遺伝子次第では「失明リスクが64倍」にもなる怖い目の病気

年齢を重ねれば、老眼や白内障なども始まり、視力の衰えをよりいっそう感じることでしょう。「年だから仕方がないか…」と、納得してしまいそうになりますが、思わぬ病気を発症している可能性に、気づいているでしょうか。本連載では、はんがい眼科・板谷正紀院長の書籍『「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋して、眼病の知識をわかりやすく解説します。

遺伝子多型との関連もわかってきた「目の病気」

最近、遺伝子多型という言葉を目にする機会が増えてきました。人間の染色体にはおよそ30億の塩基対がありますが、その配列は1000塩基に1つ程度の頻度で個人間で異なっているとされています。

 

このそれぞれの遺伝子多型の違いが、お酒の強さ、髪の太さ、肌の状態、耳垢の状態など、人である限り持っているさまざまなバリエーション(人の間の相違)をもたらしているのです。そして、そのバリエーションの総体が個性を作り上げているのです。このように遺伝子多型は、病気に限らず人はみな違うという個性の源なのです。

 

同じように病気の発症の頻度も、この遺伝子多型によって大きくかわってくることが最新の研究でわかってきました。そのひとつが『加齢黄斑変性』という病気です。この加齢黄斑変性は、人間の視力の中枢のひとつである黄斑の病気ですが、網膜の表面の病気でなく、網膜の土台・脈絡膜の老化で起きる病気です。

 

◆遺伝子多型で64倍のリスクが!?

 

黄斑変性と遺伝子多型との関連をしらべた研究によると、関係する遺伝子が3つ見つかっているという研究もある一方で、5つの遺伝子で50%の説明がつくとした研究もあります。こうした遺伝子多型によるリスクに喫煙などの因子が加わると、高い人では発症のリスクが一般の人の64倍に達するというデータもあるようです。

 

加齢黄斑変性は最近注目されてきた目の病気で、原因の解明されていない部分も多く、治療法の研究もなかなかすすまなかったのですが、最近ではこうした遺伝子多型からのアプローチや、新生血管をつくるVEGFを阻害する薬の開発などもあって治療法の研究も加速されてきました。

 

緑黄色野菜や青魚などの食事を摂ることや、ビタミンやミネラルなどを組合わせたサプリメントを摂ることで劇症型になるのを防げるという研究結果も出ています。サプリメントは医薬品ではなく、複数のものを組み合わせて体質改善し、未病の段階で治していこうとするもので、漢方に似た発想が注目されます。

 

遺伝子多型で64倍のリスクが!?
遺伝子多型で64倍のリスクが!?

日本人の失明原因第4位・加齢黄斑変性

年齢を重ねるとともに、網膜の土台にあり網膜を守っている網膜色素上皮の下に、老廃物が蓄積してきます。その結果徐々に網膜色素上皮の機能が破綻して、黄斑部が障害される病気が『加齢黄斑変性』です。加齢黄斑変性は、最近患者数が増え、日本人の失明原因で第4位といわれています。欧米では緑内障や糖尿病網膜症を抜いて第1位になっています。

 

男性と女性をくらべると男性が3倍ほど患者数が多いといわれています。年齢的には50歳代から増加します。症状も年を重ねるごとに重くなるようです。静かに変性していくドライタイプ(萎縮型)と網膜の土台の脈絡膜血管から網膜の下に新生血管(脈絡膜新生血管)が生えて劇症化して急激に見えなくなるウエットタイプ(滲出型)があります。

 

加齢黄斑変性の症状としては、まずゆがんで見える変視症があげられます。これは黄斑の下や中に新生血管から漏れでた成分がたまり黄斑形状に歪みができたことが原因です。これによって黄斑部が障害されると視力が低下し、中心部が見えなくなります(中心暗点)。

 

治療をしなければ視力は0.1以下になることが多いのです。網膜下に大きな出血が起こることもあり、突然、視力低下が起こることもあります。また症状が進んでくると色が分からなくなってきます。

 

◆新生血管ができる滲出型が危険!

