在宅介護をしていた弟…見返り求め、「遺言書」を故意に紛失?

世間一般に広く知られている「遺言書」ですが、正確には2つの種類に分類されます。15歳以上なら誰でも書ける「自筆証書遺言」と、公証人役場の公証人に作成してもらう「公正証書遺言」です。財産の分配法、家族への想いを書き記して一安心…かと思いきや、親族が遺言書を隠してしまったり、偽造したりする危険性があるため、油断は禁物です。そこで本記事では、大坪正典税理士事務所の所長・大坪正典氏が、相続で起こり得るトラブルについて解説します。

保管されていたはずの遺言書が消えていた

遺言書、特に「自筆証書遺言」の場合は、保管している間になくなってしまうことがあり得ます。私が過去に関わった相続案件の中には、相続人の一人が故意に遺言書を紛失させたのではないかとの疑念を抱かせるようなケースすらありました。

 

被相続人は年老いた母親で、相続人は長男、次男、三男、長女の4人兄弟でした。このうち、相続をめぐって長男と次男が対立していました。

 

長男は、母親は遺言書を残しており、その中で不動産は長男に与えられ、残りの兄弟姉妹には金銭だけが渡るように指定されているはずだと主張しました。ところが、長男が、母親の暮らしていた住まいの中を探してみたところ、遺言書が保管されていたはずのところにそれらしきものはありませんでした。

 

一方、次男は、母親の身体が不自由になっていたことから、その生前、介護のために毎日のように母親の家を訪ねていました。そのため、母親が遺言書を作成していたこと、さらにはそれを保管していた場所についても知っていた可能性があります。

 

遺言書の内容が、長男が主張していたような内容のものであれば、次男の相続できる財産は、法定相続分よりも少なくなるはずでした。つまり次男にとって、母親の遺言書が存在することは望ましいことではなかったわけです。

 

相続人であれば、誰でも、遺言書を見つけたときに、その中身を覗きたくなる誘惑に駆られるでしょう。さらに、その中身が自分にとって不利な内容であれば、「これさえなくなれば……」という思いを抱くのもまたごく自然なことに違いありません。

 

結局、遺言書は見つからず、そのため遺産分割は法定相続分に従って行われることになりました。しかも、次男は、母親の介護をしていたことを「寄与分」として主張しました。寄与分とは、被相続人の財産を維持・増加するうえで特別の「寄与」があった相続人の相続分については、寄与を金銭的に評価したうえで加算して公平を図るという制度です。つまり、寄与分が認められた場合、次男の相続分はより多くなるわけです。

 

最終的には、次男の主張通り寄与分を加味した法定相続分に従って遺産分割を行うことになりました。長男は、遺言書の中で自分に与えると記されていたはずの不動産をどうしても手に入れたかったため、自分が前々から持っていた別の不動産を売却して、そのお金を代償金として次男ら他の相続人に与えることを余儀なくされました。

 

遺言書を故意に紛失?
遺言書を故意に紛失?

「公正証書遺言」にも偽造されるリスクは付きまとう

このように自筆証書遺言はなくなってしまうリスクがある一方、公証役場で作成してもらう「公正証書遺言」は紛失の恐れはありません。また、偽造・変造の危険性もないと一般的にいわれています。

 

しかし、この偽造・変造の危険性がないという点については、個人的には疑問を抱いています。公正証書遺言だからといって、「100%偽造されることはない」と断言できるわけではないのです。こんな事例がありました。

 

Aさんの亡くなった母親は、亡き父から相続した400坪の土地に、自宅の他、Aさんの自宅、賃貸アパート2棟を建てて住んでいました。母親が亡くなってしばらくしてから、母親が生前親しくしていた友人の夫で建築関係者の甲がAさんを訪ねてきました。甲は生前に母親から預かったとする公正証書遺言を見せたうえ、自分が遺言執行者である旨を伝えたのです。

 

内容は、「自分が死んだらAさんの自宅と弟のBの自宅を新築してほしい。建築代金は現在の住まいとアパートの敷地相当(200坪)を売却した代金を充当してほしい。甲を執行者として指名、建築が完了するまで売却代金を全額預ける。また土地売却価格や売却先などはすべて甲に一任する」というものでした。建築業者はその遺言を執行することを宣言し、母親の友人の夫ということで兄弟2人も信じてこれを了承しました。

 

ところが、甲は建築代金に見合えばいいものと、指定された敷地を相場(市場価格)の半額以下で甲が経営する別会社に売却し、別会社は同時にその土地で戸建分譲を始めたのです。結局、甲は格安の価格で仕入れた戸建分譲で大儲けしました。

 

ところが兄弟2人の新築した自宅は、本来の土地売却価格に到底見合う仕様のものではなく、分譲された住宅と何ら変わりのない家屋が引き渡されました。

 

これに対して、兄弟2人から詐欺行為ではないかとの争いに発展し、本物であるとしても知識のなかった母親が公正証書遺言を甲に無理やり作成させられたものと主張しましたが、結局、明確な立証ができず、この遺言が無効になることはなかったのです。母親が作成したとされる公正証書遺言は、果たして甲夫妻を信じて作成されたものなのか、分からずじまいでこの争いは幕を閉じました。

大坪正典税理士事務所 所長 税理士

神奈川県横浜市出身。相続、事業承継、都市開発、企業再生支援業務などを中心に携わる。他士業とのコラボレーションによるワンストップサービスを提供。著書に『もめない相続ABC』(共著、日本相続新聞社)、『はじめての相続・贈与』(共著、明日香出版社)などがある。

著者紹介

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大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

最新事例を追加収録! 「長男だからって、あんなに財産を持っていく権利はないはずだ」 「私が親の面倒を見ていたのだから、これだけもらうのは当然よ」……。 相続をきっかけに家族同士が憎しみ合うようになるのを防ぐ…

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