睡眠時無呼吸によって引き起こされる、さまざまな合併症。今回は動脈硬化の最大の危険要因ともいわれている糖尿病、脂質異常症について説明していきます。※本連載は『その睡眠が寿命を縮める』(幻冬舎MC)の内容を一部抜粋・改編したものです。

血糖コントロールが不能になり「糖尿病」を引き起こす

今回は、前回(関連記事:『睡眠時無呼吸症候群×高血圧」という時限爆弾を抱える日本人 )で説明した睡眠時の無呼吸によって引き起こされる、主な合併症の続きから説明していきます。

 

合併症②糖尿病

私たちの体は食事から摂取した糖質を体内でブドウ糖に替え、これを主に筋肉で燃焼して活動に必要なエネルギーをつくり出しています。血液中に含まれるブドウ糖を「血糖」といい、その濃度を「血糖値」といいます。

 

筋肉の細胞が血液中のブドウ糖を取り込んでエネルギーとして利用するには、膵臓からつくり出される「インスリン」というホルモンの助けが必要となります。つまり、インスリンはブドウ糖が細胞に入るときの通行証の役目をしており、これによって体内の血糖値は一定に保たれています。

 

通常、食後に小腸から多量のブドウ糖が吸収されるため血糖値は高くなりますが、インスリンが盛んに分泌されて細胞を取り込むので、1~2時間で元の濃度に戻ります。

 

ところが、インスリンの作用が不足すると、うまくブドウ糖を取り込めなくなるために、血液中にブドウ糖が溢れてしまいます。これを「高血糖」といい、その一部が尿にも排出される状態を「糖尿病」といいます。

 

糖尿病になると、血液中にブドウ糖が増えるので血液の粘性が強くなり、いわゆるドロドロ血になって血液循環を悪くし、その弊害は全身に及びます。

 

睡眠時無呼吸症候群の患者は、糖尿病を合併しやすいことが分かっています。もちろん肥満がベースにあることも大きな理由ですが、睡眠中の無呼吸、そして無呼吸から呼吸が再開することを何回も繰り返し、そのたびに交感神経が優位に働くことで血糖値を上昇させ、インスリンの分泌も増加します。

 

それが続くと、インスリンが効きにくい状態に陥ってしまう(=インスリン抵抗性)ことが糖尿病を合併する原因になっています。

 

糖尿病になると、心臓の組織に栄養を与える冠状動脈の動脈硬化が進み、心筋梗塞や狭心症などの心疾患もさらに増えてきます。

 

無呼吸が糖尿病にまで発展……
無呼吸が糖尿病にまで発展……

血管壁にダメージを与える「脂質異常症」を引き起こす

合併症③脂質異常症

脂質の摂り過ぎは肥満や糖尿病など、さまざまな病気の原因になるので悪者扱いされがちです。けれども適量は体にとって必要な栄養素で、摂り過ぎが良くないだけなのです。

 

血液中の脂質には、大きく分けて「コレステロール」と「中性脂肪」があります。コレステロールは、細胞膜やホルモン、胆汁酸などの原料になる生命活動に欠かせない重要な物質です。

 

中性脂肪は、体のエネルギー源として利用されますが、余った分は全身の脂肪細胞や肝臓に蓄積されます。

 

これらの脂質が、血液中に異常に増えた状態を「脂質異常症」といい、以前は「高脂血症」と呼ばれていました。

 

コレステロールには、「LDLコレステロール」と「HDLコレステロール」の2種類があります。LDLコレステロールは、多すぎると血管壁に入り込んで動脈硬化を引き起こす一番の担い手になるため、「悪玉コレステロール」と呼ばれています。

 

一方、HDLコレステロールは、動脈硬化を進行させないように働くので「善玉コレステロール」と呼ばれています。

 

悪玉コレステロールの数値が基準値より高い場合、もしくは善玉コレステロールの数値が低い場合は、動脈硬化のリスク因子となります。

 

一方、中性脂肪は、脂肪細胞の中から分離した遊離脂肪酸が血液中に放出されると、インスリンの正常な分泌を妨げてしまいます。また、中性脂肪が肝臓に蓄積すると「脂肪肝」になり、血液中に増加すると善玉コレステロールを減らし、悪玉コレステロールを増やして動脈硬化を促進させます。

 

睡眠時無呼吸症候群になると、睡眠中に血液中の酸素濃度が低下するので息苦しくなり、何回も覚醒するようになります。これにより、交感神経が優位になるため、血圧を上げるホルモンであるノルアドレナリンが分泌されます。このノルアドレナリンには、血液中の脂質を増加させる働きもあり、脂質異常症の重大な危険因子となります。

 

生活習慣病の最大の危険因子は動脈硬化糖尿病や脂質異常症は、全身の血管の中で自覚症状がないまま静かに動脈硬化を起こしていきます。動脈硬化が進行すると、全身の動脈のしなやかさが失われて硬くなり、血管の内側が狭くなって詰まりやすくなったり、切れやすくなったりして生命を脅かします。

 

近年、糖分や脂肪分の多い欧米型の食生活や運動不足などライフスタイルの変化に伴い、肥満や生活習慣病の人が急激に増加しています。

 

厚生労働省が3年ごとに実施している 「患者調査」(平成29年) によると、例えば脂質異常症の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は220万5000人でした。しかし、脂質異常症の疑いのある人が多数存在し、その数は1410万人と推計されています。

 

血液中に糖分や脂肪分の多い状態が続くと、血液がドロドロになって血管壁に余分な脂肪が蓄積し「プラーク」と呼ばれるお粥状のコブを形成します。こうしたコブは短期間で血管壁に溜まりますが、柔らかくて壊れやすいので、プラークが破れるとその部分を修復するために血液成分の一つである血小板が集まって血栓をつくります。そうなると血液の通り道が狭くなります。

 

これが動脈硬化のメカニズムで、血管が詰まったり、切れたりすると重篤な循環器疾患を発症します。

 

動脈硬化を進行させる因子は、糖尿病や脂質異常症のほかにも高血圧、喫煙、家族の既往歴などがありますが、この中でも糖尿病と脂質異常症は動脈硬化の最大の危険要因といわれています。

 

 

末松 義弘

筑波記念病院 副院長・心臓血管外科部長・睡眠呼吸センター長

 

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