 

先にもふれたように加齢黄斑変性には大きく分けるとドライタイプ(萎縮型)とウエットタイプ(滲出型)2つの種類があります。萎縮型は網膜色素上皮が徐々に萎縮していき、それにともなって視力が徐々に低下していきます。

 

ウエットタイプは新生血管(脈絡膜新生血管)が脈絡膜から網膜色素上皮の下、あるいは網膜と網膜色素上皮の間に入り込んでいくことで網膜にトラブルがおこります。

 

新生血管は脆いので正常の血管と異なり、血液の成分を漏出させてしまいます。また血管が破れて血液そのものが漏れ出すこともあります。ウエットタイプ(滲出型)という名称はここからきています。

 

こうなると網膜が腫れたり(黄斑浮腫)、網膜下に液体が溜まる(網膜剝離)などの問題がおきてくるのです。そのために網膜が正しく働かなくなり視力が低下します。

 

血管が破れると出血となり網膜に重大なトラブルをおこすのです。ドライタイプとウエットタイプをくらべるとウエットタイプの方が進行が早く、視力悪化も重症なことが多いので危険と考えられます。

 

ウエットタイプでは、黄斑の土台に生える新生血管も増殖糖尿病網膜症の場合と同様に、VEGFというタンパク質が大きく関与しています。そして、このVEGFを阻害するVEGF阻害薬を目の中に注射する治療が開発され成果を上げているのです。

 

◆滲出型はVEGF阻害薬で治療可能に

 

加齢黄斑変性の治療についてです。残念ながらドライタイプ(萎縮型)の加齢黄斑変性には研究段階の治療はありますが、いまのところ実用化された治療方法はありません。

 

ウエットタイプの加齢黄斑変性は、網膜が腫れたり網膜下に液体が溜まる原因となる脈絡膜新生血管を無力化したり、消滅に向かわせ、現在の視力を維持し、場合によっては視力を改善することができます。

 

最新の治療法は薬物治療です。新生血管の発生に血管内皮増殖因子・VEGFが関係していることは、再三ふれてきました。最新の研究によってこのVEGFの生成を阻害する薬が続々と開発されています。VEGFの生成を阻害する薬を用いることによって脈絡膜新生血管を萎縮して無力化し、あわよくば消滅させようという戦略です。現在VEGF阻害薬としてマクジェンR、ルセンティスR、アイリーアRという3種類の薬が認可されています。

 

投与の方法はいずれも硝子体への注射です。スタートは4週ごとに3回注射します。その後、定期的に経過観察をおこない、その際に脈絡膜新生血管の活動が再開するようなら、再度注射をおこないます。VEGF阻害薬と併用することがある治療法としては、光線力学療法があります。VEGF阻害薬が登場する前に活躍した治療法です。

 

これは光感受性をもつビスダインRという物質を点滴し、病変部にごく微弱なレーザーを照射する治療法です。治療を行う前に造影検査などをおこない、病変のある範囲を確認してから照射範囲を決定します。光過敏症などの合併症が起こるのをふせぐため、治療後48時間は強い光に当たらないよう注意が必要です。

 

◆加齢黄斑変性の予防には禁煙やサプリメントが有効

 

加齢黄斑変性は日本人の失明原因として最近上位を占めるようになった病気です。欧米ではすでに失明原因の第1位となっていることから、食事など生活習慣の欧米化が背景にあると考えられています。そのため生活習慣や食事の見直し、サプリメントの摂取などによって加齢黄斑変性になるリスクを回避できるのではないかと考えられています。

 

喫煙している人はしていない人に比べて加齢黄斑変性のリスクが高いことが証明されていますから、加齢黄斑変性を回避したければ、禁煙がまずお勧めです。さらにビタミンC、ビタミンE、βカロチン、亜鉛、ルテインなどを含んだサプリメントを摂取すると、ウエットタイプの加齢黄斑変性になるリスクが下がることが分かっています。

 

とくに片目にウエットタイプの加齢黄斑変性を発症した人は、いま紹介したサプリメントの摂取がお勧めです。また緑黄色野菜はサプリメントと同様に加齢黄斑変性の発症を抑えると考えられています。また欧米風な肉中心の食事より、実は魚中心の伝統的な日本食の方が加齢黄斑変成のリスクは減らせるようです。

 

◆ほかにもある網膜の土台の病気

 

加齢黄斑変性のほかにもさまざまな網膜の土台の病気はあります。

 

① ポリープ状脈絡膜血管症

 

