
白内障手術を受けるには、クリニック選びが重要です。緑内障や黄斑疾患など白内障と併発しやすい眼疾患は多々ありますが、複数の手術に対応できる医師が少ないために、手術を断られてしまう場合が珍しくありません。また、知識・経験が不足しているために「せっかく手術したが、見えない」という事態も起こり得ます。本連載では、年間1500件もの白内障手術を手掛ける、アイケアクリニック院長の佐藤香氏が、白内障治療に関する疑問を、Q&A方式でわかりやすく解説します。
「他疾患を併発した白内障」に対処できる医師は少数
Q:手術で対応できない白内障はありますか?
A:基本的に、手術ができない白内障はありません。
例外として、加齢黄斑変性や黄斑前膜、黄斑円孔といった黄斑疾患や緑内障を併発している場合、眼科によっては技術的に手術ができないケースがあります。こうした病気は、白内障と同じように加齢によって発症しやすい病気なので、白内障との併発が多く見られます。
眼科で行われる手術には、白内障手術以外に、緑内障手術、硝子体手術、眼瞼手術などがありますが、それぞれ専門が異なっているため、複数の手術を行える眼科医というのは、実はとても少ないのです。
また、併発した病気がある場合、その病気の手術も白内障手術と同時に行ったほうがよいケースや、外傷によってチン小帯が切れているなどのケースでは、むずかしい手術になるということで断られてしまう場合もあります。むずかしい症例の場合は、あらゆるケースに対応できる経験豊富な眼科医がいる病院・クリニックでの受診をおすすめします。
Q:片目だけ手術するのと、同じ日に両目一度に手術するのとでは、リスクは異なりますか?
A:片目だけ手術するのと、同日に両目を手術するのでは、リスクに差はありません。患者さんのご希望に合わせて、どのようにも対応することができますので、ご安心ください。

Q:白内障手術でよく起こる合併症にはどんなものがありますか?
A:現在は白内障手術による合併症はほぼなくなっています。とはいえ、可能性がゼロというわけではありません。
最も重篤な合併症として知られるのが、「感染性術後眼内炎」です。手術直後は問題がないのに、術後3~7日後に見え方が鈍くなり、強い痛みやひどい充血が起こった場合は、菌が目の中で増殖してこの病気になっている可能性があります。治療が遅れると失明の危険性もあるので、白内障手術後に目に変化があれば、早急に病院・クリニックに相談してください。
ほかにも、手術中に起こる合併症として水晶体嚢が破れる「破嚢」、水晶体嚢を支えている部分が弱くなり破れてしまう「チン小帯断裂」、術後に起こる合併症として「眼圧の上昇」「網膜剥離」「角膜混濁」「眼内レンズの位置ズレ」なども考えられます。
また、手術後時間が経ってからの晩期合併症として注意したいのは「後発白内障」。これは眼内レンズを入れた水晶体後嚢が再び混濁して起こる症状です。この場合、レーザーで水晶体嚢を破れば透明に戻りますので、ご安心ください。
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手術したのに見えない…「度数ズレ」が起きる原因
Q:眼内レンズの度数が合わないことがあると聞いたのですが、本当ですか?
A:当院では経験がありませんが、一般的に眼内レンズの度数が合っていなかったために、白内障手術をしたあと、期待どおりの視力が出なかったことがあると聞いたことはあります。このような状況を「眼内レンズの度数がズレる」と表現します。
眼内レンズの度数は通常、眼軸長(眼球の奥行きの長さ)と角膜の曲率(カーブの度合)を計測して決めます。これらの数値に眼内レンズの度数計算式を当てはめ、度数を算出して決定するのです。
しかし、この方法では計測にわずかでもズレがあると、それが眼内レンズの度数のズレに直結してしまいます。
また、患者さんがドライアイになっていたり、コンタクトレンズを着用したりしている、または、レーシックの手術を受けていることが同様のズレを引き起こす原因になっていることもあります。
当院ではこのようなことがないように、ORAシステムを使用し、術中に再度目の計測を行い、最適なレンズ度数を決めて挿入することが可能ですので、一度も度数ズレを経験したことがありません。
●不正乱視を見抜けない、正確な計算ができていないことが原因
眼内レンズの度数が重要なことは眼科医なら誰でもわかっていますから、ズレを防ぐために何度も細心の計測を繰り返します。
それでもズレが生じてしまうのは、白内障手術のための検査では不正乱視を見抜くことができなかったり、角膜の曲率が大き過ぎるときや小さ過ぎるときは計算式が合わなくなったりすることがあるからです。
計算式は通常の眼球を想定して作られているため、その範囲を超える眼球では計算が合わなくなりやすいのです。
●レーシック手術を受けた人は要注意
特にレーシック手術を受けた人の角膜は、通常の角膜とは形状がかなり異なっています。レーシックはレーザーで角膜を削ることで近視を矯正します。
患者さんがレーシック手術を受けたことを知らずに白内障手術を行うと、必ず遠視になってしまいます。
これまでご説明したことに「自分もそうかもしれない」という心当たりのある方は、度数ズレが起こる可能性があります。当院のように詳細な検査と、知識と経験の豊富な医師による診断で度数ズレを防ぐことができます。そのような医師を選んで執刀してもらうようにしてください。
佐藤 香
アイケアクリニック 院長
アイケアクリニック銀座院 院長