東大に合格させたい「親の妄執」の空振り

本記事は、学習塾・灘学習院の学院長である江藤宏氏の著書『東大・京大に合格する子どもの育て方』より、むやみやたらに習い事をさせることの「無意味さ」について解説します。

子どもを「習い事漬け」にすることは意味がない

◆思考教育は早ければ早いほどいい

 

子どもの教育に関して、二極化が進んでいるように思います。一方の極には、何とかして子どもを東京大学に合格させようと、幼い頃からの教育に力を入れるグループがあります。もう一方の極には、教育の意義そのものを否定する恐ろしい親たちも出始めているようです。どちらも問題だと思います。

 

子どもを東京大学に合格させたい一心で、早ければ2歳ぐらいから早期教育を受けさせる親がいます。幼児向けの塾などに通わせるから、幼稚園入園時には早くも漢字を読み書きできたり、掛け算の九九ができたりするようになっている。その後も計算教室に英語教室、リトミックなどに通わせる。勉強だけではよくないからと、体を鍛えるためにスイミング教室やバレエなどまで習わせる。

 

まるで一分一秒でも無駄にしたくないぐらいの勢いで、子どもの時間を習い事やお勉強で埋める。家では、母親がつきっきりで本を読み聞かせたり、計算ドリルをやらせたり、漢字の書き取りに励ませる。わからないことがあれば、インターネットを駆使して母親が一生懸命に調べた結果を、できる限り子どもにわかりやすく教える。

 

こうした幼児教育は、どちらかといえば子どもに悪影響を与える可能性が高いと考えられます。幼少期からこのような教育を受けて東大生になる。それも一つの生き方であり、そのための猛勉強も、忍耐力を養う意味ではそれなりに価値があるのかもしれません。

 

ただ、正直なところ「かわいそうだな」と思わずにいられません。そんなことをしなくとも、東大に合格できる可能性は十分にあります。それも、ごく普通に育った子どもたちです。受験勉強に使う時間も、うんと少なくても大丈夫なのです。

 

ただ一つだけ大切なこと、それはできるだけ早い時期から、頭を使う訓練をすること。これだけなのです。早い時期から知識を詰め込む必要など、まったくありません。頭を使えるようにさえなっていれば、知識は自然に身につくものです。

習い事は「頭を使うかどうか?」を基準にする

計算能力を身につけるにしても、小学校に入学してからでも十分間に合います。だから幼稚園の頃から習い事などする必要はないのです。それでもあえて何か習わせたいと考えるなら、日本古来の習い事や音楽をお薦めします。なぜなら、そうした習い事では、学ぶ際に集中力を要求されるからです。

 

例えば習字などがその典型でしょう。決して急がされることなく、落ち着いて、丁寧に字を書く。習字を習えば、きれいな字を書けるようになることに加えて、一定時間一つのことに集中する力が養われます。後に算数の問題を集中して考える訓練をすることを思えば、習字のように集中力を養えるお稽古ごとを選ぶのがよいでしょう。

 

あるいは手軽に始められて、ゲーム感覚の楽しさもある将棋や囲碁もお薦めです。駒の動かし方さえ覚えれば、とりあえず始めることのできる将棋なら、一人でも詰め将棋で楽しむことができます。もちろん、将棋は頭を使うゲームです。頭を柔らかくする訓練としても効果があります。

 

小学生になれば、算数の問題を解くことが考えるための最高の練習になります。この場合は、計算問題ではなく文章題に取り組みましょう。計算問題は機械的に計算するだけで、頭はほとんど動いていません。これに対して文章題は、問題文に描かれている情景を頭の中で想像することが、問題を考えるスタートになります。

 

想像は頭を使います。例えば「りんご2個を、3人で分けたい。どのように分ければよいか」という問題なら、2個のりんごと3人の人を思い浮かべるでしょう。これも頭を使う訓練になります。さらに図を描くようにすれば、よりよい訓練になります。

 

もう一つ、早い時期から取り組ませてあげたいのが、本を読むことです。読書もまた頭を鍛える最高の訓練の一つです。特に子ども時代の読書が、大人になってからの意識や能力に影響を与えます。

 

読書の有効性は明らかです。そこで幼稚園から小学校低学年の子どもに薦めたいのが、親子で一緒に絵本を読み解くことです。絵本には必ず文章に関連した絵が描かれています。文章を読み、さらに絵も読むのです。

 