ポリープ状脈絡膜血管症は網膜色素上皮下の異常血管網とポリープ状病巣が特徴の病気です。現在は独立した病気というよりは、ウエットタイプの加齢黄斑変性の特殊型と考えられています。

 

② 中心性漿液性脈絡網膜症

 

中心性漿液性脈絡網膜症は、黄斑部分に網膜剝離がおこる病気です。黄斑付近の網膜に栄養や酸素を供給する脈絡膜の血管から血液中の水分が漏れだして黄斑付近にたまるのが網膜剝離の原因です。30代から40代の働き盛りのストレス過多の男性に多くみられるのが特徴です。片方の目に発症することが多く、発症しても予後の良好な経過をたどる場合がほとんどです。

 

しかし、慢性化したり再発を繰り返すたちの悪いタイプもあり、その中には加齢黄斑変性に似た脈絡膜新生血管を発症して悪化するものもあります。中心性漿液性脈絡網膜症の原因は不明です。ストレスの影響ともいわれています。女性では妊娠するとおきることもあります。また、副腎皮質ステロイド薬の副作用でおこることもあります。

 

③ 網膜色素変性症

 

網膜色素変性は網膜に異常がみられる遺伝性の病気です。「鳥目」とか「夜盲(やもう)」といわれる症状がでる病気です。日本人では人口10万人あたり18.7人の患者がいるといわれます。暗いところでものが見えにくい、視野狭窄、視力低下が典型的な網膜色素変性の症状です。

 

光を感じる視細胞に錐体(すいたい)細胞と杆体(かんたい)細胞があるのは有名ですが、網膜色素変性では、網膜の周辺にあり、周辺の視野や暗い中で光を感じる働きを担う杆体細胞から障害されるために、夜盲が最初に現れることが多いのです。そのため進行すると、周辺の視野が狭くなり、物にぶつかる、物が見えたり消えたりするという症状が現れます。病気がさらに進行すると視力や色覚を担う錐体細胞も障害され、視力低下が自覚されるようになります。

 

ゆっくり進行する病気で、症状があらわれるまでには数年から数十年かかることがあります。網膜色素変性の原因遺伝子は40種類以上あるといわれていますが、ほとんどの患者さんはいまだに原因となる遺伝子異常が不明だということで、いまも新しい遺伝子異常の報告が続いています。

「近視が強い人」がなりやすい目の病気

近視とは、学童期に眼球が前後に伸びすぎてフォーカスが網膜の前に来てしまい網膜面で結べなくなって起こります。フットボールのように細長い目になるのです。その結果、網膜や目の壁が薄く引き延ばされて、いろいろな病気が起きます。まず、若年期に網膜に薄い場所(=格子状変性)ができて、萎縮性網膜円孔という小さな孔が網膜に開いて網膜剝離の原因になります。

 

中年期になると、硝子体が網膜から離れる生理的現象である後部硝子体剝離が起きて、この網膜の薄い部分が裂けて大きな孔になります。この孔は、急速に進む網膜剝離を引き起こすのです。

 

眼球が前後方向に伸びるときに、視神経のはじまりである視神経乳頭が変形します。その結果、視神経乳頭は眼圧に弱くなります。すなわち、緑内障になりやすくなるのです。近視の強い目は数倍緑内障になりやすいことがわかっています。さらには、視神経乳頭の変形がマスクして緑内障の早期診断も難しくなります。

 

強度近視の目は40歳を過ぎると、さらに眼球の後ろ側だけが伸びて後部ぶどう腫とよばれる大きなへこみができます。このため網膜も目の壁もさらに引き延ばされて、網膜内部が裂けたり(網膜分離症)、黄斑の中心に孔が開いて網膜剝離になったり(黄斑円孔網膜剝離)、網膜の土台が裂けたりして故障して脈絡膜新生血管という悪い血管が生えてきたり、視力にとっては踏んだり蹴ったりの問題が起こります。

 

ここに挙げた問題は、硝子体手術やVEGF阻害薬で解決できるのですが、治療法の無い問題もあります。網膜の土台が萎縮する斑状萎縮、視野がどんどん欠ける近視性視神経症などです。

 

 

板谷正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/
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著者紹介

連載眼科院長が教える!ライフスタイルに合わせた「白内障手術」ガイド

「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術

「自分だけ」のオーダーメイド白内障手術

板谷 正紀

幻冬舎

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