凶悪犯の98%が食べた…庶民が騙される「統計」のトリック

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ久留米大学教授の塚崎公義先生が、身近なテーマを読み解きます。第5回は、数字のトリックに騙されない、統計を見るときに役に立つ基礎的な知識を伝授します。

グラフのメモリで、見る人を「錯覚」させるテクニック

下のグラフを見てください。どの会社が一番成長しているかわかりますか? 

 

 

グラフ自体の傾きを見ると、C社が一番伸びているように見えますが、実際はそうではありません。右メモリがゼロから始まっていないため、小さな変化が大きく見えるだけなのです。これは実によく使われるテクニックです。

 

データを見ると、C社は10から18に、B社は10から19に増えていますから、B社のほうが伸び率が高いのです。

 

C社の採用担当者が学生に「発展するわが社」をアピールしたい場合には、このグラフを使うといいでしょう。ただ、資料として配布すると学生がトリックに気づく可能性があるので、パワーポイント上でグラフを一瞬だけ見せるほうが安全ですが(笑)。

 

では、A社はどうでしょう? 実は、データを見ると1から2に倍増しているので、伸び率は3社のなかで最も高いのです。A社の採用担当者は、学生を騙すためではなく、学生に正しいイメージを持ってもらうために、右メモリを使ったグラフを見せるべきです。左軸がゼロから20なら、右軸はゼロから2に揃えましょう。そうすれば、学生に正しいイメージを持ってもらえるでしょう。

 

税務署が来たときには、グラフをそのまま見せればいいのです。「我が社に来る暇があったら、躍進しているB社やC社に行かれてはいかがですか?」というわけですね(笑)。

 

「凶悪犯の98%が毎日食べていた食品」は禁止すべき?

厚生労働省が犯罪者の食生活を分析したところ、凶悪犯の98%が共通して毎日口にしている食材が見つかったとします。「そんな危険な食材は直ちに禁止しよう」という法案が提出されたら、あなたは賛成しますか?

 

「凶悪犯の98%が口にしているけれども、凶悪犯以外は滅多に口にしない食材」が発見されたならば、禁止すべきでしょうが、本件については筆者は賛成しませんよ。コメですから(笑)。

 

では、「米国軍人の死亡率は一般国民より低いから、米軍は安全なところだ。安心して志願してほしい」と言われたら、どうしますか? この情報だけでは米軍が安全なところか否か判断できないので、筆者は遠慮しておきます。

 

判断できない理由は、軍隊には定年制度があるからです。老衰で死ぬ軍人はいませんから(笑)。それ以前に病弱な人は軍人になれないでしょうから。

 

20歳から60歳までの、健康診断の結果が良好な男性一般国民と、20歳から60歳までの男性軍人の死亡率を比較して、それでも軍人の死亡率が低かったら、その時はじめて軍隊は意外と安全なのかも、と思うでしょうね。その結果志願するか否かは別の問題ですが(笑)。

統計を絶対視するのは危険

統計は、不正確な場合も稀にありますが、おおむね真実ですから、「過去の統計によると」という言葉には説得力があります。しかし、それゆえに危険な場合も少なくないのです。

 

バブル期の銀行は、不動産購入資金を積極的に貸していました。その一因は、過去のデータを信頼しすぎたことによるのかもしれません。「昨年1年間、不動産購入資金の融資は1件も焦げ付いていません。不動産購入資金の融資は安全なのです」といわれると、「危ないからやめておけ」といいたくても、反論が容易ではなかった、という場合も多いでしょう。

 

統計を見ながら意思決定をするのは、バックミラーを見ながら運転するようなものです。何も見ないで勘だけに頼って運転するよりは遥かに安心ですが、所詮はその程度のものなのです。

 

今でいえば、バブル崩壊後の長期低迷期のデータを見ながら「インフレなど来ない」と言っている人が多いですが、失業者が大勢いた時期と労働力不足の今とでは、客観情勢が違うので、思い込みは危険です。

 

氷に熱を加えると、しばらくは温度が変化しませんが、氷が融け終わってからは温度が上昇を始めます。いまが、その転換点かもしれないわけです。

 

統計を絶対視してはいけない、という事例に「海の水をひと口飲んだら海の水が減る」というものがあります。正しいけれども特段の意味はなく、かえってミスリーディングなものも多いため、あわせて注意が必要でしょう。

表現を変えた「印象操作」にも注意

「私の手術の成功率は9割を誇っています。昨日の手術も大成功でした」という医師と、「これまでの私の手術は、10回に1回は失敗しています。昨日の手術も、失敗でした」という医師と、どちらの手術を受けたいでしょう。同じですね(笑)。

 

「消費税が増税されたら倹約をするという消費者が7割もいる。大不況が来る」と消費税反対派が演説をしたら、どう思いますか。消費が7割減るのではなく、少しだけ消費を減らす消費者が7割いる、ということですので、心配無用ですね。むしろ、消費税が上がっても消費を減らさない消費者が3割もいるなんて、消費税賛成派を勢いづかせるデータのように筆者には見えますが(笑)。

 

本稿は、以上です。

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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