絵を読むとはどういうことか。描かれた絵には、必ず作者の意図が込められています。だから、まず絵の中に何が描かれているのかを一つ残らず子どもに観察させます。次は描かれているモチーフについて、どんな色が使われているのか、絵の中のどの位置に描かれているのか、その大きさはどうなのかなど、絵の細部を読み解かせます。

 

その上で絵と一体になっている文章をもう一度読みます。読みながら、絵の中に書かれているものの意味を子どもに問うのです。「どうして、これはここにあるのかな」「なぜ、これにはこんな色が使われているのだろう」「もし、この絵にこれが描かれていなかったら、どう思う」といった具合です。

 

これにより、それまで何気なく眺めていた絵に対する興味が湧いてきます。描かれているものすべてに意味があること、絵と文章の間には関係性(作者の意図)があることなどに気づくようになるでしょう。こうした訓練を続けているうちに、絵がなくても、文章から情景を想像できるようになります。文章を読んでも考える力がしっかりと養われます。

頭の良し悪しは「才能」で決まるものではない

◆子どもたちは無限の可能性を秘めている

 

頭の良し悪しを、生まれつき決まっているものと考える親がいます。頭の良し悪しは、持って生まれた才能なのだから変えようがないというのです。それは嘘です。

 

そもそも、頭の良し悪しはどのように決めるのでしょうか。学校の成績でしょうか。確かに成績の良い子がいる一方で、もう一つ良くない子がいますが、それは頭の良い・悪いに関係しているのでしょうか。小学校の勉強ぐらいなら、少しがんばれば誰でも良い成績を取ることができます。だから、学校の成績ぐらいでは頭の良し悪しは判断できないと考えるべきでしょう。

 

では、知能指数をテストすれば、どうでしょう。知能指数とは、知能検査の結果であり、高いほど知能が高く、低いほど知能が低いことを表すとされます。知能指数は100に近いほど出現率が高く、このあたりに入る人が最も多くなるようです。

 

一方で知能指数が140を超える人は、全体の0.6%程度しかいないようです。とはいえ、知能指数はあくまでも一つの指標に過ぎません。最新の研究成果によれば、知能指数のテストでは、決断力や意思決定に影響する合理的思考力は測れないことが判明しています。

 

ただ、世の中には確かに知能が高い人がいます。彼らの多くが頭の柔らかい人、いわゆる『上位1%』の人たちなのでしょう。東大、京大の一学年の定員が合わせて6000人ぐらいなので『上位1%』組が、こうした大学に進んでいる可能性は高いといえます。

 

持って生まれた知能に違いがあることは認めざるを得ません。けれども、それは良い・悪いといったプラス・マイナスの評価ではなく、子どもにより違いがあるというだけの話です。

 

これは当たり前の話で、一人ひとり顔が違うのと同じように、脳にも違いがあるだけのことです。だから顔の違いが個性として認められるのと同様、脳にも個性があると理解すればよいのです。

 

そして、たとえ人見知りや気の弱い人でも、いつもニコニコするよう努めていれば、明るく快活な印象を与える表情になります。これと同じで脳も訓練していれば必ず柔らかくなります。

 

要するに、多くの子どもたちは幼い頃から、頭を使う訓練をしてこなかっただけのことです。加えるなら、小学校では子どもたちに頭を使わせるような勉強をさせていないだけです。だから、ぜひ希望を持っていただきたい。たとえ『上位1%』に入っていなかったとしても、頭を使えるようになる可能性は、ほぼすべての子どもにあります。

 

では、どうすれば頭を使えるようになるのか。禅問答のようですが、そのための方法は頭を使うこと、これに尽きます。

 

「才能」という二文字に惑わされないこと
「才能」という二文字に惑わされないこと

頭を使うことは「車の運転」を覚えることと似ている

どんなことでも訓練を続けていれば必ず上達する、これはどなたでも納得いただける真理でしょう。訓練のやり方が適正なら、より効率的に上達する。頭の使い方も同じです。

 

例えば車の運転を考えてみてください。ハンドルを操作しながら、ギアを切り替え、アクセルやブレーキを足で調節する。曲がる時には後方をバックミラーで確認してから、ウインカーを出す。頭の中で常にさまざまな情報を収集・分析・判断しながら、両手両足をてんでバラバラに、しかも思い通りに動かすのです。

 

教習所で初めて車に乗り込んだ時には、ハンドルを握る手に力が入り、アクセルの踏み込み方がわからずにエンストしたり、ブレーキを急に強く踏み込みすぎてつんのめったりしたのではありませんか。最初はそんなぎこちない状態でも、教習を重ねていくうちに、どんどん動きはスマートになり、洗練されていきます。

