いつの時代にも尽きない「離婚トラブル」。特に、財産をどのように分けるかについては、現金・不動産・保険など、種類によって方法が異なるため、注意が必要です。損をしないためにも、一つひとつの分与方法について学んでおきましょう。西村隆志法律事務所・西村隆志氏の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)より一部を抜粋して解説します。

家具や家電、年金、退職金も財産分与の対象に

◆動産(家財道具、車など)

 

動産の価格を評価しておおよその価格を出す方法もありますが、現物で分け合う方法が多いと思われます。車の価格については、中古車買取店に見積りを出してもらったりして、買取価格を目安にするとよいでしょう。

 

◆株式やゴルフ会員権など

 

これらは投資目的で購入されることも多いのですが、結婚してからの預貯金で購入している場合などは、夫や妻の単独名義でも財産分与の対象となります。有価証券は時期によって評価額が変動するので、通常は離婚成立時(分与時)の評価額を基準としますが、離婚前に別居していた場合などは、別居時の評価額を基準とすることもあります。株式の分与に譲渡益が出た場合は、株式の名義人に譲渡所得税がかかります。

 

◆保険・保証料

 

●生命保険

 

離婚前に満期を迎えている生命保険金は、受取人がどちらでも夫婦の共有財産として対象になります。満期を迎えていない生命保険の場合は、財産分与の基準とする時点においての解約返戻金相当額を共有財産としての財産分与額算定の基礎とすることが一般的です。解約返戻金の額は、契約者が保険会社に確認できます。ただし、解約返戻金のないいわゆる掛け捨てタイプの生命保険には適用されず、財産分与の対象とはなりません。

 

●火災保険

 

火災保険については、不動産を住宅ローンで購入したような場合に特に注意が必要です。たとえば、不動産を購入する際に、35年ぐらいのローンで購入することはよくあります。その不動産を購入する際に、併せて火災保険をローン期間に相当する期間(この場合、35年間)の保険料を最初に一括して支払うという場合があります。

 

そうすると、たとえば、購入して10年で離婚をすることになり、どちらか一方が不動産を取得する、あるいは、売却をして売却代金を折半することになった場合に、この火災保険についてもどのような取扱いにするのかを併せて取決めをしておく必要があります。

 

未到来の期間25年分の火災保険料を、不動産を取得した側が引き継ぐということになれば、その時点での解約返戻金の半額に相当する金額を他方に分与するなどの方法が考えられます。また、不動産を売却することになった場合には、火災保険の解約返戻金が入ってきますので、その入ってきた火災保険の解約返戻金を半分ずつ取得するといった取決めをすることが考えられます。

 

●住宅ローンの保証料

 

この火災保険と併せて、不動産を売却するような場面で忘れてはならないのが住宅ローンの保証会社に支払った保証料の返戻金です。

 

住宅ローンを組むときにはよく住宅ローンを貸し出す金融機関の系列の保証会社に保証料を支払うことがあります。この保証料は不動産を購入するときに保証期間に応じた保証料を支払っていることが多いです。そのため、途中で不動産を売却して、住宅ローンを完済したときには、保証会社の保証業務が終了するため、残りの保証期間に応じた保証料が戻ってくる場合があります。

 

不動産を売却する場合には、保証料が戻ってきたときのことも想定をして、これを誰がいくら取得するのかをあらかじめ取り決めておいたほうがよいでしょう。

 

●学資保険

 

学資保険についても、夫婦が積み立ててきたものですので、基本的には財産分与の対象となります。学資保険に関しては、たとえば、父親の名義で契約をしていたが、母親が子どもの親権者になったことから、学資保険の名義を母親に変えてその後は母親が掛金を支払っていくという取決めがよくあります。

 

学資保険の契約時期にもよりますが、離婚が成立した段階ですぐに解約するよりも、契約を継続していったほうが経済的なメリットがあるため、そのような取決めがなされることが多くあります。

 

◆退職金

 

退職金については、賃金の後払という考え方から、夫婦が婚姻している間に協力して築いた財産と見なされ、財産分与の対象となります。夫が在職中の場合、将来支払われる退職金についても、対象として認められる傾向が強くなっています。

 

もっとも、予定される退職が相当先であるような場合には、退職金を財産分与の対象から除外することもあります。退職金がすでに支払われているのか、将来支払われる場合であるか、勤続年数や婚姻年数などで財産分与の対象になる額や割合などが変わります。なお、退職金が共有財産の対象となるのは、婚姻してから婚姻関係が破綻する時期までの部分にあたる額となります。

 

●第三者名義、法人名義

 

第三者名義や法人名義は、夫婦とは他人ですから原則として財産分与の対象とはなりません。もっとも、夫婦共同で家業に従事している家族共同経営が数多くあります。

 

このような場合は、通常は家族経営の代表者である夫の財産となっていることがよくあります。家族経営のケースについては夫婦の寄与分(事業に貢献したことや働いたことの割合)を認定して、これを財産分与の対象とすることもあります。

 

また、実態は個人経営なのに、税務対策上法人名義にしているケースもありますが、この場合、名義のいかんにかかわらず、財産分与の対象にすることもあります。

 

法人といっても、さまざまなタイプのものがあり、たとえばこれまで個人事業主であったのに、あるときから株式会社にするというケースや、当初は個人の開業医であったのが医療法人になるというケースもあります。

 

このような場合、個人事業主であったときには、事業所得というかたちで所得が発生していましたが、法人化することによって役員報酬というかたちで所得を得ることになります。もし、この役員報酬の金額を大幅に下げられるようなことがあれば、婚姻費用や養育費にも影響が及んでくる可能性があります。構成員に利益の分配を予定している株式会社などとそのような分配を予定していない医療法人などでどのように収入を評価するかは変わってくるのです。

 

このようなケースは、きわめて専門性が高くなるため、弁護士に相談することを強くおすすめします。

 

◆債務(借金)

 

自分のために個人的に借りた債務は、清算の対象にはなりません。ただし、結婚生活のために生じた債務は、夫婦共有の債務として財産分与の対象となります。

 

 

西村隆志

西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士

 

本連載で紹介する事例はフィクションです(実際の裁判例は除く)。登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在の人物のものとは関係ありません。また、本連載は2019年8月5日刊行の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)の一部を抜粋・再編集した記事です。最新の法令等には対応していない場合もございますので、予めご了承ください。

財産分与・慰謝料・親権に強い弁護士が明かす キッチリけりがつく離婚術

財産分与・慰謝料・親権に強い弁護士が明かす キッチリけりがつく離婚術

西村隆志、山岡慎二、福光真紀、畝岡遼太郎

東邦出版

泣き寝入りしないために、後悔しないために。 自分が思い描く未来を手に入れるために。 財産分与・慰謝料・親権に強い法のプロが教える 「勝ち取る」ための離婚交渉術。 「もう離婚する! 」と決心するだけでも大変なのに…

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