に対して「角膜に切開創を作る」「水晶体のふくろの前側(前嚢)を丸く切開する」「水晶体を細かく砕く」という3つの行程をこの機器を使ってできるようになりました。
正確に手術を行えるので、ミスが発生することはほとんどなく、また、メスなどの器具が直接触れることが少なくなるので、細菌感染など合併症のリスクも大幅に軽減されました。
![[図表2]LenSx(レンズエックス)](/mwimgs/1/f/400/img_1f374d22af581fe1fdc669561cac7086266405.png)
③白内障手術の全行程で各機器をサポートし、精度を上げる「LuxOR LX3(ルクソールエルエックス3)」
視軸に沿った広い領域に光を提供する眼科用顕微鏡です。常にLuxOR LX3が光を照らすことで、手術中の眼構造データを表示し、他の手術機器をサポートします。
![[図表3]LuxOR LX3(ルクソールエルエックス3)](/mwimgs/e/1/400/img_e12b9157402796e84dfa3bc45e9b6b4f199841.png)
④手術中の眼内圧変動が低減され、合併症のリスクを抑える「CENTURION(センチュリオン)」
水晶体を超音波で砕き、乳化して吸引する機器です。手術中は眼内圧が上下して、合併症のリスクが高まりますが、この機器によって目の中に灌流液を注入し、眼内圧を一定に保つことで安全な手術が可能となります。
![[図表4]CENTURION(センチュリオン)](/mwimgs/f/c/400/img_fc096c734ae45e1b12410911c381fc68240989.png)
⑤最適なレンズ度数を手術中に分析してくれる「ORA SYSTEM with VerifEye Lynk(オラ)」
白内障治療では水晶体の濁りを取り、眼内レンズを挿入しますが、手術中の目の変化で、術前設定度数にわずかな誤差が生じることがあります。
特に多焦点眼内レンズや乱視矯正用眼内レンズでは、このわずかな誤差が術後の結果に影響を及ぼすことがあります。
この機器によって、術中リアルタイムで最適な眼内レンズ度数および固定位置を診断、選択でき、わずかな差を極限まで減らすことができます。それにより、術後の見え方の満足度をさらに高めることができます。
![[図表5]ORA(オラ)](/mwimgs/d/a/400/img_daa4bc0a53db2c2a9a74c2e2153a577c222643.png)
以上、5つの機器を紹介しましたが、これらの最新機器を使用し、高精度でミスのない手術ができるのです。
Q:CRSと普通のレーザー手術との違いはどのようなところにあるのでしょうか?
A:手術の精度に違いがあります。
前述したようにCRSとは、特定の手術方式を指すのではなく、フェムトセカンドレーザーを使ったレーザーメス「LenSx」を含む、複数の手術機器を使用する一連の手術システムのことです。
単に手術でレーザーメスを使うのに比べて、最先端の手術機器を組み合わせて使用するため、より精度の高い手術が可能になります。
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Q:CRSを使って治療をする場合の流れを教えてください。
A:当院の例を用いてご説明しましょう。
まず、事前検査です。患者さんのご希望をうかがい、十分にカウンセリングをしたあと、「VERION(ベリオン)」を使って、目の状態を検査します。
黒目の形や目の長さを測定したり、適切なレンズ度数や乱視矯正のための切開位置などを精密に調べて、計測データを「LenSx」などCRSの他の機器でも共有します。
カウンセリングと検査結果をもとに、眼内レンズを選んで説明します。手術プランを提案し、手術日程を決定します。
<手術当日の流れ>
1. 「VERION」で、目の状態を再測定し、手術プランの微調整を行います。
2. リクライニング式の椅子に横たわり、「LenSx」の下に移動し、点眼の局所麻酔を行います。麻酔は一瞬で終わるので、目薬を差しているような感覚です。
3. 機器と手術する目をドッキングさせ、「LenSx」を使用し、水晶体のふくろの前側に丸く穴を開け、そのなかにある核と皮質を除去しやすいように細かく破砕します。最後に手術用の器具を挿入するための切開創を角膜に作ります。切開創は適切な位置をガイドしてくれる「VERION」のサポートで最善の場所に作ることができます。だいたい30秒から40秒でレーザーは終了します。
4. 横になったまま、顕微鏡の下に移動します。
5. 「CENTURION(センチュリオン)」を使って砕いてある水晶体を乳化させ、核と皮質を吸引して除去します。
6. ORAを使用し、目の計測を再度行い、最適な眼内レンズ度数を最終決定します。
7. オートサートを用いて、眼内レンズを自動インジェクターで目に負担なく挿入します。
8. 乱視がある場合、再度「VERION」と「ORA」により、術中の目の変化をふまえた最適な位置にレンズを固定し、高性能の眼内レンズのパフォーマンスを最大化して、術後の見え方の満足度を高めます。
これら一連の流れで、要する時間は10分前後に過ぎません。術後は少しお休みされてから、ご帰宅いただくという流れになります。
Q:CRSのメリットを教えてください。
A:最大のメリットは、多焦点眼内レンズのパフォーマンスを最大限に引き出せることです。
CRSによって、手術中に目の状態を正しく計測し、最適な眼内レンズの種類や度数、固定位置もガイダンスしてくれるので、屈折ズレを最小限に抑え、それぞれの目に合った治療をすることが可能になります。
また、自由自在に切開創を作ることができるため、角膜の切開の仕方しだいで、眼内レンズだけでは矯正できない乱視を矯正することが可能になります。
安全性も高いので、目の負担が少なくなり、合併症のリスクを軽減することができるのも大きなメリットといえるでしょう。
佐藤 香
アイケアクリニック 院長
アイケアクリニック銀座院 院長