 

やがて一般公道に出て練習すれば、他の車との関係性を理解しながら運転できるようになります。卒業検定に合格する頃には、ほぼ自由自在に車を操れるようになることでしょう。しかも、車の運転は一度覚えてしまえば、たいていの方が一生忘れることはないはずです。

 

頭を使うことも、車の運転を覚えることと似ています。たとえ運動神経に自信がなくとも、ほとんどの人が運転できるようになるのと同様に、頭を使うことも訓練しだいで誰でもできるようになるのです。しかも、一度頭を使えるようになれば、一生にわたって使い続けることができます。

 

ただし、頭を使えるようになるまでの時間には個人差があります。文章題の難問の場合は、少し込み入った問題文を、そもそも読み通すことのできない子どもがいます。文字面は最後まで追えたとしても、何が問われているのかが理解できない子どももいるでしょう。それまで難しい文章題など解いたことのない子どもにとって、最初のハードルはかなり高いといえます。

 

考えることのない期間を長く過ごしてきた子どもほど、考えられるようになるまでの時間が長くなりがちなことは理解いただけると思います。小学校1年生から考える訓練をするのと、小学校6年生になって始めるのとでは、頭が柔らかくなるまでに必要な時間が異なることも容易に想像がつくはずです。だから考える訓練は、少しでも早い時期から始めてあげてほしいのです。

 

けれども間違ってほしくないのは、何歳から始めたとしても、正しく訓練しさえすれば、必ず頭は柔らかくなることです。やれば必ずきちんと考えることができるようになります。中学から始めたとしても、大学受験で国公立を狙えるレベルぐらいには、まず間違いなく到達します。

 

頭の良し悪し、例えば知能指数と頭を使えるようになるかどうかは、ほとんど関係がありません。実際、私の塾にやってくる子どもたちのほとんどがごく普通の知能レベルです。それでも続けていれば、みんながそれなりに頭を使えるようになっていく。これは非常に興味深い現象であり、かつ子どもたちを指導する立場からすれば、とてつもなく自信を与えてくれる経験です。

 

中には、現時点では頭を使うことはできないけれども、がんばる力を持っている子どもがいます。例えば覚える勉強をがんばって、公立のトップ高校に合格していく子どもたちです。こんな子どもたちが、私の塾にやってくると、初めての思考訓練にもがんばるのです。

 

1時間、2時間と諦めずに頭を使い続ける。その結果、わずか1日で頭を使えるようになるケースが、これまでに何度もありました。その意味では、考える力とがんばる力はセットで考えた方がよいのかもしれません。

見た瞬間に解ける問題に取り組むのは時間の無駄

あるいは、こういう例もあります。小学校3年生の子どもが3人います。彼らに同じ算数の問題を解かせました。一人は1分もかからずに答えを出しました。別の子どもは、少し考えたのでしょうが、放棄しました。もう一人の子どもは、30分考え続けたけれども解くことができませんでした。

 

この問題に挑戦した3人のうち、最も良いトレーニングになったのは誰でしょうか。すぐに解けた子どもにとって、この問題はやる必要がなかった問題といえるでしょう。おそらくこの子は、問題を見た瞬間に解き方がわかった。そんな問題を解くことは時間の無駄でしかありません。

 

少し考えて諦めた子どもには、今後の伸びしろがあると思います。今は諦めるしかなかったとはいえ、それは考え続ける訓練をしていないだけのことです。誰かに励ましてもらえば、あるいはまわりにいる子どもたちがみんな真剣に考えているような場に放り込まれれば、また考える面白さを少しでも知れば、5分、10分と少しずつ長く考えられるようになります。

 

そして、最も良い訓練になったのが、最終的に問題を解くことはできなかったにせよ、30分間考え続けることのできた子どもなのです。

関西教育企画株式会社 灘学習院  学院長

昭和42年に神戸市灘区に学習塾「灘学習院」を開校。開校以来、思考教育に特化した教育を実践している。自分の頭で考える子どもを育てるため独自の「思考教育」を確立。40年以上に及ぶ指導経験と独自のノウハウを蓄積し、現在は教師の研修指導にあたっている。大手学習塾のように受験を目標とした「詰め込み型」「暗記型」ではなく、考える力自体を伸ばす「思考型」の教育法を実践。

著者紹介

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江藤 宏

幻冬舎メディアコンサルティング

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