
毎年ドラマが生まれる「大学受験」。涙ぐましい努力の末、念願の志望校に合格する子どもがいる一方で、不合格になってしまう学生がいることも事実です。MSAマスタードシードアカデミー主任講師・中澤一氏の書籍『難関大学合格のためのメンタル強化術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋して解説します。
成功する生徒と、うまくいかない生徒の違い
受験勉強を本当に自分のものとしてとらえられる人の前には、今の偏差値などに関係なく道が開けます。
受験までの間の選択も、行動も、出来事も、結果も、100%が自分の責任であると自覚して戦いに臨めるかどうか。自分に与えられた人生は、自分が誠実にそれを生きていくのだと思い切ることができるかどうか。それを今、自分の胸に聞いてみてください。受験生の皆さんには、その覚悟を持ってもらいたいのです。
静岡県の中高一貫校の私立高校に通いながら、私の予備校に来ていた生徒のことを紹介しましょう。彼女の学校は、県内でも真ん中のランクにあり、ほぼ全員の生徒がAOや推薦入試で大学に進学するのが当たり前のようになっています。
ある年、一般入試を受ける生徒は、7人しかいなかったそうです。そのようななかで、彼女は上智大学を目指していました。周りのAO・推薦入試組は、いろいろ彼女に言ったようです。
「そんなに頑張ってどうするの?」「受験勉強なんておもしろい?」「AO・推薦にすれば、クリスマス前に決まってしまうから楽じゃない?」「なんでわざわざ一般入試なんて道を選ぶの?」
彼女はそれでも高い目標を掲げ、あえて一般入試を受けることに決め、一生懸命勉強を続けていました。
毎年の行事である遠足が近づいたとき、彼女は考えました。この日、遠足に参加すれば、丸1日は、どうしても勉強ができなくなる。準備や遠足の疲れを考えると、その前後も、まともに勉強はできないだろう。合計3日も勉強を休んでしまうことになる。でも、友達と思い出を作る学校の行事も大切にしたいから、なんとか参加したい。遠足と勉強の両立はどうしたら良いのだろう。
そこで彼女が出した結論が見事でした。その3日でこなす勉強量を30日で割り算して、1カ月前から少しずつ勉強量を増やし、空白となる3日分の勉強を事前に補ったのです。
成功する生徒と、うまくいかない生徒の違いはここにあるのです。失敗してしまう生徒は、遠足が終わってから「あ~、疲れた。今日は勉強は無理。あとでやろう」と休んでしまい、すっぽり1日分抜けた勉強を、その後で補おうとします。ところがそう簡単には進みません。結局、そこからどんどん計画がずれていき、そういう自分に嫌気がさし、それが勉強のやる気をそぐという悪循環にはまってしまうのです。
成功する生徒は、勉強できない日があることが最初からわかっているのならば、事前に「補っておく」ことで、あとで大変な思いをせずに済むような方法を考えます。何よりも、計画を崩さずに実行できることは気分爽快です。そのような自己管理ができる自分を誇りに思えるでしょう。
そしてここに大きな自信が生まれるのです。自信は自分で作るものです。ちょっとしたことの積み重ねが、じわじわと大きな自信になるのです。ある日突然、大きな自信が天から降ってくることを夢見ているならば、それは単なる愚か者です。
彼女にとって「周りは当てにならない」環境だったからこそ、自分でどうしたらいいか考え、自分で答を出したのです。だからこそ、実行できたのです。
親や教師が至れり尽くせりで、先回りして、「フォローアップする内容を考え、準備してあげる」などとやってしまっていたら、彼女は本気で考えることはせず、このままでの成長はなかったでしょう。
もちろん、彼女は念願の上智大学に合格しました。この高校から一般入試で上智に合格者が出たのは何年振りかの快挙でした。彼女は、後輩たちにも良い見本を示したのです。今は、彼女の後輩たちが私の予備校で、先輩に続け、と頑張っています。
落ちたからといって、人生が否定されたわけではない
高い目標を達成するには、さまざまな困難が伴います。誰だって、大なり小なり挫折や失敗を何度となく繰り返すことでしょう。でも、それでいいのです。
受験勉強の最中に失敗をしたって、みなさんの価値が否定されるわけではありません。今日は勉強時間を作れなかった、早起きできなかった、単語を覚えられなかった…。そんなことは人生に終止符を打つほどのマイナスではありません。
むしろ、いろんな失敗を経験し、それを修正するためにはどうしようかと、自分で工夫して努力するからこそ、自分にとって最善の打開策が生まれ、自信がつき、精神力が強くなり、その先に進むことができるようになるのです。
メンタル面で一本の軸がしっかりできてくると、周囲のお膳立てに期待せず、どんなときでも自分の道を見つけていくことができるようになります。何でも他人のせいにして自分を守ろうとする被害者妄想の人生では、あまりにも悲しいでしょう。
不合格にしたことを後悔するくらい力をつけてやろう
もうひとり紹介しましょう。彼は、事情があって高校を中退してしまいました。高校卒業程度認定試験に合格した後、医学部を目指して頑張りました。しかし、受験したどの大学も1次試験には合格したものの、2次試験で軒並み不合格となったのです。

しかし、彼にとっては、それがかえって道を開いたといえるかもしれません。「日本の医学部が僕を受け入れてくれないなら、僕を不合格にしたことを大学が後悔するくらい力をつけてやろう」と考え、アメリカの大学で学ぶことを決めたのです。
高い目標に向かって、自分の意志で努力をする。そういう意識があるからこそ、目先の結果が思わしくなくても、やがて道が開けていくのです。
一見、すべての大学に不合格になって「道を閉ざされた」ように思える状況ですらも、もっと大きな扉を開けることができるのです。「目先」の結果は、文字通り「目先」なのですから、「一瞬」のことです。そんなことに振り回されてはいけません。
誰だって第一志望校に合格したいのは当たり前です。しかし、思い通りの結果にならないこともあるものです。そのときどのような反応をするかは、全く自由です。「こんなにやったのにダメだった。やっぱり自分はだめなんだ」と言う自由もあります。一方で、「これだけやったのにダメだったら、もっと頑張ってやろう」と言う選択もあるのです。
成功は、後者の選択をする人が手にします。つまり、成功への道を歩むかどうかは、あくまでも自分の自由な選択の結果なのです。受験勉強の成功には、学力が絶対に不可欠。しかし、その学力をつけるためには、強い精神力という強固な支柱が必要です。ストレス耐性も欠かせません。
受験は、その後の人生を歩む上で役立つ大きな力をつけるチャンスです。簡単に到達できる低い目標や、自分をギリギリまで試す必要もないような選抜試験で満足するか、「できない理由、やらない理由」を探してそこに安住するか。それとも自信を持って歩むことができるように、あえて「高い目標」を掲げて厳しい環境で自分を磨くか。すべてはあなたが決めることです。